生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう

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16話 教えを守った投げナイフ

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 オークのボスの首が吹き飛んだ。
 その首を踏みつけて、赤い目をギラつかせた。


 ホズキ師匠は、手に小さい刀の破片を持っていた。
 そしてそれを川の向こうの小さな的目がけて、指を離した。

 スパッ!スパッ!ーー

 音だけが虚空になって、消えていく。
 そんな中、僕は瞬きを繰り返す。

「今のような感覚。わかった?」
「えーった、速すぎて見えませんでした」

 僕はホズキ師匠にそう返した。
 するとホズキ師匠は首を傾げ、考え込んだ。

「そう。うーん。難しい」
「えっと、人間業じゃないと思うんですけど?」
「そんなことない。これは立派な暗殺術」
「僕、暗殺者になるんですか?」
「ううん。違う」

 ホズキさんも理解していた。
 だけど、僕の反感を聞いて少し納得したのか、今度は刀の破片じゃないのに、同じことをして見せた。

「今度はクナイですか!」
「これならどう? 見えた?」
「見えませんでした……」

 別に僕は動体視力が悪いわけじゃない。
 むしろ、逸脱していた。

 今の僕は冷静。
 だけど、はずだ。

 だけど師匠の動きは速すぎる。
 単純にスピードが違った。

 僕は理解できないまま、ホズキ師匠の言われた通り、一応やってみた。

「じゃあ行きます!」

 スパッ!ーー

 ナイフが的目掛けて飛んでいき、見事に突き刺さった。
 しかし端っこすぎて、全然だった。

「あー、全然です」
「ううん。筋は悪くない。練習次第で、命中精度はどうにでもなる」
「本当ですか! 僕、頑張ります」

 だけどホズキ師匠の顔色は曇っていた。
 僕は不審に思うも、ホズキ師匠は僕の体つきを身始める。

「あ、あの? ホズキ師匠?」
「天月。もっと指先に集中して」
「えっ!?」

 何を言っているんだ。
 僕はちゃんとやったはずだ。
 だけどホズキ師匠のお眼鏡には叶わず、

「天月。今、どうやって投げた?」
「えっ、普通にですけど」
「やってみて」
「えっ!? じゃ、そりゃあ!」
「はい、止まって」

 ホズキ師匠は、僕の手を掴んだ。
 何が駄目だったのか。
 だけどホズキ師匠は、鋭い目を向ける。

「天月。投げちゃ駄目。そんな動きを見せたら、すぐにバレる」
「すぐにバレるって……投げないと使えないですよね?」
「それはそう。でも、それは普通すぎる。極めれば、投げたことすら気づかせない」
「そんな、どうやって」
「こうやるの」

 ホズキ師匠は何をしたのか。
 全く微動だにしなかった。
 それどころか、何が起きたのかすら悟らせなかった。

「えっ!?」
「こんな感じ」

 ストッ!

 空から何か落ちてきた。
 見ればそこには一匹の鳥。背中に何か刺さっている。

「これができるようになるまで、やる」
「あ、あはははは……」

 僕は唖然としてしまった。
 額から汗を流して、「無理」の文言が超高速で、駆け抜けた。


 そんな僕が負けるはずがない。
 瞬時に唯一の灯りを落とすと、オークたち目掛けてナイフを突き刺す。

「逃げるなら今だよ。でも、逃げられないよね?」

 僕の赤く爛々とした目が、暗闇の中で怪しく煌めく。
 暗闇すぎて、他に何も見えない。

 オークたちは棍棒を適当に振るが、僕には擦りもせずに、同仕打ちを始めた。

 憐れに見えた。
 だけど気にせずにベルトの内側に仕込んだ、ナイフを指先で挟んで飛ばし、オークたちを仕留める。

「これで終わりだよ」

 真っ暗な洞窟の中に、オークたちの死臭が充満する。
 赤い血と冷たい言葉が、冷血な印象を醸し出す。

 それまでに、僕の姿は誰にも見えなかった。
 汗の一つもかかない。
 ここまでの所要時間は、三十秒程度で、一分もかからなかった。
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