灰魔女さんといっしょ

水定ゆう

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妖魔銀行ってなーに?

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「ひやっ!?」

 真心は声を上げた。
 突然、目の前のATMの画面が淡いオレンジ色にぼんやりと光り出したのだ。
 しかもヘンテコで奇妙な目がギョロギョロ蠢いている。
 全身から血の気が引くと、グレイスは真心を落ち着かせた。

(落ち着け、真心)
「これが落ち着いていられるの?」
(安心しろ。これは正常だ)
「正常の判定が広すぎるよ。もしかして、マヤカシに襲われたの?」
(そんな訳があるか。このくらいでマヤカシのせいにしていたら、世の中の全てのATMで同じことが起きていることになるんだぞ)

 グレイスのツッコミは確かにその通りだった。
 もしも全国各地に設置されたATMで同じようなことが起きれば、日本中パニックになる。
 ネットがざわついて、こんな簡単にATMを利用できない。

「それじゃあ、これはなに?」
(これは妖魔銀行のATMだ)
「ようまぎんこう? それってなに?」

 “ようまぎんこう”と真心は繰り返し呟いた。
 するとグレイスはATMを目の前に、簡単に説明した。

(妖魔銀行は、妖魔協会の運営する、千年以上の歴史のある銀行だ)
「銀行なの?」
(そうだな。とは言え、一般には知られていない。陰の世界に通じている者でなければ、まず生涯で利用することは無いだろうな)
「そうだよ、私こんなの見たこと無いもん!」

 真心は妖魔銀行のATMを操作する。
 パネルをタッチし、グレイスに何をすればいいのか訊ねた。

「うわぁ、目が動いた!」
(その目は生きているから、下手に触るなよ)
「怖いこと言わないでよ。なにも触れなくなるでしょ?」

 グレイスが怖いこと言うので、真心はついムキになる。
 それでも頑張ってパネルを操作し、グレイスに言われるがまま、項目を選んだ。

(その“売買”を選べ)
「銀行で売買? しかもATMで……なんだか変だね」
(そうだな。あまりにも一般常識からは外れているな。よし、取り出し口の蓋が開いたら、ハイツクバルものを封じた札を入れろ)

 ATMの取り出し口が二つ開く。
 一つには“御金”と書かれていて、もう一つには“妖魔”と書かれている。
 グレイスは“妖魔”の方を指示し、真心は、お札を入れた。

「これでなにが起きるの?」
(見ていれば分かる)

 グレイスは淡白に答える。
 真心は不審に思いつつ、お札を入れると、蓋がパカッと閉じた。
 それから読み込む音が聞こえると、急にATMから悲鳴が聞こえた。

 ギコギコギコギコギコギコギコギコ!!!

「きゃっ! これダメな奴だよ。絶対ダメな奴!」
(中で細切れにしているんだ。当たり前だろ)
「こ、細切れ!?」

 真心は恐怖を感じた。
 ハイツクバルもの封印したお札だ。
 そんなものを細かくすれば、ハイツクバルものは……顔から血の気が引くと、真心は脚が竦んだ。

(冗談だ)
「冗談に聞こえないから!」

 グレイスの言葉が怖すぎて、もはや信じてしまっていた。
 その間も、ATMの中からは悲鳴が聞こえる。
 今にも壊れてしまいそうで、真心は不安になるも、突然音が止まった。

「あ、あれ? 止まったの」

 真心は耳を塞いでいたが、音が止まったので、ATMに顔を近付けた。
 するとチーン! と鈴の音が鳴り、“御金”と書かれた取り出し口が開いた。

「お、お金?」
(三千円って所か。まあ、上々だな)
「三千円? 本当だ、古い千円札が三枚。三千円分出て来た」

 取り出し口から出て来たのは、今だと珍しい昔の千円札が三枚。
 合計三千円で、お札はかなり色あせていた。
 真心が受け取ると、キャッシュカードを取り出す。
 すると再び暗転し、ATMの中が明るくなった。

「うわぁ、今度はなに!?」
(売買が成立したんだ。さあ、帰るぞ)
「帰るって、もしかしてそのために来たの?」
(当たり前だ。札は早めに処理するのが昔からの習わしだからな。残しておくのは、使える札くらいだ)

 真心の知らないことを、グレイスはたくさん教えてくれた。
 妖魔銀行は、マヤカシを封じ込めたお札を買い取ってくれる。
 その金額は様々で、マヤカシのランクによっても変動する。
 そのおかげか、ハイツクバルものを封じたお札は、なんと三千円になった。

「もしかして、グレイスちゃんはこれで生活してるの?」
(当たり前だ。とは言え、私ほどにでもなれば、もはや趣味と自己満足のようなものだが)
「グレイスちゃんって、どれだけ凄いの?」
(お前の想像の百倍とでも言っておこうか)

 真心の想像力がどれだけのものかは本人にしか分からない。
 けれど、グレイスがとんでもない実力者なのは確かだ。

(あっ、その三千円はお前にやる。貰っておけ)
「えっ!? 友達にお金を貰うなんてダメだよ!」
(構わない。それで好きなものでも食べろ。若いうちは、健康的な食生活が大事だ)
「……グレイスちゃんって、一体何歳?」
「さぁな」

 グレイスは決して自分の素性を話してくれない。
 そのせいで謎が更に深くなるも、真心はお金を貰った以上、なにも聞き出せない。
 トボトボと帰り道を普通に歩くのだった。
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