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いまどき妖怪:キシミ
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真心達は授業を受けていた。
男性教師は、黒板を前に、チョークで教科書を写している。
「で、ここがこうなる。それじゃあ田中、ここの主人公の気持ち、分かるか?」
「えっ!? あっ、えっと……分かりません」
「分かりません? なんか言って欲しいな」
「えっ、えーっと、んーんと」
男性教師に当てられた、クラスメイトの田中は困り顔だった。
顔色が青ざめ、本当に困っているのか、モジモジしている。
隣の席の関口に視線を向けるも、「頑張れ」としか言ってもらえない。
男性教師からの視線もあってか、田中は可哀そうなほど、背中から熱が漏れていた。
「当てられなくてよかったー」
(そうか? 単純だろ)
「単純って、グレイスちゃんは分かるの?」
(もちろんだ。私以上に、他人の思考を読むことに優れた魔女はいないぞ)
「……」
(おい、何故無言になるんだ)
あまりにも胡散臭かった。
グレイスは誰よりも長く生きている。
そのおかげか、他人の考えを推し量るのは得意なのかもしれない。
けれどそんなうまい話は無い。
真心は、グレイスのことをそんな目で見る。
いや、心と心で通じ合っていた。
「はぁー、とりあえずノートを取ろう。……ん?」
(あれは……)
真心はノートを取り直す。
黒板の内容が消される前に、急いで写した。
すると、窓が急にガタガタと揺れ始め、窓際席の真心は、不安になってしまった。
「変なの。風は……吹いてないよね?」
(吹いていない訳じゃ無い。ただ、窓ガラスが軋むほどではないな)
真心は、少し窓を開けてみた。
しかし強い風は一切入って来ない。
もちろんカーテンも揺れたりしないのだが、何故か、窓ガラスだけが軋み、音を立てていた。
「変なことってあるんだね」
(そう思うか?)
「どういうこと?」
(マヤカシを、妖怪を、それになにより魔女の助けを借りたお前が、謎を謎のまま放置できるのか? と訊いたんだ)
真心に対して、グレイスは質問をする。
完全に問いかけるフェーズに入ると、真心は違うと分かる。
視線を凝視させ、キョロキョロと見回すと、床を走る小さな小人を見つけた。
「なんだろう、あれ?」
真心が見つけたのは、鬼の仮面を付けた小人。
青いはっぴを着ていて、まるでお祭りだ。
下駄も履いていて、床をバタバタ駆けている。
『てーへんだてーへんだてーへんだ!』
なにが「てーへん」なんだろう。
真心はポカンとしたけれど、グレイスは、そんな真心に教える。
「グレイスちゃん、あれはなに?」
(アレは、いまどき妖怪、キシミだ)
「キシミ?」
“キシミ”ってなんのことだろうか。
真心は、首を捻りながら、シャーペンをクルクル回す。
(キシミの語源は、軋み。つまり、“軋ませる”妖怪だ)
「軋ませる妖怪?」
(ああ。キシミが走れば、周囲が軋む。あの下駄から放たれる衝撃波が、床や窓を伝うことで、絶えず軋まさせ続けるんだ)
「なんだか難しいよ……」
真心では理解できない域にまで話が進行していた。
しかし、グレイスは話を続ける。
しかも、何処と無く、警戒している様子だ。
(キシミがこれだけ騒ぎ立てていると言うことは、なにかあるな)
「なにかって?」
(単純な話だ。キシミが駆け回るのは、良くないことが起こる前兆……と、妖魔協会では言われているな)
「よ、ようまきょうかい?」
また知らないワードが出て来た。
真心は眉間に皺が寄る。
そんな真心を見兼ねてか、グレイスは諦めた。
(まあ、キシミが駆けている程度なら、さほど問題でも無い。後で、捜しに行くぞ)
「捜しに行くって?」
(決まっているだろ。お前が見た、黒い影。つまり、マヤカシだ)
「ええっ!?」
その瞬間、真心は大声を出してしまった。
