灰魔女さんといっしょ

水定ゆう

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体は返して貰うぞ

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 グレイスは真心から体を返して貰う。
 自分の姿を取り戻すと、トウメイリザードを睨み付けた。

「真心に陰を送り付けたな」
「ギシシ、ニンゲン、ニンゲンハ、タベレバ、タベレバツヨク……ツヨク!」

 トウメイリザードはグレイスに襲い掛かった。
 鋭い歯をギラギラさせ、グレイスに噛み付こうとする。

「そんなに食べたいなら、食べればいい」
「イタダキマス!」

 トウメイリザードが向かって来る。
 けれどグレイスは一切逃げない。
 逆に腕を突き出すと、ガブリと噛み付かせた。

「どうだ?」
「ウウッ、マズイ! マズイマズイマズイマズイ……オイシクナイ」
「だろうな。私の魔法、灰の血はマヤカシを殺す」

 グレイスの腕にトウメイリザードは噛み付いた。
 するとトウメイリザードは暴れ始め、フラフラと体を揺する。
 苦しみ出すと、トウメイリザードの歯が、ボロボロと崩れていく。

「ナンダ、オマエ」
「私は灰色の魔女。マヤカシを封じる魔法使いだ」

 トウメイリザードの頭にコツンと手を当てた。
 軽くチョップをすると、トウメイリザードは苦しみ出す。

「ギャァ!」
「真心の体を返せ」

 グレイスはトウメイリザードを痛めつけた。
 殴られ、チョップを喰らうトウメイリザードは、苦しみあぐねる。

「ヤメロ」
「真心の体を返せば楽にしてやる」
「ナゼダ」
「何故も無い。あいつは私の友達だ」

 グレイスは友達として、真心を助けたいと思った。
 まだ二日しか一緒に居ない関係だったが、グレイスにとっては、この町で初めてできた友達だ。
 大切にしたい。だからこそ、本気になって怒っていた。

「お前に奪われた存在を返して貰う」
「マホウツカイハ……テキ」
「敵だとして、お前に私は倒せない」

 真心は灰の拳を唱えると、トウメイリザードを殴りつける。
 あまりにも痛々しく、トウメイリザードは反撃する隙さえ無い。
 苦しみ、反撃もできず、頑張って腕を伸ばしても、爪が霞めることは無い。

「トドカナイ?」
「届く訳が無い。早く、真心の体を返せ!」

 グレイスはトウメイリザードのお腹に拳を叩き込む。
 強烈なパンチを叩き込まれると、トウメイリザードは吐瀉物を吐き出す。
 吐き出された液体の色は、何処か禍々しくて、泥のような黒をしていた。

「ゲホッ!」
「ふん、返してくれそうにないんだな」
「カエサナイ、ニンゲンハ、ニンゲンハ、タベテ、ツヨク」

 トウメイリザードは怒りに満ちていた。
 何度も何度も鋭い爪を突き出してくる。
 その全てをグレイスは躱すと、トウメイリザードの額にお札を押し当てた。

「もういい。お前をシュレッターにかけて返して貰う」
「ギャァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 トウメイリザードは大絶叫を上げる。
 額に出現した弱点に、お札が触れる。
 すると奇声を上げだし、苦しみが最絶頂に達した。

「ヤメロ、ニンゲンヲ、ニンゲンヲタベテ……」
「だったら真心の体を返せ」
「ウウッ、ワカッタ……」

 トウメイリザードも封じられたくは無いらしい。
 グレイスの貼り付けたお札を前に、トウメイリザードは何かを抱き出す。
 今度は白い吐瀉物で、同時にグレイスの体がグワンとした。

「この感覚……どうやら返してくれたみたいだな」

 グレイスの体が二重になっていた。
 真心の体が返ってきたことで、重なって見えている。
 ニヤリと笑みを浮かべると、トウメイリザードの額に指を押し当てた。

「それじゃあ、封!」
「ヒキョウモノォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 真心の体が返って来ると、グレイスは容赦しなかった。
 トウメイリザードをお札に封じ込めてしまう。
 最初からこうするつもりだった。初めから、グレイスはトウメイリザードを助ける気は無かったのだ。

「私は魔女だぞ。卑怯が上等だ」

 グレイスはトウメイリザードをお札の中に封じ込めた。
 それと同時に、真心の体を取り戻すこともできた。
 もう魔法は解いてもいい。そう思い、魔法を解除する。

「解除。よっと」

 グレイスは真心と分離した。
 一つに重なっていた体が解かれると、真心の体がフラリとしたので、ソッと抱き寄せる。
 真心の体を抱きかかえると、頬をポンポン叩いた。

「おーい、真心、終わったぞ」
「……」
「しっかりしろ、真心。もう終わった……ダメだな」

 真心は完全に気絶していた。
 意識が完全に無くなっている。
 とは言え性格に脈は刻んでいて、とりあえず息はしている。
 それだけを確かに感じ取ると、グレイスは溜息を付いた。

「まあいいか。これで終わったんだからな」

 全ては終わった。これで関係は無くなる。
 グレイスは真心を背中に背負うと、とりあえず家へと連れ帰ることにした。
 迷惑はもうかけなくて済む。そう思えば、少し切なくて、名残惜しい気もしたが、それが真心にとってはいい筈だと信じ、グレイスはトボトボ歩き出した。
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