灰魔女さんといっしょ

水定ゆう

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気が付けばベッドの上

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「ううっ……はっ!」

 真心はベッドの上で目が覚めた。
 一体何が起きたのか。
 気が付くと、視界に入ったのは天井で、真心は放心する。

「なにが、あったの?」

 真心はポツリと呟いた。
 先程まで住宅地でマヤカシと戦っていた筈だ。
 けれど途中意識が途絶えてしまった。そこから先の記憶が無く、気が付くとベッドの上だった。

「なにがあったんだろ? ……ねぇ、グレイスちゃん」

 真心はグレイスに呼び掛けた。
 しかしグレイスの声は返ってこない。
 真心はしばしの間、無言になってしまうと、もう一度グレイスに声を掛けた。

「グレイスちゃん?」

 真心はグレイスの名前を再度呼んだ。
 けれどグレイスの声は返ってこない。
 何だか寂しい。そんな気持ちが強まると、ふとスマホを取り出す。

「もしかして……あっ!」

 真心は叫んでしまった。
 スマホの画面に映り込んだのは自分の姿。
 二日前にトウメイリザードに奪われていた私の姿形がそこにあった。

「私がいる……それに足も動く?」

 真心は自分の体を触りまくる。
 躓いて足を捻った筈が、そんな様子は一切無く、青紫色にもなっていない。
 怪我一つ、傷一つない体を見て、真心は全てを察した。

「グレイスちゃんがトウメイリザードを倒してくれたんだ。ありがとう、グレイスちゃん」

 真心はここには居ないグレイスに感謝を伝えた。
 もちろん声が返る筈もない。
 心の中にグレイスの姿は無く、真心は真心一人のままだった。

「それにしてもどうして私、ベッドの上にいるんだろ。後、外がなんだか暗いような……はいっ!?」

 スマホを見て真心は気が付く。
 そこには20:15の文字が表示されていた。
 ベッドの上で起き上がっていたけれど、すぐさま立ち上がり、一階に駆け降りる。

「お、お母さん!」

 真心は妙に暗い家の中を駆けた。
 階段をバタバタ立てながら、けたたましく下りる。
 廊下を過ぎ、リビングにやって来ると、真っ暗闇だった。

「誰もいない? もしかしてマヤカシの仕業!」

 真心は脚が竦んでしまった。
 プルプルと震えると、壁伝いに移動して、スイッチを押す。
 一瞬にしてリビングの中が明るくなると、眩しさの余り、腕で目元を隠した。

「ま、眩しい……あれ?」

 リビングの中がハッキリと見えた。
 するとそこには誰も居ない。
 母親の姿も姉の姿も無く、真心は混乱する。

「どうして誰もいないの?」

 真心は自分以外誰も居ないリビングの中を歩き回る。
 何か手掛かりは無いだろうか?
 そう思って視線をキョロキョロさせると、持っていたスマホが震えた。

 ヴーヴー! ヴーヴー!

「今度はなに?」

 真心はスマホを取り出す。
 恐る恐る画面を見てみると、母親からメッセージが送られていた。

「お母さんから?」

 メッセージを見てみると、[もうすぐ帰るから、カレー温めておいてね]とある。
 
「カレー? もしかして、お母さん出かけてたのかな?」

 真心がそう思うと、メッセージを改めて確認する。
 今から数時間前に、母親からメッセージが入っている。
 今日は遅くなるみたいで、真心にカレーを温めておくよう、メッセージを送ったらしい。

「そっか。それじゃあお母さん、今日はずっといなかったんだ……待って。それじゃあ、誰が私を部屋まで運んでくれたの?」

 意識を失った真心を家まで連れて帰って来てくれた人物。
 そんなもの、考えなくても一人しか居ない。

「グレイスちゃん……せめてお礼くらい言わせてよ」

 トウメイリザードの時もそうだった。
 真心はまだ、グレイスにお礼を言えていない。
 それに忘れていることもある。まだグレイスに渡していないのだ。

「マイカードも渡せてなかったよね。私、覚えてたのに……」

 また明日、灰色の森に行ってみよう。
 真心はそう決めると、しばしの間天井を見上げた。
 ポロポロと涙が降って来ると、切ない気持ちでいっぱいになってしまった。
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