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8章

第92話 知性のある方が楽

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 気負うショコラ放って置くとして、とりあえずこれで危機は去った。

「よし。とりあえず終わったな」
「そうだね。これでガーゴイルに殺された人達も浮かばれるよ」
「いや、それはない。死んだ奴の魂は殺した奴を屠ったとしても解放されるほどこの世界の真理は甘くない」

 俺の一言にエクレアはがっかりした。
 もしかしすると俺がスピリチュアル的なことを口にしたからおかしくなったと思ったのだろう。
 だが俺の言い分は間違っていない。
 加害者を冒涜して気が晴れるのは生きている奴だけで、被害者はその特権にありつくことはないのだ。

「とりあえずコイツを解体するぞ。魔石にならなかったんだ。こうなったら解体するしかない」
「解体? えっ、そんなことをしてもいいの?」
「魔石になる、ならないは致命傷だ。コイツを仕留めたとしても、魔石になるとか言い難い」
「ってことはもう一回?」
「やらないなら俺はやるが?」

 エクレアは渋っていた。
 いつも滅茶苦茶に派手な魔法を容赦なく降り注ぐ奴が言えた口ではない。
 けれどこのまま放置していても、ダンジョンに悪影響が出るだけ。特にここはガーゴイルにとって都合が良すぎるので、早々にやらなくてはならない。

「待って、まだ動いてる」
「ん? 流石は悪魔系統だな。近似なせいか、頭を貫かれても起き上がるか」

 ショコラに止められ歩み寄るのを止めた。
ガーゴイルはまだ生きている。随分としぶといと思いつつ、俺は見下ろしていた。

「お前はまだ闘気があるんだな。随分と意思疎通が可能なようだ」
「知能が高いってことだね。厄介だよ」
「厄介でもない。知能が巡るってことはそれだけで俺たちの有利を誘うことができる。しかも再生しないんだ。勝機はこっちにある」
「そんなフラグを立ててもいいの?」
「問題ない。フラグは立ててこそフラグになる。むしろその方が面白い」

 俺は不気味な笑みを浮かべていた。
 エクレアとショコラは絶句していたが、俺はガーゴイルの前にフレイム=バーナーを突き立てた。

「知性を持っている相手程楽なものはない。恐怖心が募るんだ。虫みたいに脳もなく、ましてや本能だけで生きる生物の威圧を越えてくる根本以前の問題よりも随分と楽だな」

 俺はガーゴイル相手に恐怖を突き立てた。
 既に勝ち目は見えているが、どうやって倒せばいいのか時間稼ぎが必要だ。
 煽るのではなく恐怖を与える。そうすることで、こちらの焦りを見せないで済む。

「エクレア。曲射でコイツの全身を貫け」
「えっ!? そんな怖いこと……」
「お前はガーゴイルよりもおれの方が怖いと言いたいのか?」
「そうじゃないけど……知らないよ?」

 エクレアは《黄昏の陽射しサンライト・ライズ》をもう一度球体として展開。
 空に目掛けて撃ち出した。

「さあどうする? お前は如何したい?」

 俺は恐怖心を募らせた。
 多分逆効果だろうが、ショコラは一歩足を退いていていつでも撃てるようにしていた。

 もちろんエクレアだってわかっていないふりをしている。
 右手は器用に光剣ライト=ソードをクルクルしている。
 準備万端らしく、とりあえず景気よくこれで倒れてくれたら十分だった。

「さあ、逃げるか? 立ち向かうか? お前の知性で考えてみろ。脳か心臓か?」
「!?」

 今一瞬言葉に反応した。
 なるほど。コイツの弱点はコイツに聞けばいいとは思ったが、まさかこうも簡単に吐くとはな。

 俺は《黄昏の陽射しサンライト・ライズ》が降ってくる前に後方に跳んだ。
 すると天空から光のビームが降り注ぎ、ガーゴイルを貫いた。
 土埃が大量に巻き上がり、目の前が見えなくなる。
 しかし魔力の反応やこの憎悪からガーゴイルは攻撃を回避したらしい。

 つくづく面白い。
 こうでないと本気になれない。

「怒らせちゃったかな?」
「だろうな。だがこれでいい」
「燃えてるねカイ君。それで弱点はわかったの?」
「もちろんだ。当然だが奴には心臓がある。そこを貫けば……」
「それなら早い方がいい」

 土煙が上がり、満足に視界が良好ではない中ショコラは迷わず引き金を引いた。
 銀の銃弾は回転しながら撃ち出され、黒い影もないのにガーゴイルを狙う。
 カキーン! と弾かれるような音がした。如何やら防御したようだが、何が起こっているのかまるでわからない。
 それどころか、敵も見えないのによく当てたとショコラを感心した。

「当たったけど、外れた?」
「凄いよショコラちゃん。この調子なら……」
「そう上手く行くといいがな」

 俺は眉根を寄せた。ちょうど面白くなってきたのはいいが、まさかここまで厄介とは思わなかった。
 俺が起こらせたからではない。
 もちろん恐怖心に煽られて進化したわけでもない。
 ガーゴイルは再生しない分、ある武器を持っていた。それが俺たちの活路を阻む由々しき事態だった。

「エクレア、ショコラ。総力戦で行くぞ。何が何でも心臓を貫け」

 土煙がようやく晴れると、中からガーゴイルが姿を現す。
 腕は再生していない。けれどこの威圧感は何だ。
 ショコラが撃った銃弾が右腕にめり込んで止まっていて、とんでもない硬度に俺は口角を上げた。
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