すると教室内の、ほぼ全ての人の視線が集まる。
顔を真っ赤にし、挙動不審な態度を取る。
「どうした、透野?」
「あっ、えっと、なんでも無いです」
真心は焦りながらも何とか誤魔化す。
しかし、男性教師は、声を上げてしまった真心に、質問をした。
「それじゃあついでだ、透野。ここの問題、なにが入る?」
「えっ、なにがって……」
黒板には、いつの間にかセリフが書き込まれていた。
もちろん全部じゃない。
空欄になっている部分があり、そこを当てないとダメだ。
「えーっと、[逃げる赤とんぼを追う優一は……のことを考えていた。]えっ、なにそれ?」
一体なんのことを言っているのか分からない。
パニックになる真心は、教科書をめくる。
隅々まで目を通すも、何処なのかサッパリ分からない。
「分からないか?」
「えっと、は、はい……」
(鍋だ。正確にはキムチ鍋だな)
「えっ?」
そんな中、グレイスが心の中で語りかける。
あまりにも繋がりがない。突拍子も無い。
真心は困惑するが、イチかバチか、恥をかくかもしれないけれど、頑張って答えてみる。
「な、鍋? キムチ鍋!」
「「「ザワザワザワザ」」」
クラスメイトが騒めき出す。
もちろんそんなもの、百も承知だった。
しかし答えてしまった以上、取り返しは付かないので、真心は赤っ恥を掻くも、男性教師は拍手をする。
パチパチパチパチ!!
突然の拍手に、意味が分からない。
真心だけではなく、クラスメイト全体が瞬きをする。
「先生?」
「いや、よく分かったな、透野。俺は分からないと思って出したんだがな」
「えーっと、なんとなく?」
「なんとなくでキムチ鍋が出て来るなんて……」
男性教師はそれ以上言わなかった。
パワハラになりそうだったからだろう。
だけど言わなくても分かった。「どうしてキムチ鍋なの?」と言いたくなる。
「グレイスちゃん、ありがとう」
(どうだ、私の実力)
「凄いっていうより、気持ち悪い?」
(おい、その言い分はなんだ! これで二度目だぞ)
「あ、ありがとう」
真心は頭が上がらない。
二度も死にかけた真心は、グレイスのおかげで命拾いをする。
全身から湯気が出そうになる中、橙子にグーサインを出されていたので、「あはは」と笑うのだった。
男性教師は、黒板を前に、チョークで教科書を写している。
「で、ここがこうなる。それじゃあ田中、ここの主人公の気持ち、分かるか?」
「えっ!? あっ、えっと……分かりません」
「分かりません? なんか言って欲しいな」
「えっ、えーっと、んーんと」
男性教師に当てられた、クラスメイトの田中は困り顔だった。
顔色が青ざめ、本当に困っているのか、モジモジしている。
隣の席の関口に視線を向けるも、「頑張れ」としか言ってもらえない。
男性教師からの視線もあってか、田中は可哀そうなほど、背中から熱が漏れていた。
「当てられなくてよかったー」
(そうか? 単純だろ)
「単純って、グレイスちゃんは分かるの?」
(もちろんだ。私以上に、他人の思考を読むことに優れた魔女はいないぞ)
「……」
(おい、何故無言になるんだ)
あまりにも胡散臭かった。
グレイスは誰よりも長く生きている。
そのおかげか、他人の考えを推し量るのは得意なのかもしれない。
けれどそんなうまい話は無い。
真心は、グレイスのことをそんな目で見る。
いや、心と心で通じ合っていた。
「はぁー、とりあえずノートを取ろう。……ん?」
(あれは……)
真心はノートを取り直す。
黒板の内容が消される前に、急いで写した。
すると、窓が急にガタガタと揺れ始め、窓際席の真心は、不安になってしまった。
「変なの。風は……吹いてないよね?」
(吹いていない訳じゃ無い。ただ、窓ガラスが軋むほどではないな)
真心は、少し窓を開けてみた。
しかし強い風は一切入って来ない。
もちろんカーテンも揺れたりしないのだが、何故か、窓ガラスだけが軋み、音を立てていた。
「変なことってあるんだね」
(そう思うか?)
