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◇250 トレントディア1
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空模様は今日も快晴。
しかし今のところ、その快晴は見上げることができなかった。
鬱蒼とした緑がアキラの視線を遮った。
敷き詰められた木の葉の絨毯が空模様を覆い隠し、薄っすらと透過する太陽光だけが差し込んでいた。
足元はかなり良好だった。
湿っているわけでもなく、むしろ乾燥している地面はぬかるんだりしなかった。
そのおかげで力強く蹴り上げても、足が取られることはなかった。
「今日は良い感じだね!」
アキラはいつもよりも環境のコンディションが良かったので、ガッツポーズを取り笑みも浮かべた。
その隣を歩く親友のフェルノも楽しそうに景色を眺めていた。
「確かに今日はポカポカしてて気持ちいよねー。いっつも最悪な環境だったもんね」
いつもは鬱蒼とした陰気な空気の漂う森の中や道に迷う森の中。
ぬかるんだ森の中や草木の生い茂る森の中。
などなどetc……
とにかく森の中ばかりが続いていたけれど、今回の森はアキラたちにとってはマシな部類の環境なのは間違いなかった。
「そうだよね、Night?」
「こんなに歩いていて気持ちの良い森って久しぶりだよねー」
話を今度はNightに振った。
一番後ろをトボトボ歩くNightは何処か機嫌が悪そうにしていた。
「そうだな」
言葉も淡々としていて、一言で返した。
つまらないというわけではないが、不満を募らせていた。
「如何したのNight? さっきからむくれちゃって」
「機嫌でも悪いのかなー?」
フェルノは濁すことなくストレートに返した。
するとNightは不貞腐れた様子でこう言った。
「そうじゃない」
「そうじゃないなら如何して頬を膨らませているの?」
「それはお前が急に『緊急事態! 来られる人集合!』と呼び出しておいて、結局いつものことだったからだ!」
アキラは自分で蒔いた種で怒られてしまった。
フェルノはログイン早々アキラと合流したので話を知っていた。
すぐに了承したフェルノとは対照的で、ギルドホームでのんびりしていたNightは急にアキラに呼び出されて、別に大したことの話に頭を抱えた。
それを今も引きずっていたが、いつものことなのでNightはあまり気にしていなかった。
問題は呼び出された理由だ。二人はトレントディアに付いて全く知らなかった。
「如何してこうも面倒なモンスターを相手に」
「えっ、簡単じゃないの!」
「簡単じゃない。トレントディアは“森の聖者”と呼ばれるエルダーディアの進化前だ」
「「進化前!」」
アキラとフェルノは何かが始まりそうな予感に胸を高ぶらせた。
進化があるなんてわくわくした。早く会ってみたいと思う反面、Nightはこうも言った。
「しかも警戒心がかなり高い。なかなか出会えないぞ」
「それって……遭遇率が低いってことー? エンカウントしないのー?」
「そうだな。しかも角となると話しが変わる。角は鹿系モンスターの象徴のようなものだからな。そんなものを入手しようなんて……落ちているやつが見つかればいいが」
Nightは地面や枝の間をくまなく探した。
この時期は角の抜け落ちシーズンのようで、もしかしたら偶然まぐれにでも見つかる可能性に懸けていた。
「そんなに大変だったんだ……知らなかったよ」
「勝手にクエストが発動したんだ。仕方ないだろ」
Nightは諦めた様子でもあった。
アキラはホッと胸を撫で下ろしたが、棘が突き刺さった。
けれどNightはこうも言った。
「しかしこの機会を逃すのも惜しい」
「そうだねー。ちなみに報酬は?」
「えーっと、書いてないよ?」
「……止めるか」
