灰魔女さんといっしょ

水定ゆう

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トウメイリザードに先制を

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 妊婦を見送った真心は、グレイスと一緒に周囲を見回す。
 植木鉢が急に消えた。
 つまり、近くにトウメイリザードがいる。
 油断できない状況に、真心は震えた。

「グレイスちゃん、いるのかな?」
(落ち着け、真心。トウメイリザードに恐怖心を悟られるぞ)
「ごめんね。でも、見えないマヤカシをどうやって見つけたらいいの?」

 トウメイリザードは見えない。
 足跡も消し、完全に気配も殺している。
 いくら目で追っても、その姿を捉えることはできず、時間だけが刻々と過ぎ、真心は住宅地で立ち尽くす変な人になる。

「は、早く出てきて欲しいな」
(どうしてだ?)
「だって、今の私って、凄く変でしょ?」

 住宅地で意味も無く、目的も無く、ただ立ち尽くすその姿。
 まさに変人。不審者扱いで警察に通報されてもおかしくない。
 誰かと待ち合わせる訳でも無く、ポツンとしていた。

「トウメイリザード、何処かに行っちゃったのかな?」
(いや、それはない)
「グレイスちゃん、それ本当?」
(本当だ。何故なら……)

 グレイスが本当のことを言おうとした。
 すると真心の背後に殺気が飛ぶ。
 冷たい感触に触れると、鋭い爪が突き出される。

「きゃっ!」
(すぐ傍にいるからな)

 もっと早く言って欲しかった。
 真心はそう思ったけれど、今は言い返す暇もない。
 素早く直撃を避けると、トウメイリザードから距離を取る。
 もう絶対に見逃さない。魔法を再度かけ直すと、全力で追い掛けた。

「ニンゲン、タベタイ」
「食べられたくなんかないよ!」
(そうだ、逆にトウメイリザードを封じてしまえ)

 グレイスは真心を応援した。
 すぐさま入れ替わって、代わりにトウメイリザードと戦う気は無い。
 まずは真心がトウメイリザードを相手にする。

(本当にいいのか?)
「うん。グレイスちゃんにだけ、無理はさせられないよ」
(お前な……だが、その心意気は買うぞ。存分にやれ)
「ありがとう、グレイスちゃん。借りるね、灰の拳!」

 真心は慣れない魔法を唱える。
 右拳が灰色に変わり、とてつもない魔力を帯びた。
 これには流石のトウメイリザードも恐怖したらしく、警戒して仰け反る。

「ソノマホウ、キライ!」
「私だって、暴力なんてしたくないよ。だからね!」

 真心は拳を振り抜いた。
 もちろん、トウメイリザードには当たる訳が無い。
 距離からして遠く、ただの空振りに終わった。

「アタラナイ……ナラ、イタクナイ!」
(それはどうだろうな)
「ニンゲン、ニンゲン、ニンゲン、タベ……ギャァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 トウメイリザードは断末魔を上げた。
 全身をのけ反らせると、体が灰色になってしまう。
 真心の拳は当たっていない筈なのに何故?
 そう思っても不思議じゃないけれど、トウメイリザードは苦しんでいる。

「イタイ、イタイ、コレ、キライ!」
「あ、当たった?」
(命中した。真心、やはりお前には才能があるな)
「やめてよ、グレイスちゃん。こんな才能、要らないよ」

 真心の拳は空振りだった。
 けれど、灰の拳は確かに当る。
 何故なら、拳に纏っていた灰の拳を、空ぶったと同時に飛ばしたのだ。

「でも、ちょっと可哀そうかな?」
(そんなことないぞ。まだ、弱点が露出していない)
「それじゃあどうしたらいいの?」
(とにかく、拳を浴びせ続けろ。そうすれば確実に……はっ、真心、前だ!)
「前?」

 真心は一瞬だけ視線を外していた。
 けれどグレイスに言われ、前を向き直る。
 するとトウメイリザードは口を開くと、鋭い歯を見せつけ、真心に向かって発狂した。

「ギュァァァァァァァァァァァァァァァ!」
「ううっ、うるさい。なに、急に?」
(これは……真心、灰の詩だ!)
「は、灰の?」
(早くしろ。そうしないと、来るぞ!)

 真心は耳を塞いでしまって、まるで動けかなかった。
 口を開くだけでも大変で、額に皺を寄せる。
 眉がピクピクすると、トウメイリザードは発達した脚を使って飛び掛かる。
 大きな口を開き、鋭い歯をギラリと煌めかせた。

「は、灰の……」
「イタダキマス」

 真心は魔法を唱える隙も無かった。
 やられる。殺される。
 そう思った瞬間、恐怖心が先に溢れ出す。

 なんとか心を保って、恐怖心を追い払おうとした。
 けれど無理。真心は目を瞑りそうになる。

(仕方ないか……)
「まだ……」
(はっ? お前、なにを言って)

 いつもの真心なら折れてもおかしくなかった。
 グレイスはすぐさま庇おうとするが、入れ替われない。
 真心も瞼を閉じることはせず、むしろ灰の拳を繰り出していた。

「私は負けないんだ!」

 真心はトウメイリザードの顔に向かって、灰の拳を叩き込んだ。
 痛い、指が折れそうだ。
 真心は“らしくない”ことをするも、トウメイリザードは驚いて倒れ込む。

「イ、イタイ……イタイイタイイタイイタイイタイ! ウギャァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 トウメイリザードは絶叫を上げた。
 それと同時に弱点が露出する。
 グレイスにとっては予想外で、ポツリと呟いた。

(真心、凄いなお前。トウメイリザードにダメージを……真心?)
「グレイスちゃん……私、やったよ」
(ああ、そうだな。後は私に任せろ)
「ごめんね、グレイスちゃん」

 真心はもう、体力の限界だった。
 心のメーターも既に壊れかけていて、精神が完全に汚染されている。
 そんな真心の気持ちを鑑みて、グレイスは入れ替わった。
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