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第5章
8回表②/身体検査
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<8回表>
絶対エースのうのを欠き、一気に3点差に詰められたあけぼの高校は、この攻撃で何とか追加点をあげて逃げ込みをはかりたいところだったが、そこに佐藤キャプテンの意地の3塁打が飛び出した。再び活気づいた打線は持地前の粘りを発揮する。続く5番はじっくりとボールを見極める待球策で粘って四球で出塁すると、今度はストライクが欲くなった投手心理を巧みについた6番の初球スクイズが決まって10点目を奪取した。
「さあ、もう1点だ」
生還した佐藤に背中をポンと叩かれた亜7番のエンゾウは、この試合ここまでいぶし銀の働きをして来た。昨日の事件に関わった一人として、うのの夢を本気で叶えたい。思いの強さはマモルやキイチにも負けないものを持っていた。ワンナウト1塁。もう1点を取りに行きたい場面である。
花畑弟に比べれば大きく劣る控え投手のボールは、エンゾウには良く見えていた。狙うならここしかない。入念な素振り。青空に浮かぶ雲を仰ぎ見て、その白さに気持ちを整える。今こそ、うののあの努力の証の脚のアザに、そして真珠のように見えた美しいうののお尻に捧げる一打を。
キュイーン
金属バット特有の打撃音が響き、ライト線にボールが転がる。1塁ランナーは3塁へ向かい、打ったエンゾウも2塁へヘッドスライディング。判定はセーフ。ここで再びワンナウトランナー2.3塁のチャンスを作り出した。バッターは、うのに代わって出場したケンタの今日初打席である。
<シャワールーム>
バスタオルを身体に巻いた山本先生と、ユニフォーム姿のうのを前に、
「おお、なかなかいい眺めだ。やっぱり神はいるんだなあ。なあ、うの。お前みたいにみんなに嘘をついてコソコソ悪いことをしていると、こんな報いを受けることになるんだよ。ねえ、先生。先生もそんな悪い奴の嘘を匿うようなことをするから、こんなことになったんですよ。深く反省しないといけませんよ」
花畑弟はうのに顔を近づけると、
「さて、うの。身体検査はじめるぞ。丸裸にしてたっぷり可愛がってやるからな。楽しみにしてろよ」
と宣言した。
<引き続き8回表>
スコアは10-6、ワンナウト2.3塁で登場したケンタもまた、昨日の事件に関わってこの試合に臨んだ一人である。ケンタは元々サードのレギュラーだったが、エースのマモルがうのの登場でサードに回ってきた為に控えに落ちた。うのの影響を最も受けたとも言える。それ故に昨日の計画にも積極的に関わり、あわよくばうのに目に物を見せてやろうとも思っていた。しかし、それはとんでもない逆恨みだった。女子の身で、しかもあの身体で、うのは自分たちには想像すら出来ないほどの努力の末に今を掴み取っていたのだ。うのの夢の為にも、チャンスで巡ってきたこの場面は、何としても得点に関わる仕事をしたい。
初球、2球目は見送った。いずれも外角に外れるボールだった。味方が追い上げはじめたところだけに、これ以上点をやりたくない気持ちが強いようだ。そうなるとどうしてもインを攻めるよりも外角に逃げたくなる。しかし、このカウントではもうこれ以上ボールは投げられまい。このジレンマこそが大チャンスだ。次も外角、しかし3ボールにはしたくないとなれば、あまり際どいところには来ないだろう。第3球は案の定の外角だ、しかも見事に甘い。
キィーーーン
エンゾウは思い切り踏み込んでライト方向に流し打った。いい当たりではあったが、少し上がり過ぎている。しかし、風がこれを後押しした。ライトが一歩、また一歩と下がっていく。フェンスギリギリまで下がったところでジャンプ。右翼手は何とかグローブの先にボールを捕えた。それを見た2.3塁のランナーが揃ってタッチアップ。3塁ランナーは悠々と両手を挙げてホームインした。あけぼのに11点目が入った。
