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scene1
朗読
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催眠状態の相手を支配下に置くのに必要な要素のひとつに『不動』というキーファクターがある。術者は、被験者のどんな反応にも動じることなく、一定のリズムであるべき方向に導いていくのが役目だ。術者の迷いは、不安定な心理状態の被験者を混沌に落とし、施術の破綻を招く。このシナリオの作者は催眠療法に深く精通しているに違いない。楓は既にトランス状態にあった。ここで止めてしまうことは、楓の精神を傷つけることに繋がりかねなかった。もう、止められない。
私は次のシナリオへ歩を進める為に、犯人に指示された2枚のシートを楓に差し出した。
「このシートに書かれていることを朗読しなさい」
「朗読?ですか?」
ワケのわからない要求に戸惑う楓に、コートを脱いで椅子に腰かけるようにと促した。立春を過ぎたとは言え、外はまだ寒い。フワフワした毛が暖かそうな白いセーターに膝丈の水色のスカート。座ると膝下が少し見える程度の清楚な佇まいは、いつもの授業の時と変わらない。
「そうだ。気持ちを込めて。声優になったつもりで読みなさい」
思わず見惚れそうになるところを我慢して、私はいつもとは違う冷徹な声で命令を下した。
「はい、わかりました」
言われるままに楓は朗読を始める。
***************************************
『学園の桜は、新入生を迎えるために咲くものだ。今年もいつもと同じように咲き誇った花びらの一枚が、ヒラヒラと舞い降り、一人の新入生の髪に留まった。それに気づいたのが私だけだったことを、君は知っていただろうか?新入生の名は楓という。私はその可憐な少女を、ひと目見た瞬間から恋に落ちていた』
楓は気づいていた。その花びらに注がれていた視線の先を知っていた。
〈先生は知らなかったでしょう?私があの花びらを大切にとっておいたことを。先生。先生が私のことを見ていたこと、私、知ってたのよ。え?気持ち悪かったろうって?いいえ、その逆よ。私、嬉しかったの。とっても。本当よ。先生に見詰められていると、身体が熱くなっくるの。どうしてなのかしら。そう、あの水泳実習の時だって、本当はもっと私だけを見ていて欲しかった。他の子なんか撮らないで、私だけを撮って欲しかったの〉
教授は楓の水着の動画を見て、何度もオナニーをしていたのだと、楓に打ち明けた。楓は恥ずかしそうな顔をしながら「嬉しい」と答えた。
〈ねえ、先生。楓のこともっと知りたい?楓にどうして欲しいと思っているの?教えて。私、先生がして欲しいと思うことをしてあげたいの〉
++++++++++++++++++++++++++++++
楓が朗読しているのは、犯人に見透かされて露わにされた私自身の思いの丈だった。この世にも恥ずかしい自分自身の妄想を聞きながら、私には一体何が虚構で何がリアルなのか、今のこの状況も含めてその境界が分からなくなっていった。トランス状態とはいえ聡明な楓は、この小説の一節が私のリアルを映したものであることを察しているであろう。気持ち悪いと思っているかも知れない。私はこれからどうされてしまうんだろうと怯えているかも知れない。
本意ではない。私は楓にこんな気持ちを味あわせたくなどなかった。何の為に4年間もの間、何も言わずに見守ってきたのだろうか。そう口惜しく思う自分がいる一方で、楓の口から恥じらいながら零れ出る『オナニー』という言葉に、身体の一部が反応していることもまた、紛れもない事実だった。
4年間も我慢してきたのだ。それにこれは無理矢理にやらされていることじゃないか。それにこのまま催眠を深めていけば、楓にこのことを忘れさせることも出来るかも知れない。私の中の黒い本音が、守り抜いてきた純真を汚していった。
楓の思考は、すでに私に何かされることを前提に想像を膨らませているであろう。そうなるように導かれている。それはこのストーカーエロ教授である私から施されるだろう変態チックな行為の妄想だ。楓が想像力豊かな聡明な才媛であればあるほど、その淫らな妄想は色鮮やかに、そして感覚さえ伴って楓の身体を震わせる。清楚な胸の蕾はいつの間にか膨らみ、スカートに隠されている股間の薄布も、既に湿り気を帯びているに違いあるまい。
見たい。そのすべてを。今、この部屋には二人しかいないのだ。私は残されていた理性のタガを外すと、楓に次のシナリオの指令を下した。
「よし、いいだろう。それじゃあ、続きを読みなさい。今度は実際に書いてある指示の通りに身体を動かしなさい」