Nightは急にそんなことを言い出した。
何が貰えるのかもわからないクエスト以外に不気味なものはなかった。
しかしアキラはNightの腕を抑え込んだ。
逃げようとするNightをしっかりと保持する。
「帰っちゃダメだよ」
「離せ。私は本の続きを読むんだ」
「そんなの後回しでもいいでしょ? ほら、もう少しだけ頑張ってみようよ」
「当てもないのにか?」
「……はい」
アキラはNightにズバリと言われて心苦しくなった。
けれどアキラは引き下がらなかった。
「大丈夫だよ。そのうち手がかりも見つかるはずだもん。ほら、足跡とか?」
「こんな乾いた地面にできると思うのか?」
「爪の跡ぐらいなら少しはできるかも……ね?」
「はぁー。せめてもう少し手掛かりがあればな」
Nightは大きな溜息を吐いた。
アキラは手掛かりがないかひたすら探した。とは言えここはみんなで探した場所なので、目ぼしいものは見つからなかった。
「元気出そうよーアキラ」
「元気はあるんだよ。うーん、もう少し奥の方に行けばもっと他の鹿も居るのかな?」
アキラはポツリと言った。
Nightはアキラの言葉に引っかかり、首を捻った。
「アキラ、今何って言った?」
「他の鹿も居るのかな?」
「そこだ。他の鹿って何だ!」
Nightは食い気味いアキラに尋ねた。
アキラは首を捻ったが、視線誘導で草むらの奥に目を凝らした。
「ほら、あそこに鹿がいるでしょ?」
「はっ、そんなわけ……嘘だろ」
そこには立派な角を生やした一頭の牡鹿が居た。
木の陰に隠れて居て気が付かなかったが、角には丸い宝玉が幾つも付いている。
何処から如何見ても普通の鹿じゃない。
「ねっ、居たでしょ?」
「馬鹿かお前は。アレがトレントディアだ。むしろエルダートレントになりかけているだろ!」
「嘘っ!?」
アキラは驚いた。
その拍子にせっかく見つけたトレントディアは逃げ出してしまった。
急いで追いかけないと見失ってしまうと思った。
そう思った三人は全速力で悪路な草むらを掻き分けた。
しかし今のところ、その快晴は見上げることができなかった。
鬱蒼とした緑がアキラの視線を遮った。
敷き詰められた木の葉の絨毯が空模様を覆い隠し、薄っすらと透過する太陽光だけが差し込んでいた。
足元はかなり良好だった。
湿っているわけでもなく、むしろ乾燥している地面はぬかるんだりしなかった。
そのおかげで力強く蹴り上げても、足が取られることはなかった。
「今日は良い感じだね!」
アキラはいつもよりも環境のコンディションが良かったので、ガッツポーズを取り笑みも浮かべた。
その隣を歩く親友のフェルノも楽しそうに景色を眺めていた。
「確かに今日はポカポカしてて気持ちいよねー。いっつも最悪な環境だったもんね」
いつもは鬱蒼とした陰気な空気の漂う森の中や道に迷う森の中。
ぬかるんだ森の中や草木の生い茂る森の中。
などなどetc……
とにかく森の中ばかりが続いていたけれど、今回の森はアキラたちにとってはマシな部類の環境なのは間違いなかった。
「そうだよね、Night?」
「こんなに歩いていて気持ちの良い森って久しぶりだよねー」
話を今度はNightに振った。
一番後ろをトボトボ歩くNightは何処か機嫌が悪そうにしていた。
「そうだな」
言葉も淡々としていて、一言で返した。
つまらないというわけではないが、不満を募らせていた。
「如何したのNight? さっきからむくれちゃって」
「機嫌でも悪いのかなー?」
フェルノは濁すことなくストレートに返した。
するとNightは不貞腐れた様子でこう言った。
「そうじゃない」
「そうじゃないなら如何して頬を膨らませているの?」
「それはお前が急に『緊急事態! 来られる人集合!』と呼び出しておいて、結局いつものことだったからだ!」
アキラは自分で蒔いた種で怒られてしまった。
