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オーラの先

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 グオオオオオオオオォォォッ

 暗闇に包まれた森に眩しい閃光と轟音が鳴り響いた。燃え上がったターゲットが人形に燃えている。間違いなく導師のシルエットだ。勝った。SとKはそう確信した。だが。

「ふはははははははは。何だこの貧弱な炎は。二人掛かりでこんな情けない炎しか具現化出来ないとは。森を恐怖に陥れた長Kも堕ちたものだ」

 導師は炎に包まれながら笑っている。そんな馬鹿な。あの灼熱の業火が通用しないなんて、そんなことあり得ない。動揺が次の行動を鈍らせた。導師の飛ばした業火の礫がSの肘を掠める。当たりはしなかったものの熱が皮膚を焦がした。もの凄い熱量である。導師は次々に礫を飛ばしてくる。必死で礫を避けるSとKの姿は、まるで舞台の上で踊っているかのようかように見えた。

「ハハハハハ、こんな所で美人姉妹の裸踊りが堪能出来るとはな。炎のお蔭で広場の者たちからもよく見えることだろう。こりゃ最高の目の保養だ」

 どうしてこの業火が導師には効いていないのか、礫を避けながらSは必死で考える。さっきのMの時も、確実に当たったはずのKの術を捻じ曲げた。

 そうか。

 Sは燃える導師に向かって強風を浴びせて炎をかき消した。消えた炎の焼け跡にあったのは木偶だった。やはり術を捻じ曲げて身代わりを燃やしていたのだ。恐ろしい術ではある。しかし、つまり落雷や業火が効かないわけじゃない。だったら、やれる。

 スニーフの尻尾が導師を襲う。導師は身体を宙に浮かせてあざ笑うようにスニーフを挑発する。腕を振りジャンプをしても、悉くスニーフの動きは見破られ、まるで道化師のように踊らされた。それでもスニーフは諦めない。闇雲に振るった尻尾が導師の着物の裾に絡み、導師の態勢を僅かに崩させた。

「泥臭い。泥臭いんだよスニーフ。そういう面倒なお前が私は昔から大嫌いだったのだ。お前もさっさとMのところに行くがいい」

 導師はスニーフを強風で吹き飛ばす。スニーフがジャンプしてこれをかわした。「まったく面倒なやつだ」と余裕を見せながら導師がすかさず下からもう一度術を放つ。これも空中で態勢を変えてやり過ごしたスニーフだったが、続けざまの三発目で天高く打ち上げられた。

 それでいい。スニーフありがとう。よし、いくよ。SはKに導師に向かって術を仕掛けるように頼むと、自らは導師に向かって走り出した。これでラストだ。というか、ぼくは多分もうこれ以上動けないや。SはKを振り向くことなく走った。お願い、お姉ちゃん。

 Kも限界だった。これが最後の力、最後の術。S、頼んだよ。バカな姉貴を恨んでいいから、絶対生きて。Kの最後にして最大の落雷が、導師に向かって放たれた。

「バカめ。飛んで火にいる夏の虫だ」

 導師はKの落雷に向かって手を振り上げてSに向かって振りおろした。落雷の行方がねじ曲がってSに向かう。

「バカはお前だ」

 Sはその落雷を両手で受けると、そこに自分の持つ全ての力を乗せて真っ直ぐに導師に向けて解き放った。青白いオーラがあっという間に導師を包み込む。

「な、なにいいいいっ」

 キュイイイイイイーーン

 ドドドッドドドガーーン

 爆発音と共に耳をつんざく強烈な機械音が響き、何かが一瞬にして焦げた匂いが一気に辺りに充満した。消えていた照明はいつの間にか点灯していた。Sの放ったオーラの通った道は、一直線に草一本残さずに森の中にどこまでも続いていた。導師は影も形もなかった。燃え尽きたのか、それとも逃げおおせたのか。その行方は誰も分からなかった。

 花舞台には二人の裸の美女が力尽きて眠っている。傷ついた身体はとても痛々しかったが、その寝顔は満開の桜にも天空一面のオーロラにも例えらないほどに美しかった。スニーフが二人を抱えて広場を後にしたところまでは見たという者がいたが、それ以降の三人の行方については、森の民は誰ひとり分からないという。

 こうしてこの森を治める者はいなくなった。恐怖も試練もなくなったと同時に、祭りも施しもなくなった。旅人も久しく通らない。森の民は少しずつ減っていき、今ではこの森に住もうという者もいない。

 森の奥の廃墟には、二人の裸の美女の舞いと寝顔の描かれた祭壇があると聞いたことがある。古の獣人が、姉妹を絵に描いて供養したのだという伝承はあるものの、その存在も、その真偽も、誰も本当のところは知らないという。

(続く)
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