異世界で最強になった俺が偽魔王になってみた。~魔王キャラVTuberの俺が配信していたら、異世界転移してしまい、マジの魔王扱いされたんだが?

水定ゆう

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第10話 往来でひったくりなんてバカだろ

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「さてと、カガヤキさん。そろそろ私、父の所に顔を出してきますね」
「うん、それが目的だったんだろ?」
「はい。くれぐれも、私が戻るまで、騒ぎを起こさないでくださいね。絶対ですよ、絶対!」

 ミュシェルはベンチから立ち上がると、紙コップを潰した。
 如何やら父親の下に向かうらしい。
 俺は手を振って見送ると、何故か念押しをされてしまう。

「ミュシェルは俺のお母さんか」
「お、お母さん!?」

 ミュシェルは顔を真っ赤にした。
 もしかして気恥ずかしかったのだろうか?
 アニメの中でしか見たこと無い顔をされると、なんだか貴重な物を見た気がして面白い。

「う、ううっ。こほんこほん。冗談はさておき、本当にお願いしますね」
「分かってるよ」
「本当に絶対ですよ! 私もできるだけ早く戻りますから」
「そんなに急がなくていいのに」

 ミュシェルは全力で念押しを繰り返した。
 流石に子供じゃないんだ。言われなくても問題を起こす気はない。
 ましてやこの格好だ。下手な真似をすれば、痛い視線と石が飛んで来る。

「それにしても暇だな。なにかないかな?」

 俺はヘッドホンのボタンを押した。
 ダイヤルをクルクル回してスクロールすると、友人A雷斗が入れてくれたアプリを探す。

「簡単なゲームくらいしか無い……ん?」

 俺はトランプゲームでも一人でしようかと思った。
 だけど視線がバイザーの右上に向く。
 緑の点滅とオレンジの点滅が光っている。
 間違いなく、カメラとマイクがONになっていた。

「また勝手に配信が始まってるのか。一体誰の仕業だ?」

 もしかすると、このヘッドホンの寿命かもしれない。
 壊れていてもおかしくは無く、後で修理が必要だ。
 とは言え、工具は持ち合わせていない。
 工具が無いと、流石の俺でも直せないので腕組をして考えると、近くで悲鳴が聞こえた。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「チッ、おい、お前ら退け!」

 悲鳴が上がったので、俺の視線は吸われた。
 もちろん周りにいた人達の視線も奪われると、中年の女性がやんちゃそうな男性に襲われたらしい。
 男性の手には女性ものの鞄が握られていて、ナイフをちらつかせながら、周りを脅して逃げようとする。

「げっ、こんな往来でひったくりかよ。関わらない方が……いや、今の俺なら止められるか」

 普段の俺なら関わり合いになろうとはしない。
 けれど友人A&Bなら、構わずに突っ込む。
 何度も巻き込まれて来たんだ。流石に慣れているせいか、俺だけは余裕な面持ちがあり、カガヤキになっていることもあってか、妙に強気になれた。

「仕方ない……おい!」
「うわぁ! な、なんだよ、お前!」

 俺は点数稼ぎじゃないけれど、とりあえず止めに入った。
 いよいよ転移者らしいギリノーマルなイベントに遭遇する。
 ここまで一日かかった。俺は威圧的な態度を取ると、男性に向かって言い切る。

「往来でひったくりなんて真似、止めた方がいいぞ」
「な、なんだよ、お前! 引っ込んでろ」
「今ならまだ未遂で済む。警察があるか分からないけど、捕まるぞ?」

 まだ未遂で済む。これだけなら、まだ助かる。
 俺は説得では無いが、分かり切っていることをマジレスして伝えると、男性は怒りを表す。

「う、うるせぇ! そこを退きやがれ」
「退いてもいいが……」
「あー、邪魔だ退けろ。退け退け!」

 ナイフを突きつけ、俺のことを脅す。
 けれど俺は一切臆さない。何せ魔王からの勇者パーティーを経験したんだ。
 今更ひったくり犯で驚いていられない。

「ふん、じゃあ通れよ」
「な、なんなんだよ、お前。ぐへっ!」

 俺はわざと男性に道を開けてあげた。
 けれど俺の脇を通り抜けようとした瞬間、伸ばした脚に躓く。
 簡単に転んでしまうと、俺は地面に転がった鞄を手に取る。

「はい」
「ああ、ありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいか」
「お礼なんて要らないよ。それより、鞄の持ち手は、しっかりと握っておくこと。いいな」
「は、はい」

 俺は女性に鞄を返す。
 恐れながらだが、感謝をされると、なんだか気持ちが良い。
 なのに魔王っぽい格好をしているせいか、変に威張ってしまう。
 ダメだなと思いつつも、腰に手を当て威厳を抱くと、転ばされた男性は苛立つ。

「なんなんだよ、お前。邪魔なんだよ!」
「そうか、悪いな」
「チッ。だったらお前を殺して!」
「殺される気は無い。とっとと行け」

 俺は威圧を放つと、男性は持っていたナイフを落とす。
 全身がブルブル震えると、足が竦んで歩けなくなる。
 顔色が青ざめると、喉を潰されたみたいに息ができなくなっていた。

「がっ、あっ、あうぅ、なんだよ。なんなんだよ。お前!」
「俺は通りすがりだ」
「そんな恰好で通りすがりがあるか! はっ、さてはお前、噂に聞く魔王だな! そうに違いない」
「はい?」

 あまりにも軽率な判断で、人を見た目だけで判断していた。
 腰を抜かして俺に指を指すと、口をパクパク金魚みたいに動かす。

「そ、そうだ。エルメールの近くには、邪炎の森がある。その中には魔王城があって、炎の魔王が住んでいるって噂だ。お前、炎の魔王だろ!」
「なに言ってるんだ、お前? 俺が魔王に見えるのか」
「その角と服が証拠だ。でないと、俺が負ける訳が無い! そうだ、お前は魔王だ!」

 男性が俺のことを魔王だと決めつける。
 また面倒なことになったと内心思うが、とりあえず人助けはしたんだ。
 ひったくり犯とそれを止めた俺。どちらが正しいかは明らか。
 そう思ったのも僅かで、周りにいた人達の顔色が変わる。

「ま、魔王だって?」
「今、魔王って」
「そうだ。確かにあの強さ、魔王以外にはあり得ないだろ」
「そうだ、そうだそうだ。あの格好、あの角、あの男、俺達を騙そうとしている。そうだ、そうに違いない」

 ヤバい。とんでもなくヤバい。
 最悪の事態に発展してしまった。
 やっぱり面倒な事に関わってはいけなかった。俺はそう思うももう遅く、ギラリとした赤い瞳が俺のことを畏怖していた。
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