「どういうこと?」
(マヤカシを、妖怪を、それになにより魔女の助けを借りたお前が、謎を謎のまま放置できるのか? と訊いたんだ)
真心に対して、グレイスは質問をする。
完全に問いかけるフェーズに入ると、真心は違うと分かる。
視線を凝視させ、キョロキョロと見回すと、床を走る小さな小人を見つけた。
「なんだろう、あれ?」
真心が見つけたのは、鬼の仮面を付けた小人。
青いはっぴを着ていて、まるでお祭りだ。
下駄も履いていて、床をバタバタ駆けている。
『てーへんだてーへんだてーへんだ!』
なにが「てーへん」なんだろう。
真心はポカンとしたけれど、グレイスは、そんな真心に教える。
「グレイスちゃん、あれはなに?」
(アレは、いまどき妖怪、キシミだ)
「キシミ?」
“キシミ”ってなんのことだろうか。
真心は、首を捻りながら、シャーペンをクルクル回す。
(キシミの語源は、軋み。つまり、“軋ませる”妖怪だ)
「軋ませる妖怪?」
(ああ。キシミが走れば、周囲が軋む。あの下駄から放たれる衝撃波が、床や窓を伝うことで、絶えず軋まさせ続けるんだ)
「なんだか難しいよ……」
真心では理解できない域にまで話が進行していた。
しかし、グレイスは話を続ける。
しかも、何処と無く、警戒している様子だ。
(キシミがこれだけ騒ぎ立てていると言うことは、なにかあるな)
「なにかって?」
(単純な話だ。キシミが駆け回るのは、良くないことが起こる前兆……と、妖魔協会では言われているな)
「よ、ようまきょうかい?」
また知らないワードが出て来た。
真心は眉間に皺が寄る。
そんな真心を見兼ねてか、グレイスは諦めた。
(まあ、キシミが駆けている程度なら、さほど問題でも無い。後で、捜しに行くぞ)
「捜しに行くって?」
(決まっているだろ。お前が見た、黒い影。つまり、マヤカシだ)
「ええっ!?」
その瞬間、真心は大声を出してしまった。
すると教室内の、ほぼ全ての人の視線が集まる。
顔を真っ赤にし、挙動不審な態度を取る。
「どうした、透野?」
「あっ、えっと、なんでも無いです」
真心は焦りながらも何とか誤魔化す。
しかし、男性教師は、声を上げてしまった真心に、質問をした。
「それじゃあついでだ、透野。ここの問題、なにが入る?」
「えっ、なにがって……」
黒板には、いつの間にかセリフが書き込まれていた。
もちろん全部じゃない。
空欄になっている部分があり、そこを当てないとダメだ。
「えーっと、[逃げる赤とんぼを追う優一は……のことを考えていた。]えっ、なにそれ?」
一体なんのことを言っているのか分からない。
パニックになる真心は、教科書をめくる。
隅々まで目を通すも、何処なのかサッパリ分からない。
「分からないか?」
「えっと、は、はい……」
(鍋だ。正確にはキムチ鍋だな)
「えっ?」
そんな中、グレイスが心の中で語りかける。
あまりにも繋がりがない。突拍子も無い。
真心は困惑するが、イチかバチか、恥をかくかもしれないけれど、頑張って答えてみる。
「な、鍋? キムチ鍋!」
「「「ザワザワザワザ」」」
クラスメイトが騒めき出す。
もちろんそんなもの、百も承知だった。
しかし答えてしまった以上、取り返しは付かないので、真心は赤っ恥を掻くも、男性教師は拍手をする。
パチパチパチパチ!!
突然の拍手に、意味が分からない。
真心だけではなく、クラスメイト全体が瞬きをする。
「先生?」
「いや、よく分かったな、透野。俺は分からないと思って出したんだがな」
「えーっと、なんとなく?」
「なんとなくでキムチ鍋が出て来るなんて……」
男性教師はそれ以上言わなかった。
パワハラになりそうだったからだろう。
だけど言わなくても分かった。「どうしてキムチ鍋なの?」と言いたくなる。
「グレイスちゃん、ありがとう」
(どうだ、私の実力)
「凄いっていうより、気持ち悪い?」
(おい、その言い分はなんだ! これで二度目だぞ)
「あ、ありがとう」
真心は頭が上がらない。
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