<シャワールーム>
シャワールームでは、わたかたの一年3人組が用意してきた機材のセッティングをはじめた。山本先生の妄想の中では、三角木馬や拘束具のようなものが組み立てられるのかと思って見ていたが、どうもそういう類のものではなさそうだ。まあ普通に考えれば、そんなものを急に用意することが出来ないのは自明の理だが、追い詰められた状況にあるとそんな最悪なことも考えてしまう。うのも3人組がどこから何を持ってきたのだろうと、作業を見ていたのだが、どうも身体検査をするようなセットではない。
「何なんだこれは?」
うのは花畑弟に向かって怪訝そうな声で尋ねた。
「うの、お前これが分からないのか。これはなベンチプレスっていうんだ。これからお前の身体検査を始めると言っただろう」
何の外連味もなく花畑弟は答える。
「し、じゃあ、これは何だ?」
うのは続けて聞いた。
「背筋計じゃないか。まさかウエイトトレーニングをやってないわけじゃないよな」
得意げに答える花畑弟。なるほど、そういうことかとうのは合点した。
「いや、勿論やってるさ。だけどお前、ずっと身体検査をするって言ってたよな?」
「言ったさ、身体検査だ。丸裸にしてやるってな」
「花畑、それ、もしかして体力測定の間違いじゃないのか?」
「......」
絶句した花畑弟は、一瞬。あれ?という顔をしたが、
「うちじゃ、これも含めて身体検査っていうんだ。これでうのの身体能力を測ってやろうっていうわけさ。女子がいくら頑張ったって男子には敵わないってことをしっかり教えてやるよ」
そういうことだったんだ、山本先生は、シャワールームを占拠する為にあんなに大胆不敵で大人びた行動を見せた花畑弟が、一方ではこんな子供じみたことを言い出したのを可笑しく思った。踊らされて、こんな恰好をしている自分は何だったのだろう、と思うとちょっと悔しい。
つまり、花畑弟によるうのの身体検査、改め体力測定がはじまった。
(続く)
絶対エースのうのを欠き、一気に3点差に詰められたあけぼの高校は、この攻撃で何とか追加点をあげて逃げ込みをはかりたいところだったが、そこに佐藤キャプテンの意地の3塁打が飛び出した。再び活気づいた打線は持地前の粘りを発揮する。続く5番はじっくりとボールを見極める待球策で粘って四球で出塁すると、今度はストライクが欲くなった投手心理を巧みについた6番の初球スクイズが決まって10点目を奪取した。
「さあ、もう1点だ」
生還した佐藤に背中をポンと叩かれた亜7番のエンゾウは、この試合ここまでいぶし銀の働きをして来た。昨日の事件に関わった一人として、うのの夢を本気で叶えたい。思いの強さはマモルやキイチにも負けないものを持っていた。ワンナウト1塁。もう1点を取りに行きたい場面である。
花畑弟に比べれば大きく劣る控え投手のボールは、エンゾウには良く見えていた。狙うならここしかない。入念な素振り。青空に浮かぶ雲を仰ぎ見て、その白さに気持ちを整える。今こそ、うののあの努力の証の脚のアザに、そして真珠のように見えた美しいうののお尻に捧げる一打を。
キュイーン
金属バット特有の打撃音が響き、ライト線にボールが転がる。1塁ランナーは3塁へ向かい、打ったエンゾウも2塁へヘッドスライディング。判定はセーフ。ここで再びワンナウトランナー2.3塁のチャンスを作り出した。バッターは、うのに代わって出場したケンタの今日初打席である。
<シャワールーム>
バスタオルを身体に巻いた山本先生と、ユニフォーム姿のうのを前に、
「おお、なかなかいい眺めだ。やっぱり神はいるんだなあ。なあ、うの。お前みたいにみんなに嘘をついてコソコソ悪いことをしていると、こんな報いを受けることになるんだよ。ねえ、先生。先生もそんな悪い奴の嘘を匿うようなことをするから、こんなことになったんですよ。深く反省しないといけませんよ」
