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体育館のハイツクバルもの
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真心はグレイスに仰がれ、灰の積もった廊下を歩いた。
一見すると、なにも無いように見えるが、真心の目には、灰で埋もれた廊下なので、ゆっくり避けながら進む。
しかしその姿は、周りから見れば、変なことをしている生徒にしか見えなかった。
「ん、あれは……」
体育館から出た女性教師は、真心の姿を見つけた。
なにか忘れ物だろうか?
ジッと観察していると、真心は、ぎこちない足取りだった。
「ここを踏まないようにして、よっと。うわぁ!?」
一人で廊下で遊んでいる。
とはいえ、誰の邪魔にもなっていない。
ましてや走ってもいない。
一人で廊下を歩いたり、止まったり、跳んで転びそうになっている。
「なにやってるんのかしら?」
逆に心配になってしまう動きだった。
だけど声をかける雰囲気じゃ無い。
女性教師の中に、“声をかけるな”と言う自分が現れ、貴重な学生の時間を尊重することにした。
「きっと部活が無いから練習ができないのね。あれくらいなら、多めに見てあげるわ」
女性教師は目を伏せた。
いつも使う渡り廊下を使わずに、少し遠回りをする。
気遣いの配慮を見せると、女性教師は、体育館の鍵をジャージのポケットに入れ、その場を後にした。
「やっと着いた!」
代わりにやって来たのは真心だった。
丁度入れ違いになってしまい、体育館は鍵がかかっている。
(ここは?)
「体育館だよ。這った跡は、ここに繋がっているけど……」
体育館に入ろうとした。
しかし入り口には鍵かかっている。
透明ガラス越し見える体育館の中は、内扉も完全に閉まっていて、開きそうになかった。
「今日は部活が無いから、早めに鍵をかけちゃったんだ」
(借りに行けばいいんじゃないか?)
「できないよ。理由も無いのに」
(そうか……仕方ない。灰の鍵だ)
グレイスはこんな状況でも使える魔法を教えた。
何故か犯罪のニオイがする。
それでもグレイスに言われたように魔法を唱えた。
「えっと、灰の鍵。やっぱり!?」
真心の手の中に、灰色の鍵があった。
しかも体育館の鍵穴に挿すと、案の定開きそう。
真心は理性にギュッとされる中、グレイスにせかされる。
(ほら、早く開けろ。灰の鍵は、そう長くは形を保てないんだ)
「わ、分かったよ。えーっと、はい」
内心では、“どうか開きませんように”と、唱えていた。
しかし、鍵穴に鍵はスッポリはまると、そのままひねれば簡単に開いた。
ガチャン! と軽快な音を立て、何事もなく、スルッと開いてしまう。
「開いちゃった……」
(当たり前だ。それより入れ。跡はまだ続いている)
もうここまで来たら引き返せない。
真心は周りを気にしながら、バレないように体育館に入る。
靴を脱ぎ、靴箱の隅に置くと、重めの内扉も開けた。
ガララララァァァァァ!!
重低音が響き渡る。
体育館の中は広い。そして暗い。
カーテンが全て閉まっているせいか、光が薄暗い。
「電気点ける?」
(いや、その必要はない。むしろ、点けない方がいい)
「そうなんだ。そうだよね、マヤカシは幽霊みたいなものだもんね」
(それは少し違うが……真心、今は自分の身のことだけ考えていろ。ここはもう授業で使う体育館じゃない。マヤカシのテリトリーだ)
グレイスの言葉が痛いほど突き刺さる。
全身に鳥肌が立つのが分かる。
「なんだか怖くなって来た」
(恐怖心はマヤカシの餌だ)
「それじゃあ楽しいことを考えた方がいいんだよね? 楽しいこと、楽しいこと、えーっと、楽しいこと」
この二日で楽しいことがなんなのか、分からなくなった。
真心はテクテク歩いてしまうと、グレイスは叫んだ。
(バカ、動くな!)
「えっ?」
真心は立ち止まる。
すると突然、全身を冷たい風が走る。
首筋が痛くて、落っこちるような感覚になると、私は背筋を伸ばした。
「い、今のって……」
(警戒しろ。来るぞ!)
「来るって、なにが……はっ!」
真心は視線を変えた。
壁を這うなにかがいる。
ペタペタとよじ登っているのかと思いきや、真心の方をジッと見ていた。そのまま腕を伸ばすや否や、とんでもない速度で降って来た。
「ニンゲン、ニンゲン、ニンゲーン!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
真心は体がすくんで、動けない。
ただ叫ぶだけのマシンになる。
そんな真心とは裏腹に、グレイスはチャンスとばかりに思うと、真心に叫ぶ。
(真心、灰の詩だ)
「えっ、な、なに?」
(いいから早くやれ!)
そんなことを言われても、真心の目の前には、化け物姿がある。
これがマヤカシ、ハイツクバルもの。
全く這いつくばってはおらず、むしろ、アグレッシブなもの。
「そんなの間に合わないって!」
真心は叫んだ。
しかし飛びかかるハイツクバルものの方が速い。
ギュッと目を瞑る中、それでも真心は心を強く持ち、グレイスに言われるがまま、魔法を唱え、不思議な波動に包まれる感触に襲われる。
一見すると、なにも無いように見えるが、真心の目には、灰で埋もれた廊下なので、ゆっくり避けながら進む。
しかしその姿は、周りから見れば、変なことをしている生徒にしか見えなかった。
「ん、あれは……」
体育館から出た女性教師は、真心の姿を見つけた。
なにか忘れ物だろうか?
