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放課後を這う者
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あれから授業はいつも通り終わった。
グレイスのおかげもあり、真心はいつもよりも、授業が解りやすかった。
頭の中にスッと入ってきて、真心は、なんだか楽しかった。
「真心、一緒に帰ろ!」
気が付くと、放課後になっていた。
今日は全生徒、部活がお休みだ。
橙子に肩を組まれ、真心は帰りそうになるけれど、その前にやらないといけないことがあった。
「ごめんね、橙子ちゃん。私、この後用事があって」
「用事? それって、結構かかるの?」
「うーん、どうかな? もしかしたら陽が沈んじゃうかも」
真心は橙子を巻き込みたくなかった。
だからこそ、精いっぱい顔色を変えずに、嘘を付いた。
そのおかげか、いつもならすぐにバレる嘘も、全くバレずに、橙子を説得することができた。
「そっか。それじゃあ先に帰るね」
「うん、また明日」
「また明日―」
橙子は寂しそうに、教室を出て行く。
真心は、申し訳ない気持ちだったけど、そんな真心をグレイスが励ます。
(これでよかったんだ。お前の友達を巻き込みたくない気持ちを尊重した結果だ)
「ありがとう、グレイスちゃん。これでよかったんだよね?」
(ああ。これが最善だ)
真心はグレイスの助言もありながら、最善を尽くした。
けれど心が少し傷付いた。
嘘はあまり付きたくない。特に、人を騙したり、心配させる嘘は苦しい。
真心はそう思うと、胸の辺りを押さえた。
(それじゃあ行くぞ)
「行くって、あのマヤカシが何処に行ったのか分かるの?」
真心はグレイスと一緒に、マヤカシを捜しに行く。
しかし、朝も一瞬、教室から見た廊下を横切っただけ。
別に悪さをした様子は無く、ましてや何処に行ったのかも分からない。
そんな相手を捜すなんて真似、できっこなかった。
「私は魔法みたいな不思議な力、使えないから……」
(ふん、誰と一心同体になっていると思っているんだ)
「グレイスちゃんだけど?」
(それが分かっているのなら問題は無い)
グレイスは自信たっぷりだった。
真心はポカンとするけれど、グレイスは迷わずに続けた。
(私とお前は一心同体。まさに鏡合わせの存在。それなら、お前は私で私はお前と言うことだ)
「難しいこと言おうとしてる?」
(私が言いたいのは簡単だ。私と同化した時点で、お前の才能は把握した。お前には天性の才能がある。魔法使いとしての隠された才能がな)
グレイスは思春期真っ盛りの、女子中学生が興味湧きそうなことを言う。
けれど、ここまで散々不思議に出会って来た真心には響かない。
いつものパターン、お決まりのテンプレートだと流すも、グレイスは続ける。
(信じられないのなら今はそれでいい。とにかく、私の力を貸してやるから、捜しに行くぞ)
「捜しに行くって、だからどうやって?」
(まずは廊下に出てみろ。それからこう唱えるんだ)
グレイスに導かれ、真心は廊下に出る。
教室の中で五分以上、一人ポツンとしていたせいか、廊下には誰もいない。
少し静かで、いつもよりも不気味だったけれど、真心はグレイスに言われた通りの言葉を唱えた。
「えっと、意識を集中させて……灰の跡」
真心は意識を集中させる。
すると体の奥底から、なにか温かいものが溢れてくる感覚にぶつかる。
不思議と頭の中で考えるよりも先に体の方が受け入れると、妙に馴染んで心地が良かった。
「グレイスちゃん、こんなことして意味が……ええっ!?」
真心は驚いて声を上げる。
今日二度目か三度目で、もう飽き飽きだ。
けれど今回のは、それとはまた違う。
「灰の跡」と唱えると、真心には目の前の廊下の上に、たくさんの灰が積もっているように見え、そこには黒い跡が、這ったように残されていた。
「グレイスちゃん、これってなに!?」
(やっぱりか)
「やっぱりって?」
グレイスは最初から分かっていたような口振りだ。
気に食わなかった真心は訊ね返す。
案の定、グレイスは真心に分かり辛く説明した。
(これはマヤカシが這って移動した証拠だ。しかもこの形、人形に近いな。私の勘だが、このマヤカシは、ハイツクバルもので間違いない)
「わ、わかんない」
名前だけ言われてもピンと来ない。
頭の中で、形だけイメージできるけど、それ以上はなにもでないのだ。
これが安全なのか、それとも危険なのか、分からないだらけに置いてけぼりにされる。
(少なくとも、安全とは言えないな。ハイツクバルものに引きずられると、大変なことになる)
「大変なことって?」
(それは……ホラー映画でも観ろ)
真心は、体中に鳥肌が立つ。
それもそのはずで、遠回しに怖いことを言われた気がしたからだ。
身震いし、ブルブルと震えると、グレイスはさらに続けた。
(よし、この跡を追うぞ)
「お、追うの!?」
(当たり前だ。ハイツクバルものは、封印すれば、いい値段になる。行くぞ)
「いい値段って、あっ、はいはい、行くよ!」
