17 / 86
17話 死臭を抜けて
しおりを挟む
ものの三十秒の出来事だった。
僕はベルトの内側に仕込んだ、十字架のような鋭いナイフをオークに投げつけ、一匹につき、ナイフ一本で倒していった。
洞窟内は真っ暗闇。
地面はねとねとした液体が散布され、死臭を洞窟内に全体的に漂わせていた。
「ふぅ。終わった」
僕は一息ついた。
そんな中、ふと洞窟内で何かが動いた音がする。
僕は瞬時にナイフを投げつけようとしたが、どうやら違った。
オークたちは皆死んで、ここには僕一人。
でもおかしいこともある。
この洞窟は最近作ったみたいな跡がある。だけど、オークたちは何の抵抗もしなかった。
「もしかして、この洞窟に秘密が……」
焚いている煙が充満するまで、まだ時間はある。
そこでもう少しだけ奥を覗こうと思った。
すると、
「うわぁ!」
僕は松明に灯りをつけた。
その足で洞窟内の先を行くと、黒いローブが置いていた。
まだ新しく、雨に濡れたような形跡もない。
「これは……魔法使いものだよね? でも、こんなのって……」
ローブを触ってみた。
すると中には、白くて硬いもの。
誰かの人骨が眠っていた。
多分だけど、このローブの着ていた持ち主。
でもどうして。
そこまで時間は経っていない。
こんなこと、誰かが意図的にやるしかない。
ローブを取り上げて、よく見てみることにした。きっと何かわかるはず。
すると胸元に刺繍がしてある。
髑髏に十字架。それを直視し、記憶が呼び起こされる。
「これって、闇の十字軍の……そっか。この人、闇の十字軍の人だったんだ。可哀想」
それは紛れもない、個人の感想。
でも、だとしたらこれは報告案件な気がする。
その上、仮にこの人が闇の十字軍の魔法使いだとしたら、ここまでの経緯が手に取るようにわかる。
口にしてみたら、簡単に頭に入る。
「そっか。それなら合点がいくよ。あの子の鞘を奪おうとしたのも、オークたちが並外れた連携意識と知能を持っていたこと。全部このためだったんだ」
僕は正直、この男の目的は知らない。
知る気もない。
けれどここまで非人道的で、絶対悪な行為は、あの村の人間に似ている。
でも、下劣なこの男が死んだ理由はまでは、流石にわからない。
だけど、近くに小瓶が落ちていた。
手に取ってみる。
「これは……毒だ。ホズキ師匠が言ってた、人間が吸えばたちまち死んでしまう、植物由来の粉状の毒。これを飲んだんだ。もしかして、そのせいでオークたちは勝手にこの男の命令を聞いて……そっか」
全て繋がった。
おそらくこの人骨は男で、しかも痩せていた。
仮に襲ったとしても、一人だと騎士たちに返り討ちにされる。
それを知った上で、自分の命を失うことで、オークたちの脳を操ろうとした。そう言った考えは、闇の十字軍にはよくある考えだそう。
「でも、ミスリルの剣がそんなに欲しかったのかな。命を失ってまで、命を奪ってまで、手に入れる価値があるのかな」
所詮僕はあの村の人間だ。
たぎる血を抑えきれない。
けれど僕は一味違う。
倫理観を持っているし、この男やオークたちのように、むやみやたらと命を取らない。
そうやって自分を正当化することが、今の僕にできる唯一のこと。
そうでも思っていないと、心が壊れてしまいそうだ。
血の臭いを嗅いだ。
骨の朽ちる音を聞いた。
砕ける洞窟の壁の音を聞いた。
全部が全部、僕の神経を微弱に感化させ、次第に瞳は紅い血眼に変わるのかもしれない。
僕はベルトの内側に仕込んだ、十字架のような鋭いナイフをオークに投げつけ、一匹につき、ナイフ一本で倒していった。
洞窟内は真っ暗闇。
地面はねとねとした液体が散布され、死臭を洞窟内に全体的に漂わせていた。
「ふぅ。終わった」
僕は一息ついた。
そんな中、ふと洞窟内で何かが動いた音がする。
僕は瞬時にナイフを投げつけようとしたが、どうやら違った。
オークたちは皆死んで、ここには僕一人。
でもおかしいこともある。
この洞窟は最近作ったみたいな跡がある。だけど、オークたちは何の抵抗もしなかった。
「もしかして、この洞窟に秘密が……」
焚いている煙が充満するまで、まだ時間はある。
そこでもう少しだけ奥を覗こうと思った。
すると、
「うわぁ!」
僕は松明に灯りをつけた。
その足で洞窟内の先を行くと、黒いローブが置いていた。
まだ新しく、雨に濡れたような形跡もない。
「これは……魔法使いものだよね? でも、こんなのって……」
ローブを触ってみた。
すると中には、白くて硬いもの。
誰かの人骨が眠っていた。
多分だけど、このローブの着ていた持ち主。
でもどうして。
そこまで時間は経っていない。
こんなこと、誰かが意図的にやるしかない。