フェルノはログイン早々アキラと合流したので話を知っていた。
すぐに了承したフェルノとは対照的で、ギルドホームでのんびりしていたNightは急にアキラに呼び出されて、別に大したことの話に頭を抱えた。
それを今も引きずっていたが、いつものことなのでNightはあまり気にしていなかった。
問題は呼び出された理由だ。二人はトレントディアに付いて全く知らなかった。
「如何してこうも面倒なモンスターを相手に」
「えっ、簡単じゃないの!」
「簡単じゃない。トレントディアは“森の聖者”と呼ばれるエルダーディアの進化前だ」
「「進化前!」」
アキラとフェルノは何かが始まりそうな予感に胸を高ぶらせた。
進化があるなんてわくわくした。早く会ってみたいと思う反面、Nightはこうも言った。
「しかも警戒心がかなり高い。なかなか出会えないぞ」
「それって……遭遇率が低いってことー? エンカウントしないのー?」
「そうだな。しかも角となると話しが変わる。角は鹿系モンスターの象徴のようなものだからな。そんなものを入手しようなんて……落ちているやつが見つかればいいが」
Nightは地面や枝の間をくまなく探した。
この時期は角の抜け落ちシーズンのようで、もしかしたら偶然まぐれにでも見つかる可能性に懸けていた。
「そんなに大変だったんだ……知らなかったよ」
「勝手にクエストが発動したんだ。仕方ないだろ」
Nightは諦めた様子でもあった。
アキラはホッと胸を撫で下ろしたが、棘が突き刺さった。
けれどNightはこうも言った。
「しかしこの機会を逃すのも惜しい」
「そうだねー。ちなみに報酬は?」
「えーっと、書いてないよ?」
「……止めるか」
Nightは急にそんなことを言い出した。
何が貰えるのかもわからないクエスト以外に不気味なものはなかった。
しかしアキラはNightの腕を抑え込んだ。
逃げようとするNightをしっかりと保持する。
「帰っちゃダメだよ」
「離せ。私は本の続きを読むんだ」
「そんなの後回しでもいいでしょ? ほら、もう少しだけ頑張ってみようよ」
「当てもないのにか?」
「……はい」
アキラはNightにズバリと言われて心苦しくなった。
けれどアキラは引き下がらなかった。
「大丈夫だよ。そのうち手がかりも見つかるはずだもん。ほら、足跡とか?」
「こんな乾いた地面にできると思うのか?」
「爪の跡ぐらいなら少しはできるかも……ね?」
「はぁー。せめてもう少し手掛かりがあればな」
Nightは大きな溜息を吐いた。
アキラは手掛かりがないかひたすら探した。とは言えここはみんなで探した場所なので、目ぼしいものは見つからなかった。
「元気出そうよーアキラ」
「元気はあるんだよ。うーん、もう少し奥の方に行けばもっと他の鹿も居るのかな?」
アキラはポツリと言った。
Nightはアキラの言葉に引っかかり、首を捻った。
「アキラ、今何って言った?」
「他の鹿も居るのかな?」
「そこだ。他の鹿って何だ!」
Nightは食い気味いアキラに尋ねた。
アキラは首を捻ったが、視線誘導で草むらの奥に目を凝らした。
「ほら、あそこに鹿がいるでしょ?」
「はっ、そんなわけ……嘘だろ」
そこには立派な角を生やした一頭の牡鹿が居た。
木の陰に隠れて居て気が付かなかったが、角には丸い宝玉が幾つも付いている。
何処から如何見ても普通の鹿じゃない。
「ねっ、居たでしょ?」
「馬鹿かお前は。アレがトレントディアだ。むしろエルダートレントになりかけているだろ!」
「嘘っ!?」
アキラは驚いた。
その拍子にせっかく見つけたトレントディアは逃げ出してしまった。
急いで追いかけないと見失ってしまうと思った。
そう思った三人は全速力で悪路な草むらを掻き分けた。
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