真心はグレイスに急かされた。
心臓の鼓動が高まって、苦しくなる。
体が勝手に動き出すと、まるで引きずられるように、私達はハイツクバルものを捜した。
グレイスのおかげもあり、真心はいつもよりも、授業が解りやすかった。
頭の中にスッと入ってきて、真心は、なんだか楽しかった。
「真心、一緒に帰ろ!」
気が付くと、放課後になっていた。
今日は全生徒、部活がお休みだ。
橙子に肩を組まれ、真心は帰りそうになるけれど、その前にやらないといけないことがあった。
「ごめんね、橙子ちゃん。私、この後用事があって」
「用事? それって、結構かかるの?」
「うーん、どうかな? もしかしたら陽が沈んじゃうかも」
真心は橙子を巻き込みたくなかった。
だからこそ、精いっぱい顔色を変えずに、嘘を付いた。
そのおかげか、いつもならすぐにバレる嘘も、全くバレずに、橙子を説得することができた。
「そっか。それじゃあ先に帰るね」
「うん、また明日」
「また明日―」
橙子は寂しそうに、教室を出て行く。
真心は、申し訳ない気持ちだったけど、そんな真心をグレイスが励ます。
(これでよかったんだ。お前の友達を巻き込みたくない気持ちを尊重した結果だ)
「ありがとう、グレイスちゃん。これでよかったんだよね?」
(ああ。これが最善だ)
真心はグレイスの助言もありながら、最善を尽くした。
けれど心が少し傷付いた。
嘘はあまり付きたくない。特に、人を騙したり、心配させる嘘は苦しい。
真心はそう思うと、胸の辺りを押さえた。
(それじゃあ行くぞ)
「行くって、あのマヤカシが何処に行ったのか分かるの?」
真心はグレイスと一緒に、マヤカシを捜しに行く。
しかし、朝も一瞬、教室から見た廊下を横切っただけ。
別に悪さをした様子は無く、ましてや何処に行ったのかも分からない。
そんな相手を捜すなんて真似、できっこなかった。
「私は魔法みたいな不思議な力、使えないから……」
(ふん、誰と一心同体になっていると思っているんだ)
「グレイスちゃんだけど?」
(それが分かっているのなら問題は無い)
グレイスは自信たっぷりだった。
真心はポカンとするけれど、グレイスは迷わずに続けた。
(私とお前は一心同体。まさに鏡合わせの存在。それなら、お前は私で私はお前と言うことだ)
「難しいこと言おうとしてる?」
(私が言いたいのは簡単だ。私と同化した時点で、お前の才能は把握した。お前には天性の才能がある。魔法使いとしての隠された才能がな)
グレイスは思春期真っ盛りの、女子中学生が興味湧きそうなことを言う。
けれど、ここまで散々不思議に出会って来た真心には響かない。
いつものパターン、お決まりのテンプレートだと流すも、グレイスは続ける。
(信じられないのなら今はそれでいい。とにかく、私の力を貸してやるから、捜しに行くぞ)
「捜しに行くって、だからどうやって?」
(まずは廊下に出てみろ。それからこう唱えるんだ)
グレイスに導かれ、真心は廊下に出る。
教室の中で五分以上、一人ポツンとしていたせいか、廊下には誰もいない。
少し静かで、いつもよりも不気味だったけれど、真心はグレイスに言われた通りの言葉を唱えた。
「えっと、意識を集中させて……灰の跡」
真心は意識を集中させる。
すると体の奥底から、なにか温かいものが溢れてくる感覚にぶつかる。
不思議と頭の中で考えるよりも先に体の方が受け入れると、妙に馴染んで心地が良かった。
「グレイスちゃん、こんなことして意味が……ええっ!?」
真心は驚いて声を上げる。
今日二度目か三度目で、もう飽き飽きだ。
けれど今回のは、それとはまた違う。
「灰の跡」と唱えると、真心には目の前の廊下の上に、たくさんの灰が積もっているように見え、そこには黒い跡が、這ったように残されていた。
「グレイスちゃん、これってなに!?」
(やっぱりか)
「やっぱりって?」
グレイスは最初から分かっていたような口振りだ。
気に食わなかった真心は訊ね返す。
案の定、グレイスは真心に分かり辛く説明した。
(これはマヤカシが這って移動した証拠だ。しかもこの形、人形に近いな。私の勘だが、このマヤカシは、ハイツクバルもので間違いない)
「わ、わかんない」
名前だけ言われてもピンと来ない。
頭の中で、形だけイメージできるけど、それ以上はなにもでないのだ。
これが安全なのか、それとも危険なのか、分からないだらけに置いてけぼりにされる。
(少なくとも、安全とは言えないな。ハイツクバルものに引きずられると、大変なことになる)
「大変なことって?」
(それは……ホラー映画でも観ろ)
真心は、体中に鳥肌が立つ。
それもそのはずで、遠回しに怖いことを言われた気がしたからだ。
身震いし、ブルブルと震えると、グレイスはさらに続けた。
(よし、この跡を追うぞ)
「お、追うの!?」
(当たり前だ。ハイツクバルものは、封印すれば、いい値段になる。行くぞ)
「いい値段って、あっ、はいはい、行くよ!」
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