灰魔女さんといっしょ

水定ゆう

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大切な友達だから

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 真心は朝早く起きると、いつもよりも早く家を出た。
 それもその筈、真心には行くべき場所がある。
 町の外れ、グレイスと出会ったあの場所だ。

「行ってきます、お母さん」
「あら、早いわね、真心」
「うん。ちょっと寄って行く所があって」

 真心は家を出ると、早速灰色の森に向かう。
 その足取りは軽やかで、早くグレイスにお礼が言いたい。

 とは言えこんな時間に出る必要は無い。
 かと思われるが、灰色の森は立ち入り禁止。
 もし誰かに見られでもすれば、大変なことになってしまうのだ。

「この時間ならバレないよね」

 真心は悪いことをしている気がした。
 けれどグレイスにお礼が言いたい気持ちでいっぱいだ。
 その爪先は真っ直ぐ伸びると、灰色の森まで、最短距離で向かった。

「急がないと……それにしても、今日は変な天気だな」

 灰色の森まで向かう真心。
 しかしその天候は龍睡町にしてみれば普通でも、一般的には変だった。
 大量の濃い霧が立ち込めていて、前を見通すのも難しい。
 車の交通量が少ないおかげで気にしなくても済むが、それでも非常に視界が悪かった。

「どうしてこんな時に?」

 まるで灰色の森に真心を行かせないようにしているみたいだ。
 そんな意地悪を思わせると、真心の視線の先に、灰色の森が現れる。

「着いた。グレイスちゃん、いるかな?」

 早速灰色の森に入ろうとする。
 もしまたマヤカシに出くわしたらどうしよう。
 そんな恐怖心もあったが、勇気を出して一歩前に出た。

「なにしてるの、真心」
「真澄、さん?」

 そんな真心に声を掛けたのは、近所に住んでいる真澄。
 こんな時間、こんな場所で出会うなんて、どんな偶然だろうか?
 真心は驚いてしまうが、真澄は冷静だった。

「灰色の森に用があるの? ここは立ち入り禁止よ」
「わ、分かってますよ。それより真澄さんはどうして?」
「私? 私は、朝の散歩中よ。今日は生憎と、霧が立ち込めているけどね」

 真澄は真心の問いかけにも、一切動じない。
 淡々と答え、真心のことを脅かしてみせる。

「そう言えば真心、グレイスとは仲良くなれた?」
「えっと、実は、その……」
「その様子だと、まだみたいね。あの子にも友達ができてくれたら、私も嬉しいけど」
「友達……」

 真澄の言葉を聞いて、真心はハッとなる。
 そうだ。グレイスは真心のことを友達だと思ってくれている。
 心と心が通じ合っていたおかげか、隠し事なんてできる訳が無い。
 意識を失っていたとはいえ、真心の心にも刻み込まれていた。

「あの、真澄さん。グレイスちゃんは私のこと……」
「真心がなにを言いたいのかは分かるよ。でも、そこは気にしなくていいの」
「気にしなくていい、ですか?」

 真心は真澄の言葉に不安になった。
 血の気がドッと引いて行く感覚がする。
 このまま倒れてしまうんじゃないのか。そんな悍ましさを感じ取ると、真澄は真心に言った。

「グレイスはいい子なの。でも、その力のせいで、誰かと仲良くすることができない。だから、グレイスは頑張ってしまうみたい」
「それは、私も知ってます」

 グレイスは自分には関係の無いことを一生懸命してくれた。
 真心にはそれが痛いほど伝わる。
 本当ならば、見捨ててもいいような関係だったにもかかわらず、最後まで力を貸してくれた。そんなグレイスのことが如何しても気になってしまい、真心は突き動かされる。

「私も、グレイスちゃんのためになにか」
「できるよ、真心」
「真澄さん……ありがとうございます。それじゃあ改めて」
「ちょ、ちょっと待って! 今はダメだって、灰色の森は……」

 真澄は灰色の森に入ろうとした真心を必死止めた。
 けれど真心はそんな言葉聞きはしない。
 ソッと手を伸ばし、足を伸ばすと、全身をバチッと静電気が走ったような感覚に合うが、それも一瞬で、真心はすんなり森の中に入った。

「……入れちゃった。結界が入ってあったのに」

 真澄が止めようとしたのは、灰色の森には結界が張ってあるからだ。
 あらゆるものの干渉を拒み、何人たりとも立ち入らせない。
 それを突破できるのはグレイスだけ……の筈だったが、真澄は珍しいこともあるなと思い、にやけた笑みを浮かべていた。
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