灰魔女さんといっしょ

水定ゆう

文字の大きさ
20 / 32

ATMにご妖かな?

しおりを挟む
 真心は中学校を出た。
 校門をくぐると、今朝見かけた幽霊がまだ立っている。
 誰にも挨拶をされない中、真心もスルーを決め込むと、ポツリ呟いた。

「なんだか大変だったね」
(そうだな)
「そうだなって、全然大変そうに聞こえないよ」

 グレイスの口調は淡々としていた。
 そのせいか、まるで大変そうに聞こえてくれない。
 それどころか、終始余裕で、真心は溜息を付く。

「はぁー。まあいっか」

 とはいえ、無事にハイツクバルものも封印できた。
 これで結果オーライ。
 そう思ったのも束の間、グレイスは真心に話しかける。

(真心、銀行に寄ってくれないか?)
「えっ、銀行?」
(ああ。もうすぐ五時を過ぎるだろ)

 真心はスマホを取り出す。
 すると後五分もすれば、三時を過ぎる。
 パンザマストが鳴り出すのも時間の問題で、銀行に行くなら、急がないとダメだった。

「グレイスちゃん。明日じゃダメ?」
(できれば今すぐの方がいい)
「今すぐ……間に合うかな?」

 日本中、何処の銀行も、午後三時で閉まるらしい。
 そのせいか、せっかく部活も無く、早帰りだったにもかかわらず、ハイツクバルものと戦ったせいか、このままじゃ間に合わない。

(真心、急ぐ必要は無いぞ)
「急がないとダメでしょ? 公共料金払うんだよね?」
(いや、それならコンビニでも……あっ、おい!)

 真心は走り出した。
 とにかく力の限りで走り出した。
 今ならまだ間に合うかもしれない。薄い望みに賭け、真心は背筋をピンと伸ばして走る。

(真心、急がなくてもいいんだぞ?)
「はぁはぁはぁはぁ……でも、大事なことでしょ?」
(それはそうだが)
「だったら急ごう。きっとまだ間に合うから」
(そう言う問題じゃ無いんだがな)

 グレイスは何故か消極的だった。
 そんなグレイスのことは完全に無視し、真心は銀行まで走る。
 龍睡町で一番近い銀行は、駅前。近くに商店街があるから、よく利用すると、母親が言っていた。

「急げ、急げ!」

 真心は走り続けた。
 刻一刻と時間だけが過ぎていく。
 そのせいか、スマホを逐一確認していると、後一分になっていた。

「ああ、後一分しかない!」
(だから急ぐ必要は何処にも……)
「こうなったら、それっ!」
(あっ、おい! 近道しなくても)

 真心は近くの公園を真っ直ぐ突っ切る。
 この先にある柵を乗り越えれば、駅前はすぐそこ。
 本当はダメと分かっていながらも、真心は走り、目の前に柵が現れた。

「グレイスちゃん、高く跳べるの無い?」
(どんな魔法だ。はぁ……灰の跳)
「灰の跳!」

 真心はグレイスに魔法を教えて貰う。
 成功するか否か、それすら構わず魔法を唱えた。
 すると踏み出した一歩目が軽く、蹴り上げると、フワリと体が浮き上がる。
 目の前の柵を跳び越えると、真心は快感を得た。

「す、凄い! なんか、初めて凄いって感じした!」
(こんなもの、大したこと無いんだが……)

 真心とグレイスの完成はまるで違っていた。
 けれど柵を跳び越え、目の前の横断歩道を渡ると、銀行が見える。
 なんとか間に合った? かと思ったが、その直後——

 ガラガラガラガラガチャン!

「(あっ!)」

 銀行のシャッターが閉じてしまった。
 ここまで頑張って走ってきたにもかかわらず、あまりにも一瞬で終わってしまった。
 全身から汗を流すと、「そんな」と言いながら、真心は項垂れる。

「間に合わなかったの?」
(仕方ないだろ)
「仕方ないって。グレイスちゃんは用事があったんでしょ?」

 ここまで走って来たのはグレイスのためだった。
 しかしグレイスは態度を変えない。
 むしろ?を浮かべていて、真心の心を砕いた。

(私が用があるのは、ATMの方だぞ)
「そ、そっちなの!?」
(そもそも、銀行に用事は無い。まあ、ここまで来たんだ。ATMに寄ってくれるな?)
「わ、分かったよ」

 真心はまさかと思った。
 銀行に用事があるのかと思いきや、ATMだったとは思わなかった。
 勝手に早とちりしてしまったが、真心は銀行横のATMに入る。

「グレイスちゃん、入ったけどどうするの?」
(その前に、今時間は?)
「時間? えっと、十五時二分だけど」
(十五時二分か。丁度良いな。よし、灰の箱だ)
「灰の箱? うわぁ、なにこれ?」

 時間を気にしているグレイスに、真心は首を捻る。
 そんな中、魔法を唱えると、目の前に灰色の箱が現れた。
 真心の両手に収まると、蓋が勝手に開いた。

 パカッ!

