生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう

文字の大きさ
80 / 86

75話 鬼と狂気の境目

しおりを挟む
 僕の瞳は狂気に満ちていた。
 とは言っても、本気じゃない。インスタント狂気で、普通の狂気にはあまりにもお粗末な出来だった。

 僕はそれを発揮して、村人たちを無理矢理従わせる。
 あまりやりたくないけど、このままだと命の危険があったからだ。
 村の一人が手に斧を振り上げていた。

「僕は人を殺す気はありませんよ。そっちがその気なら、全滅させますけど?」
「天月さん!」
「大丈夫ですよ。リーファさんには怪我の一つもさせませんから」

 僕は笑っていた。
 するとリーファさんも村の人たちも、皆んな硬直した。嫌な冷や汗をかきながら、表情をこわばらせ、固まってしまう。

 そこまで怖いのかな?
 と、僕はふと思った。しかし効果は絶大だったのか、村の人達は仕方ないとばかりに、首を縦に振った。

「わ、わかりました。それで鬼倒すと言うのは、如何な方法で?」
「単純ですよ。僕が山の中に入って、鬼を誘き寄せますから」
「誘き寄せる! そんなことできるんですか」
「はい。《鬼寄せ》って言う魔法があるんですよ。師匠から教えてもらったんです」

 これはホズキ師匠から教わった魔法だ。
 魔法と言うには、あまりに特殊で誰も使わない。この魔法は、「鬼を呼び寄せる」魔法だからだ。

「いい、天月。この魔法は魔法であって魔法じゃない。妖術のようなもの」
「妖術? 魔法じゃないんですか」
「私たちのいた国に伝わる伝統の魔法。みたいなもの」
「そうだったんですか!」

 僕は驚いていた。
 するとホズキ師匠は印を結ぶと、急に周囲が冷たくなる。不穏な気配。体が震えて動かない。
 それから霧が立ち込める。
 周囲が見えなくなると、身も毛もよだつとはまさにことのことと思い知った。そこにいたのは巨大な鬼だった。何処からともなく現れた赤い鬼。手には金棒を持っている。

 僕は戦闘体制をとった。
 しかし鬼は僕よりも早く、金棒を振り下ろす。死を悟った。しかしそこに割り込んだのは、ホズキ師匠だった。

「ホ、ホズキ師匠!」
「天月。これが今回の討伐対象。まんまと《鬼寄せ》で誘き寄せられた、哀れな鬼」

 それからホズキ師匠は、ほんの一瞬で鬼を倒してしまった。
 当然僕なんかじゃ、何が起きたのかわからない。
 霧が晴れた時には、鬼の首がなくなってきた。
 ホズキ師匠は僕にこの技を教えてくれたんだ。いつか鬼と対峙するときの、倒し方を。

 と言うわけで記憶を辿った。
 そんな僕の瞳は狂気との境だった。

「と言うわけで、こうやって倒します」
「天月さん。それは、あまりに酷くないですか?」
「酷い? 酷いってなんですか。僕からしてみたら、ただそこにいたから倒しただけですけど」

 そう説明すると、村人たちは身震いさせる。
 それから男の人が一人、ポツリと口にした。

「鬼だ。この山の鬼より鬼だよ、こいつは」
「しかも私たちよりも恐ろしい何かを持っておるな。しかも鬼を手球に取るなど。考えもせん」
「悪魔だ。いや、狂気だ」

 僕の背中は痛いぐらいに言葉で溢れた。
 だけど気にしない。僕の瞳は刻々と赤に染まっていた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...