花畑弟はうのに顔を近づけると、
「さて、うの。身体検査はじめるぞ。丸裸にしてたっぷり可愛がってやるからな。楽しみにしてろよ」
と宣言した。
<引き続き8回表>
スコアは10-6、ワンナウト2.3塁で登場したケンタもまた、昨日の事件に関わってこの試合に臨んだ一人である。ケンタは元々サードのレギュラーだったが、エースのマモルがうのの登場でサードに回ってきた為に控えに落ちた。うのの影響を最も受けたとも言える。それ故に昨日の計画にも積極的に関わり、あわよくばうのに目に物を見せてやろうとも思っていた。しかし、それはとんでもない逆恨みだった。女子の身で、しかもあの身体で、うのは自分たちには想像すら出来ないほどの努力の末に今を掴み取っていたのだ。うのの夢の為にも、チャンスで巡ってきたこの場面は、何としても得点に関わる仕事をしたい。
初球、2球目は見送った。いずれも外角に外れるボールだった。味方が追い上げはじめたところだけに、これ以上点をやりたくない気持ちが強いようだ。そうなるとどうしてもインを攻めるよりも外角に逃げたくなる。しかし、このカウントではもうこれ以上ボールは投げられまい。このジレンマこそが大チャンスだ。次も外角、しかし3ボールにはしたくないとなれば、あまり際どいところには来ないだろう。第3球は案の定の外角だ、しかも見事に甘い。
キィーーーン
エンゾウは思い切り踏み込んでライト方向に流し打った。いい当たりではあったが、少し上がり過ぎている。しかし、風がこれを後押しした。ライトが一歩、また一歩と下がっていく。フェンスギリギリまで下がったところでジャンプ。右翼手は何とかグローブの先にボールを捕えた。それを見た2.3塁のランナーが揃ってタッチアップ。3塁ランナーは悠々と両手を挙げてホームインした。あけぼのに11点目が入った。
<シャワールーム>
シャワールームでは、わたかたの一年3人組が用意してきた機材のセッティングをはじめた。山本先生の妄想の中では、三角木馬や拘束具のようなものが組み立てられるのかと思って見ていたが、どうもそういう類のものではなさそうだ。まあ普通に考えれば、そんなものを急に用意することが出来ないのは自明の理だが、追い詰められた状況にあるとそんな最悪なことも考えてしまう。うのも3人組がどこから何を持ってきたのだろうと、作業を見ていたのだが、どうも身体検査をするようなセットではない。
「何なんだこれは?」
うのは花畑弟に向かって怪訝そうな声で尋ねた。
「うの、お前これが分からないのか。これはなベンチプレスっていうんだ。これからお前の身体検査を始めると言っただろう」
何の外連味もなく花畑弟は答える。
「し、じゃあ、これは何だ?」
うのは続けて聞いた。
「背筋計じゃないか。まさかウエイトトレーニングをやってないわけじゃないよな」
得意げに答える花畑弟。なるほど、そういうことかとうのは合点した。
「いや、勿論やってるさ。だけどお前、ずっと身体検査をするって言ってたよな?」
「言ったさ、身体検査だ。丸裸にしてやるってな」
「花畑、それ、もしかして体力測定の間違いじゃないのか?」
「......」
絶句した花畑弟は、一瞬。あれ?という顔をしたが、
「うちじゃ、これも含めて身体検査っていうんだ。これでうのの身体能力を測ってやろうっていうわけさ。女子がいくら頑張ったって男子には敵わないってことをしっかり教えてやるよ」
そういうことだったんだ、山本先生は、シャワールームを占拠する為にあんなに大胆不敵で大人びた行動を見せた花畑弟が、一方ではこんな子供じみたことを言い出したのを可笑しく思った。踊らされて、こんな恰好をしている自分は何だったのだろう、と思うとちょっと悔しい。
つまり、花畑弟によるうのの身体検査、改め体力測定がはじまった。
(続く)
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