ローブを取り上げて、よく見てみることにした。きっと何かわかるはず。
すると胸元に刺繍がしてある。
髑髏に十字架。それを直視し、記憶が呼び起こされる。
「これって、闇の十字軍の……そっか。この人、闇の十字軍の人だったんだ。可哀想」
それは紛れもない、個人の感想。
でも、だとしたらこれは報告案件な気がする。
その上、仮にこの人が闇の十字軍の魔法使いだとしたら、ここまでの経緯が手に取るようにわかる。
口にしてみたら、簡単に頭に入る。
「そっか。それなら合点がいくよ。あの子の鞘を奪おうとしたのも、オークたちが並外れた連携意識と知能を持っていたこと。全部このためだったんだ」
僕は正直、この男の目的は知らない。
知る気もない。
けれどここまで非人道的で、絶対悪な行為は、あの村の人間に似ている。
でも、下劣なこの男が死んだ理由はまでは、流石にわからない。
だけど、近くに小瓶が落ちていた。
手に取ってみる。
「これは……毒だ。ホズキ師匠が言ってた、人間が吸えばたちまち死んでしまう、植物由来の粉状の毒。これを飲んだんだ。もしかして、そのせいでオークたちは勝手にこの男の命令を聞いて……そっか」
全て繋がった。
おそらくこの人骨は男で、しかも痩せていた。
仮に襲ったとしても、一人だと騎士たちに返り討ちにされる。
それを知った上で、自分の命を失うことで、オークたちの脳を操ろうとした。そう言った考えは、闇の十字軍にはよくある考えだそう。
「でも、ミスリルの剣がそんなに欲しかったのかな。命を失ってまで、命を奪ってまで、手に入れる価値があるのかな」
所詮僕はあの村の人間だ。
たぎる血を抑えきれない。
けれど僕は一味違う。
倫理観を持っているし、この男やオークたちのように、むやみやたらと命を取らない。
そうやって自分を正当化することが、今の僕にできる唯一のこと。
そうでも思っていないと、心が壊れてしまいそうだ。
血の臭いを嗅いだ。
骨の朽ちる音を聞いた。
砕ける洞窟の壁の音を聞いた。
全部が全部、僕の神経を微弱に感化させ、次第に瞳は紅い血眼に変わるのかもしれない。
32
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた
黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。
そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。
「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」
前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。
二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。
辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。
【薬師向けスキルで世界最強!】追放された闘神の息子は、戦闘能力マイナスのゴミスキル《植物王》を究極進化させて史上最強の英雄に成り上がる!
こはるんるん
ファンタジー
「アッシュ、お前には完全に失望した。もう俺の跡目を継ぐ資格は無い。追放だ!」
主人公アッシュは、世界最強の冒険者ギルド【神喰らう蛇】のギルドマスターの息子として活躍していた。しかし、筋力のステータスが80%も低下する外れスキル【植物王(ドルイドキング)】に覚醒したことから、理不尽にも父親から追放を宣言される。
しかし、アッシュは襲われていたエルフの王女を助けたことから、史上最強の武器【世界樹の剣】を手に入れる。この剣は天界にある世界樹から作られた武器であり、『植物を支配する神スキル』【植物王】を持つアッシュにしか使いこなすことができなかった。
「エルフの王女コレットは、掟により、こ、これよりアッシュ様のつ、つつつ、妻として、お仕えさせていただきます。どうかエルフ王となり、王家にアッシュ様の血を取り入れる栄誉をお与えください!」
さらにエルフの王女から結婚して欲しい、エルフ王になって欲しいと追いかけまわされ、エルフ王国の内乱を治めることになる。さらには神獣フェンリルから忠誠を誓われる。
そんな彼の前には、父親やかつての仲間が敵として立ちはだかる。(だが【神喰らう蛇】はやがてアッシュに敗れて、あえなく没落する)
かくして、後に闘神と呼ばれることになる少年の戦いが幕を開けた……!
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる