甲子園を目指した男装美少女のひと夏の経験

牧村燈

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第5章

8回表①/シャワールーム

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<8回表>

 あけぼの高校にとって、永遠に終わらないんじゃないかと思うほど長かった7回裏が終わったのは、花畑強打の三男坊、サクラのお蔭だと言ってもいいだろう。スコアを9-6とする殊勲打を放った男ではあるが、これが超のつく鈍足。2塁ランナーも楽にホームインしたライトフェンス直撃打で、普通に二塁を狙ったのだが、まだ一二塁間の真ん中くらいを走っている内に、ライトからの返球がセカンドに届いていた。サクラは、ファーストに戻る素振りもなくタッチアウト。わかたか学園の反撃の気勢を一気に冷ましてしまった。続く9番も初球を打ってサードゴロに終わり7回裏が終了した。流れというのは得てしてそういうものである。

 8回の表、あけぼの高校の攻撃。打席には佐藤キャプテンがいた。わかたかの打線と今のマモルの力量から考えるとあと2回を残して3点差は危険水域である。せめてあと1~2点は離しておかないと。

 冷静に考えれば、甲子園を争う決勝まで駒を進め、しかもあと2回で3点をリードしている場面にある。去年の初戦敗退を思うと、信じられないような快進撃だった。この一生に一度かも知れないチャンスを生かすも殺すも俺のこの一打次第だ。何としても塁に出て、何としても帰ってくる。

 カキーン

 気合いを込めた打球が、右中間に伸びていく。ライトとセンターが追い掛けたが、そのド真ん中にボールは落ちた。佐藤は2塁も蹴って一気に3塁に向かった、返球されたボールを中継のショートに戻った時には、佐藤キャプテンは悠々と3塁ベースに立ち、ズボンについた土を払っていた。

 ノーアウト3塁。よし、まずは1点だ。

「よし、次もいこう、俺を返してくれよ」

 手を叩いて打者を鼓舞するキャプテンの姿に、ベンチも再び活気づいた。

<救護室>

 救護室に戻った山本先生は、施設課での経緯を花畑弟に伝えた。

「さすがは先生だ。やっぱり俺の目に狂いはなかったな。それじゃあ先生がエロ守衛を悩殺して貸してもらったシャワールームに移動するぞ」

「待ってよ。守衛さんはどうするのよ」

「心配するなよ、簡単だから。まずは先生がエロ守衛にのぞきをさせる。先生がキャーという。俺がそれを捕まえる。鍵を取り上げて。とりあえず黙って鍵を貸しといてくれれば、のぞきの罪は許してやるってことにする。どうだ完璧なシナリオだろう」

「何、そののぞきをさせるっていうのは」

「だって、それ先生のシナリオだろう。エロ守衛はその気満々で鍵を持ってやってくるんだろう。ちゃんと演じてくれよな、先生。よし、さあ行こうぜ、うの。今日からお前は、俺の可愛いお人形だ。先生が用意してくれたシャワールームでじっくりと身体検査してやるから楽しみにしてな。甲子園を賑わす美少年エースが、実は俺のオモチャだなんて、たまらねえな。是非ともうのには甲子園でも大活躍して欲しいもんだ。甲子園に出たいなら、俺の言うことには逆らえねえよね、なっ、うの」

「......」

<シャワールーム>

 女子シャワールームの前で守衛は、山本先生が来るのを今や遅しと待っていた。そこに山本先生が駆け寄っていく。何やら話を交わした二人がシャワールームに消えた。多少揺さぶられたとしても、真面目な守衛なら外で待つという可能性もあったが、呆気なく先生の誘惑に掛かかったようだ。全くオヤジっていうやつは若い女にはからっきし弱いもんだな、と花畑弟はクスリと笑う。客観的にはこの時点でアウトだが、言い訳の利かない状態を作るには、先生のシャワーを覗いてもらうことだ。

 数分待って花畑弟はシャワールームに向かった。打ち合わせ通りドアには施錠はされていなかった。音を立てないようにそっとドアを開けて中に侵入する。脱衣所には誰もおらず、奥からシャワーの音がした。足音を忍ばせてその方向に進むと、守衛がシャワーの音のするカーテンの前にいた。しかもご丁寧に手には先生の下着まで握っている。一発レッドカードだ。

パシャリ

 ストロボが光った。花畑弟が携帯で写真を撮ったのだ。

「何をしているんですか!」

 花畑弟の声に驚いて、守衛は文字通り腰を抜かした。

「あ、い、いや。俺は何も見てないぞ、いや、何もしてないんだ。お、お前ら、ど、何処から入ってきたんだ、ここは女子のシャワー室だぞ」

 後退りしながら体裁を整えようとするが、焦りのあまり言ってることも支離滅裂、おまけに腰も立たないようだ。その時、シャワールームのカーテンを開き、バスタオルを巻いた山本先生が顔をのぞかせる。目の前にいた守衛に向かって。

「きゃー、何、何でこんなところにいるんですか、おじさま、いや、それ持ってるの私の下着ですよね。返してください」

「守衛さん、覗きはダメですね。現行犯です。警察呼びましょう」

「いや、これはこの女が」

「見張っていてとお願いしたのに、どうして覗いてるんですか?それにどうして下着を、持っているの?おじさまを信用していたのに。酷いわ」

 バスタオルの衣装の山本先生の迫真の演技に、守衛も全面降伏である。

「すまなかった。出来心なんだ。許してくれないか」

 はい、自供。花畑弟がエンディングに入る。

「仕方がないですね。それじゃあ私が先生にお願いしてみますので、守衛さんは任務に戻ってください。ここの鍵は後でお返しにあがりますから」

「す、すまない。何とか穏便に、な、何とか穏便にお願いしますよ」

 守衛は頭を床に擦り付けんばかり懇願する。

「まあ、先生は優しい人ですから、任せておいてください。先生もショックが大きいと思うので、少しここで落ち着かせてから話しますよ」

「ありがとう、恩にきます。本当に申し訳ありませんでした」

 逃げるように守衛は出て行った。

「はい、先生、お見事、お見事。俺たちいいバディになれそうだな。さて、本題にはいろうか」

 花畑弟は手を叩いて山本先生の演技を褒め称えた。そこに守衛に入れ替わって、うのが一年3人組に連れられて入って来る。

「メインディッシュのお出ましだ」

 恭しくうのを迎え入れた花畑弟は、これみよがしにドアの鍵を締める。こうしてうのの身体検査会場の準備は全て整った。

(続く)
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