生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう

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17話 死臭を抜けて

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 ものの三十秒の出来事だった。

 僕はベルトの内側に仕込んだ、十字架のような鋭いナイフをオークに投げつけ、一匹につき、ナイフ一本で倒していった。

 洞窟内は真っ暗闇。
 地面はねとねとした液体が散布され、死臭を洞窟内に全体的に漂わせていた。

「ふぅ。終わった」

 僕は一息ついた。
 そんな中、ふと洞窟内で何かが動いた音がする。

 僕は瞬時にナイフを投げつけようとしたが、どうやら違った。
 オークたちは皆死んで、ここには僕一人。
 でもおかしいこともある。
 この洞窟は最近作ったみたいな跡がある。だけど、オークたちは何の抵抗もしなかった。

「もしかして、この洞窟に秘密が……」

 焚いている煙が充満するまで、まだ時間はある。
 そこでもう少しだけ奥を覗こうと思った。
 すると、

「うわぁ!」

 僕は松明に灯りをつけた。
 その足で洞窟内の先を行くと、黒いローブが置いていた。
 まだ新しく、雨に濡れたような形跡もない。

「これは……魔法使いものだよね? でも、こんなのって……」

 ローブを触ってみた。
 すると中には、白くて硬いもの。
 誰かの人骨が眠っていた。

 多分だけど、このローブの着ていた持ち主。
 でもどうして。
 そこまで時間は経っていない。
 こんなこと、誰かが意図的にやるしかない。

 ローブを取り上げて、よく見てみることにした。きっと何かわかるはず。
 すると胸元に刺繍がしてある。
 髑髏に十字架。それを直視し、記憶が呼び起こされる。

「これって、闇の十字軍の……そっか。この人、闇の十字軍の人だったんだ。可哀想」

 それは紛れもない、個人の感想。
 でも、だとしたらこれは報告案件な気がする。
 その上、仮にこの人が闇の十字軍の魔法使いだとしたら、ここまでの経緯が手に取るようにわかる。
 口にしてみたら、簡単に頭に入る。

「そっか。それなら合点がいくよ。あの子の鞘を奪おうとしたのも、オークたちが並外れた連携意識と知能を持っていたこと。全部このためだったんだ」

 僕は正直、この男の目的は知らない。
 知る気もない。
 けれどここまで非人道的で、絶対悪な行為は、あの村の人間に似ている。
 でも、下劣なこの男が死んだ理由はまでは、流石にわからない。
 だけど、近くに小瓶が落ちていた。
 手に取ってみる。

「これは……毒だ。ホズキ師匠が言ってた、人間が吸えばたちまち死んでしまう、植物由来の粉状の毒。これを飲んだんだ。もしかして、そのせいでオークたちは勝手にこの男の命令を聞いて……そっか」

 全て繋がった。
 おそらくこの人骨は男で、しかも痩せていた。
 仮に襲ったとしても、一人だと騎士たちに返り討ちにされる。
 それを知った上で、自分の命を失うことで、オークたちの脳を操ろうとした。そう言った考えは、闇の十字軍にはよくある考えだそう。

「でも、ミスリルの剣がそんなに欲しかったのかな。命を失ってまで、命を奪ってまで、手に入れる価値があるのかな」

 所詮僕はあの村の人間だ。
 たぎる血を抑えきれない。

 けれど僕は一味違う。
 倫理観を持っているし、この男やオークたちのように、むやみやたらと命を取らない。

 そうやって自分を正当化することが、今の僕にできる唯一のこと。
 そうでも思っていないと、心が壊れてしまいそうだ。

 血の臭いを嗅いだ。
 骨の朽ちる音を聞いた。
 砕ける洞窟の壁の音を聞いた。

 全部が全部、僕の神経を微弱に感化させ、次第に瞳はのかもしれない。
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