ジッと観察していると、真心は、ぎこちない足取りだった。
「ここを踏まないようにして、よっと。うわぁ!?」
一人で廊下で遊んでいる。
とはいえ、誰の邪魔にもなっていない。
ましてや走ってもいない。
一人で廊下を歩いたり、止まったり、跳んで転びそうになっている。
「なにやってるんのかしら?」
逆に心配になってしまう動きだった。
だけど声をかける雰囲気じゃ無い。
女性教師の中に、“声をかけるな”と言う自分が現れ、貴重な学生の時間を尊重することにした。
「きっと部活が無いから練習ができないのね。あれくらいなら、多めに見てあげるわ」
女性教師は目を伏せた。
いつも使う渡り廊下を使わずに、少し遠回りをする。
気遣いの配慮を見せると、女性教師は、体育館の鍵をジャージのポケットに入れ、その場を後にした。
「やっと着いた!」
代わりにやって来たのは真心だった。
丁度入れ違いになってしまい、体育館は鍵がかかっている。
(ここは?)
「体育館だよ。這った跡は、ここに繋がっているけど……」
体育館に入ろうとした。
しかし入り口には鍵かかっている。
透明ガラス越し見える体育館の中は、内扉も完全に閉まっていて、開きそうになかった。
「今日は部活が無いから、早めに鍵をかけちゃったんだ」
(借りに行けばいいんじゃないか?)
「できないよ。理由も無いのに」
(そうか……仕方ない。灰の鍵だ)
グレイスはこんな状況でも使える魔法を教えた。
何故か犯罪のニオイがする。
それでもグレイスに言われたように魔法を唱えた。
「えっと、灰の鍵。やっぱり!?」
真心の手の中に、灰色の鍵があった。
しかも体育館の鍵穴に挿すと、案の定開きそう。
真心は理性にギュッとされる中、グレイスにせかされる。
(ほら、早く開けろ。灰の鍵は、そう長くは形を保てないんだ)
「わ、分かったよ。えーっと、はい」
内心では、“どうか開きませんように”と、唱えていた。
しかし、鍵穴に鍵はスッポリはまると、そのままひねれば簡単に開いた。
ガチャン! と軽快な音を立て、何事もなく、スルッと開いてしまう。
「開いちゃった……」
(当たり前だ。それより入れ。跡はまだ続いている)
もうここまで来たら引き返せない。
真心は周りを気にしながら、バレないように体育館に入る。
靴を脱ぎ、靴箱の隅に置くと、重めの内扉も開けた。
ガララララァァァァァ!!
重低音が響き渡る。
体育館の中は広い。そして暗い。
カーテンが全て閉まっているせいか、光が薄暗い。
「電気点ける?」
(いや、その必要はない。むしろ、点けない方がいい)
「そうなんだ。そうだよね、マヤカシは幽霊みたいなものだもんね」
(それは少し違うが……真心、今は自分の身のことだけ考えていろ。ここはもう授業で使う体育館じゃない。マヤカシのテリトリーだ)
グレイスの言葉が痛いほど突き刺さる。
全身に鳥肌が立つのが分かる。
「なんだか怖くなって来た」
(恐怖心はマヤカシの餌だ)
「それじゃあ楽しいことを考えた方がいいんだよね? 楽しいこと、楽しいこと、えーっと、楽しいこと」
この二日で楽しいことがなんなのか、分からなくなった。
真心はテクテク歩いてしまうと、グレイスは叫んだ。
(バカ、動くな!)
「えっ?」
真心は立ち止まる。
すると突然、全身を冷たい風が走る。
首筋が痛くて、落っこちるような感覚になると、私は背筋を伸ばした。
「い、今のって……」
(警戒しろ。来るぞ!)
「来るって、なにが……はっ!」
真心は視線を変えた。
壁を這うなにかがいる。
ペタペタとよじ登っているのかと思いきや、真心の方をジッと見ていた。そのまま腕を伸ばすや否や、とんでもない速度で降って来た。
「ニンゲン、ニンゲン、ニンゲーン!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
真心は体がすくんで、動けない。
ただ叫ぶだけのマシンになる。
そんな真心とは裏腹に、グレイスはチャンスとばかりに思うと、真心に叫ぶ。
(真心、灰の詩だ)
「えっ、な、なに?」
(いいから早くやれ!)
そんなことを言われても、真心の目の前には、化け物姿がある。
これがマヤカシ、ハイツクバルもの。
全く這いつくばってはおらず、むしろ、アグレッシブなもの。
「そんなの間に合わないって!」
真心は叫んだ。
しかし飛びかかるハイツクバルものの方が速い。
ギュッと目を瞑る中、それでも真心は心を強く持ち、グレイスに言われるがまま、魔法を唱え、不思議な波動に包まれる感触に襲われる。
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