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第1章 太宰とJKが過ごしたある初夏の日々
第7話 ひだまり
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「先生、先生、先生」
家に着いた私は、取るものもとりあえず、先生のいる姉の部屋にバタバタと駆け上がった。
『おお、お帰り。なるほどそれが学校の制服なんだね。しかし何だね。その短い履き物は。うーむ、なかなか目の保養になりそうだ』
早速それ系の話。だけど私は先生のそのペースが大好きだった。ずっと抱えて走ってきた胸の重りが一気に溶け出していく。
「先生、あのね。私、私・・・・・・」
話したいことがいっぱいあるのに、言葉が出てこない。代りに涙が溢れて来た。それも大量だ。温かな滴が頬を伝い、そこから床にポタポタと零れる。
『大丈夫、慌てることはない。私はまだまだここにいるのだから、ゆっくりでよい。今日、学校であった君の話を沢山聞かせてくれないか』
先生の言葉に、私は何度も頷いた。ダメだこれじゃ、まるで子供じゃない。そう思うのに涙が止まらない。
『君が学校に行くと自分で決めて、その言葉通りに学校に行って、そして最後まで頑張ったことに、まずはおめでとう。そんなに泣かなくてもいいだろう。君は良く頑張った。それは何も聞かなくたってよく分かる』
「先生」
泣き声だけどやっと言葉が戻った。うん、そうだ。今日私は頑張った。だから。
「先生。ちょっとだけお願いしてもいいですか」
『何だね』
私は少しだけ太宰先生の傍に移動した。いつもは先生の手の届かないところに体育座りをして話をしていたのだけど、先生が手を伸ばせば届くところに。
「先生、私、頑張ったよ。頑張ったよね」
『ああ、頑張ったとも』
先生の影がすっと私の方に寄る。
「先生」
『何だね』
「触っちゃダメですよ」
先生の影がずっこけた。
「フフフフ、ひっく」
『泣くのか笑うのかどっちかにしなさい。それと。触られたくないならいつものところにいなさい』
「いや。ここにいさせてください。でも触っちゃダメですよ。ねっ、いいでしょう、先生」
私の我儘に、先生はやれやれという感じで両手を挙げる。
『まったく仕方がないな。わかった、わかった。こんなことは今日だけにしてくれよ。私の自制心はそんなに頑健には出来ていないからね』
私は頷いて先生の影にもたれかかった。そこに物体があるわけではないのに、何故か仄かな温もりを感じた。
『これでいいかな。それじゃあ今日君に起こった話を聞こう。だが話したくないことは話さなくたっていい。それでも私にはちゃんと伝わるから。心配しないで、話したいように、話したい順番で話してごらん』
私は先生の影に抱かれながら、今日の出来事を、私なりの脚色を交えながら、先生に聞いてもらった。そこはひだまりのように暖かくて、心地がいい場所だった。先生は特別な感想も特別な教訓も語ることはなく、ただ真っ直ぐに私の話を聞いてくれた。そして、約束通り決して体に触れることなく、影の温もりだけで優しく私の頭を撫でてくれた。
そんな暫くの時間の後、私は心に芽生えた決意を口にした。
「私、N美に会うわ」
私の決意に、ずっと黙っていた先生が『それはいい考えだ』と答えた。そして『無理はしなくていい、だけど向き合えるなら向き合った方がいい』と言った。
顔を上げた私は、約1年ぶりにN美に電話を掛けた。
(続く)
家に着いた私は、取るものもとりあえず、先生のいる姉の部屋にバタバタと駆け上がった。
『おお、お帰り。なるほどそれが学校の制服なんだね。しかし何だね。その短い履き物は。うーむ、なかなか目の保養になりそうだ』
早速それ系の話。だけど私は先生のそのペースが大好きだった。ずっと抱えて走ってきた胸の重りが一気に溶け出していく。
「先生、あのね。私、私・・・・・・」
話したいことがいっぱいあるのに、言葉が出てこない。代りに涙が溢れて来た。それも大量だ。温かな滴が頬を伝い、そこから床にポタポタと零れる。
『大丈夫、慌てることはない。私はまだまだここにいるのだから、ゆっくりでよい。今日、学校であった君の話を沢山聞かせてくれないか』
先生の言葉に、私は何度も頷いた。ダメだこれじゃ、まるで子供じゃない。そう思うのに涙が止まらない。
『君が学校に行くと自分で決めて、その言葉通りに学校に行って、そして最後まで頑張ったことに、まずはおめでとう。そんなに泣かなくてもいいだろう。君は良く頑張った。それは何も聞かなくたってよく分かる』
「先生」
泣き声だけどやっと言葉が戻った。うん、そうだ。今日私は頑張った。だから。
「先生。ちょっとだけお願いしてもいいですか」
『何だね』
私は少しだけ太宰先生の傍に移動した。いつもは先生の手の届かないところに体育座りをして話をしていたのだけど、先生が手を伸ばせば届くところに。
「先生、私、頑張ったよ。頑張ったよね」
『ああ、頑張ったとも』
先生の影がすっと私の方に寄る。
「先生」
『何だね』
「触っちゃダメですよ」
先生の影がずっこけた。
「フフフフ、ひっく」
『泣くのか笑うのかどっちかにしなさい。それと。触られたくないならいつものところにいなさい』
「いや。ここにいさせてください。でも触っちゃダメですよ。ねっ、いいでしょう、先生」
私の我儘に、先生はやれやれという感じで両手を挙げる。
『まったく仕方がないな。わかった、わかった。こんなことは今日だけにしてくれよ。私の自制心はそんなに頑健には出来ていないからね』
私は頷いて先生の影にもたれかかった。そこに物体があるわけではないのに、何故か仄かな温もりを感じた。
『これでいいかな。それじゃあ今日君に起こった話を聞こう。だが話したくないことは話さなくたっていい。それでも私にはちゃんと伝わるから。心配しないで、話したいように、話したい順番で話してごらん』
私は先生の影に抱かれながら、今日の出来事を、私なりの脚色を交えながら、先生に聞いてもらった。そこはひだまりのように暖かくて、心地がいい場所だった。先生は特別な感想も特別な教訓も語ることはなく、ただ真っ直ぐに私の話を聞いてくれた。そして、約束通り決して体に触れることなく、影の温もりだけで優しく私の頭を撫でてくれた。
そんな暫くの時間の後、私は心に芽生えた決意を口にした。
「私、N美に会うわ」
私の決意に、ずっと黙っていた先生が『それはいい考えだ』と答えた。そして『無理はしなくていい、だけど向き合えるなら向き合った方がいい』と言った。
顔を上げた私は、約1年ぶりにN美に電話を掛けた。
(続く)
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