Dazai & JK

牧村燈

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第1章 太宰とJKが過ごしたある初夏の日々

第1話 プロローグ

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 二階の自室への階段を五段ほど登ったところで、奥の窓からの差し込む斜陽に目が眩んだ。毎日何度も昇降している階段なのに、この今まで見たこともない眩しいオレンジ色は何なのだろう。何?この嫌な感じ。嫌な汗が首筋をツウと伝うのが分かる。私は持っていたペットボトルの麦茶を喉に流し込んで、そろりそろりと階段を上った。

 その時だ。私の脇をスッと何かが通り過ぎた、ような気がした。え?何?慌てて周囲を見回したが何もない。あ!今度は唐突に後ろから何かにグッと押されて2、3歩よろめいた。気づくと姉の部屋の前に立っていた。背筋に悪寒が走って少し震えた。芽生えかけた『怖い』という感覚を、麦茶と一緒に飲み込む。姉は3ケ月前に突然家を出ていった。空白になったかつての姉の部屋はシンと静まりかえっている。それがもう当たり前のことなのに。普段は何も意識せずに通り過ぎるそのシンとした部屋の前に、私は金縛りにあったかのように立っていた。

 心臓の鼓動が早まる。暑さのせいだ、怖いからなんかじゃない。まだ夕陽の残る明るいその部屋の空白へ、私は足を一歩踏み入れた。

「ひ」

 思わず声を上げた。白い壁と主のいなくなったベッドの前に、いかにも時代錯誤した黒い袴のようなものを履いた男の影が忽然と立っていたのだ。恐怖ここに極まれり。当然そうなるべきシチュエーションである。しかし、その姿を見た私は、ことさらに怯むこともなく、いやむしろ恍惚とした声でその影に向かってこう呼びかけた。

「太宰先生」

 それは確かに自分の肉声だった。片手に持っていた麦茶が傾いて、少しばかり足に滴る。私の声に黒い袴の男がほくそ笑んでくれた。いや、正確には顔は見えていない。全体が真っ黒な影なのだから見えないはずだった。だが、確かに笑ってくれた。私にはそんな風に見えたのだ。

(続く)

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