「よ、読むだけじゃないんですか?」
「反論も質問も受け付けない。君はただ言われた通りにやればいいのだ。一流女優になったつもりで演じなさい」
「は、はい。分かりました……」
楓はふぅとひとつため息をして、ゆっくりとシートに目を落とした。
(続く)
私は次のシナリオへ歩を進める為に、犯人に指示された2枚のシートを楓に差し出した。
「このシートに書かれていることを朗読しなさい」
「朗読?ですか?」
ワケのわからない要求に戸惑う楓に、コートを脱いで椅子に腰かけるようにと促した。立春を過ぎたとは言え、外はまだ寒い。フワフワした毛が暖かそうな白いセーターに膝丈の水色のスカート。座ると膝下が少し見える程度の清楚な佇まいは、いつもの授業の時と変わらない。
「そうだ。気持ちを込めて。声優になったつもりで読みなさい」
思わず見惚れそうになるところを我慢して、私はいつもとは違う冷徹な声で命令を下した。
「はい、わかりました」
言われるままに楓は朗読を始める。
***************************************
『学園の桜は、新入生を迎えるために咲くものだ。今年もいつもと同じように咲き誇った花びらの一枚が、ヒラヒラと舞い降り、一人の新入生の髪に留まった。それに気づいたのが私だけだったことを、君は知っていただろうか?新入生の名は楓という。私はその可憐な少女を、ひと目見た瞬間から恋に落ちていた』
楓は気づいていた。その花びらに注がれていた視線の先を知っていた。
〈先生は知らなかったでしょう?私があの花びらを大切にとっておいたことを。先生。先生が私のことを見ていたこと、私、知ってたのよ。え?気持ち悪かったろうって?いいえ、その逆よ。私、嬉しかったの。とっても。本当よ。先生に見詰められていると、身体が熱くなっくるの。どうしてなのかしら。そう、あの水泳実習の時だって、本当はもっと私だけを見ていて欲しかった。他の子なんか撮らないで、私だけを撮って欲しかったの〉
教授は楓の水着の動画を見て、何度もオナニーをしていたのだと、楓に打ち明けた。楓は恥ずかしそうな顔をしながら「嬉しい」と答えた。
〈ねえ、先生。楓のこともっと知りたい?楓にどうして欲しいと思っているの?教えて。私、先生がして欲しいと思うことをしてあげたいの〉
++++++++++++++++++++++++++++++
楓が朗読しているのは、犯人に見透かされて露わにされた私自身の思いの丈だった。この世にも恥ずかしい自分自身の妄想を聞きながら、私には一体何が虚構で何がリアルなのか、今のこの状況も含めてその境界が分からなくなっていった。トランス状態とはいえ聡明な楓は、この小説の一節が私のリアルを映したものであることを察しているであろう。気持ち悪いと思っているかも知れない。私はこれからどうされてしまうんだろうと怯えているかも知れない。
本意ではない。私は楓にこんな気持ちを味あわせたくなどなかった。何の為に4年間もの間、何も言わずに見守ってきたのだろうか。そう口惜しく思う自分がいる一方で、楓の口から恥じらいながら零れ出る『オナニー』という言葉に、身体の一部が反応していることもまた、紛れもない事実だった。
4年間も我慢してきたのだ。それにこれは無理矢理にやらされていることじゃないか。それにこのまま催眠を深めていけば、楓にこのことを忘れさせることも出来るかも知れない。私の中の黒い本音が、守り抜いてきた純真を汚していった。
楓の思考は、すでに私に何かされることを前提に想像を膨らませているであろう。そうなるように導かれている。それはこのストーカーエロ教授である私から施されるだろう変態チックな行為の妄想だ。楓が想像力豊かな聡明な才媛であればあるほど、その淫らな妄想は色鮮やかに、そして感覚さえ伴って楓の身体を震わせる。清楚な胸の蕾はいつの間にか膨らみ、スカートに隠されている股間の薄布も、既に湿り気を帯びているに違いあるまい。
見たい。そのすべてを。今、この部屋には二人しかいないのだ。私は残されていた理性のタガを外すと、楓に次のシナリオの指令を下した。
「よし、いいだろう。それじゃあ、続きを読みなさい。今度は実際に書いてある指示の通りに身体を動かしなさい」
「よ、読むだけじゃないんですか?」
「反論も質問も受け付けない。君はただ言われた通りにやればいいのだ。一流女優になったつもりで演じなさい」
「は、はい。分かりました……」
楓はふぅとひとつため息をして、ゆっくりとシートに目を落とした。
(続く)
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