「自動で開いた。ってなにこれ?」

 箱の中にはたくさんのものが入っていた。
 けれど何が何やらさっぱり分からない。
 多分だが、勝手に触れれば大変な目に遭う。
 そう思うと真心は緊張してしまい、下手な真似ができなくなる。

(真心、中に入っている私の顔写真付きカードを取り出してくれ)
「顔写真? もしかしてこれのこと?」

 箱の中には、グレイスの顔写真が印刷された、一枚のカードが入っている。
 大きさはマイカード同じくらいだ。
 真心は挙動不審な態度を取る中、グレイスはそのカードを、ATMのキャッシュカード挿入口に挿れるよう、誘導する。

(それじゃあそのカードを、挿入口に挿れてくれ)
「えっ、このカードキャッシュカードだったの?」
(厳密には違うんだがな、まあ問題は無い)
「問題無いって、なにかあるってことでしょ? 大丈夫かな? 詰まらないよね?」

 真心は不安だったが、キャッシュカード挿入口に近付ける。
 するとカードが吸い込まれるように消えて行き、ガァーガァーガァーと嫌な音を立てる。
 あまりにも不気味で、壊れたんじゃないかと焦った。

「グレイスちゃん、これ、大丈夫?」
(安心しろ。妖魔銀行は常に最新だ)
「妖魔銀行?」

 真心はポツリと呟く。
 すると明るかった筈のATMが暗転。
 真っ暗闇に包まれると、真心は目を見開いた。

「な、なに!? 急に電気が」
(これが妖魔銀行のATMだ)
「ようまぎんこう? もう要素が多すぎるよ」

 真心は呆れてしまう。
 この数日で一体何個知らないワードが飛び出したのか。
 項垂れてしまいそうになるのだが、ATMの液晶が淡いオレンジ色で光っていて、そこにはヘンテコで奇妙なマークが生物の様に蠢いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

童話絵本版 アリとキリギリス∞(インフィニティ)

カワカツ
絵本
その夜……僕は死んだ…… 誰もいない野原のステージの上で…… アリの子「アントン」とキリギリスの「ギリィ」が奏でる 少し切ない ある野原の物語 ——— 全16話+エピローグで紡ぐ「小さないのちの世界」を、どうぞお楽しみ下さい。 ※高学年〜大人向き

神ちゃま

吉高雅己
絵本
☆神ちゃま☆は どんな願いも 叶えることができる 神の力を失っていた

【もふもふ手芸部】あみぐるみ作ってみる、だけのはずが勇者ってなんなの!?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 網浜ナオは勉強もスポーツも中の下で無難にこなす平凡な少年だ。今年はいよいよ最高学年になったのだが過去5年間で100点を取ったことも運動会で1等を取ったこともない。もちろん習字や美術で賞をもらったこともなかった。  しかしそんなナオでも一つだけ特技を持っていた。それは編み物、それもあみぐるみを作らせたらおそらく学校で一番、もちろん家庭科の先生よりもうまく作れることだった。友達がいないわけではないが、人に合わせるのが苦手なナオにとっては一人でできる趣味としてもいい気晴らしになっていた。  そんなナオがあみぐるみのメイキング動画を動画サイトへ投稿したり動画配信を始めたりしているうちに奇妙な場所へ迷い込んだ夢を見る。それは現実とは思えないが夢と言うには不思議な感覚で、沢山のぬいぐるみが暮らす『もふもふの国』という場所だった。  そのもふもふの国で、元同級生の丸川亜矢と出会いもふもふの国が滅亡の危機にあると聞かされる。実はその国の王女だと言う亜美の願いにより、もふもふの国を救うべく、ナオは立ち上がった。

瑠璃の姫君と鉄黒の騎士

石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。 そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。 突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。 大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。 記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

マジカル・ミッション

碧月あめり
児童書・童話
 小学五年生の涼葉は千年以上も昔からの魔女の血を引く時風家の子孫。現代に万能な魔法を使える者はいないが、その名残で、時風の家に生まれた子どもたちはみんな十一歳になると必ず不思議な能力がひとつ宿る。 どんな能力が宿るかは人によってさまざまで、十一歳になってみなければわからない。 十一歳になった涼葉に宿った能力は、誰かが《落としたもの》の記憶が映像になって見えるというもの。 その能力で、涼葉はメガネで顔を隠した陰キャな転校生・花宮翼が不審な行動をするのを見てしまう。怪しく思った涼葉は、動物に関する能力を持った兄の櫂斗、近くにいるケガ人を察知できるいとこの美空、ウソを見抜くことができるいとこの天とともに花宮を探ることになる。

ワンダーランドのおひざもと

花千世子
児童書・童話
緒代萌乃香は小学六年生。 「ワンダーランド」という、不思議の国のアリスをモチーフにした遊園地のすぐそばに住んでいる。 萌乃香の住む有栖町はかつて寂れた温泉街だったが、遊園地の世界観に合わせてメルヘンな雰囲気にしたところ客足が戻ってきた。 クラスメイトがみなお店を経営する家の子どもなのに対し、萌乃香の家は普通の民家。 そのことをコンプレックス感じていた。 ある日、萌乃香は十二歳の誕生日に不思議な能力に目覚める。 それは「物に触れると、その物と持ち主との思い出が映像として見える」というものだ。 そんな中、幼なじみの西園寺航貴が、「兄を探してほしい」と頼んでくるが――。 異能×町おこし×怖くないほのぼのホラー!

処理中です...