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第1章 太宰とJKが過ごしたある初夏の日々
第2話 幽霊は太宰先生
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姉の部屋で遭遇した影が、唐突に口を開いた。
『時に、君は少々酒臭いようだが、この時代はそのような若い女子がこの昼日なかから酒を嗜んでも良い世になったものかね?』
え、え、これ、この影がし、しゃべった、の?あまりのことに私は仰天し、その場で固まって動けなくなった。姉と行ったカラオケでイタズラに飲んだアルコールを含んだ冷や汗が、背中をツーと流れる。
『おお、そんな驚かすつもりはなかったんだ、君が私の名を呼ぶものだから……藪から棒にすまなかった』
影は優しい声音で謝罪する。あの、その、これってマジに太宰先生ってこと?うそ!マジ!私の顔はまだ強張っているに違いないが、心の底から湧き上がってくる得体の知れない興奮に身体が熱くなってくるのを感じた。
「あの、あなたは太宰先生、太宰治先生なんですか?」
私は尋ねた。この人、いや影、いやこの幽霊さん、ホントに太宰治??
『いかにも。私が太宰治である。君があまりにも賑やかで、そしてあまりにも美麗なる女子であったがゆえ、知らぬ間についてきてしまったようだ。かたじけないが次の満月の夜まで、ここに置いてもらえぬだろうか』
「は、はい、姉は暫く帰ってこないので、全然大丈夫です」
慌てて答えて、あれ、これで良かったのかなと思う。見ず知らずの人を、いや影を、いや太宰治と名乗る幽霊さんを勝手に部屋に入れたりしたら、お姉ちゃんに怒られないかな。いやいや。どうせお姉ちゃんは帰ってこないんだから、いいことにしよう。
『全然、のあとに大丈夫とは、何とも奇妙な言い回しだ。しかし君は、酒臭くはあるがとてもチャーミングな女子であるな。ほら、こちらにおいで』
え、何?あ、太宰ってそう言えばめちゃくちゃ女たらしじゃなかったっけ。まずいよ。いくら太宰先生でも幽霊さんとエッチなんてありえないんだけど。
「いや、流石にちょっと」
『なあに、恥ずかしがることはない。美しい女子は男の手によって更に輝きを増すべきものなのだ。さあ、おいで』
えっ、や、やたら押し強いわ、この先生。どうしよう。やっぱりすぐにお姉ちゃんに相談すれば良かった、と思ったところに、
「晩ご飯できたよ」
母の声が階下から聞こえた。「ご飯」は母との唯一の会話だ。これがなかったら一日中母と話すことなど何もない。よって父とはもう何か月も話をしていなかった。
次の瞬間、太宰先生の影は消えていた。
(続く)
『時に、君は少々酒臭いようだが、この時代はそのような若い女子がこの昼日なかから酒を嗜んでも良い世になったものかね?』
え、え、これ、この影がし、しゃべった、の?あまりのことに私は仰天し、その場で固まって動けなくなった。姉と行ったカラオケでイタズラに飲んだアルコールを含んだ冷や汗が、背中をツーと流れる。
『おお、そんな驚かすつもりはなかったんだ、君が私の名を呼ぶものだから……藪から棒にすまなかった』
影は優しい声音で謝罪する。あの、その、これってマジに太宰先生ってこと?うそ!マジ!私の顔はまだ強張っているに違いないが、心の底から湧き上がってくる得体の知れない興奮に身体が熱くなってくるのを感じた。
「あの、あなたは太宰先生、太宰治先生なんですか?」
私は尋ねた。この人、いや影、いやこの幽霊さん、ホントに太宰治??
『いかにも。私が太宰治である。君があまりにも賑やかで、そしてあまりにも美麗なる女子であったがゆえ、知らぬ間についてきてしまったようだ。かたじけないが次の満月の夜まで、ここに置いてもらえぬだろうか』
「は、はい、姉は暫く帰ってこないので、全然大丈夫です」
慌てて答えて、あれ、これで良かったのかなと思う。見ず知らずの人を、いや影を、いや太宰治と名乗る幽霊さんを勝手に部屋に入れたりしたら、お姉ちゃんに怒られないかな。いやいや。どうせお姉ちゃんは帰ってこないんだから、いいことにしよう。
『全然、のあとに大丈夫とは、何とも奇妙な言い回しだ。しかし君は、酒臭くはあるがとてもチャーミングな女子であるな。ほら、こちらにおいで』
え、何?あ、太宰ってそう言えばめちゃくちゃ女たらしじゃなかったっけ。まずいよ。いくら太宰先生でも幽霊さんとエッチなんてありえないんだけど。
「いや、流石にちょっと」
『なあに、恥ずかしがることはない。美しい女子は男の手によって更に輝きを増すべきものなのだ。さあ、おいで』
えっ、や、やたら押し強いわ、この先生。どうしよう。やっぱりすぐにお姉ちゃんに相談すれば良かった、と思ったところに、
「晩ご飯できたよ」
母の声が階下から聞こえた。「ご飯」は母との唯一の会話だ。これがなかったら一日中母と話すことなど何もない。よって父とはもう何か月も話をしていなかった。
次の瞬間、太宰先生の影は消えていた。
(続く)
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