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◇270 見たこともないロボット掃除機

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 よがらに案内されて蒼伊の部屋へと向かった。
 掃除の行き届いた廊下には埃一つ落ちていなかった。

「廊下がピカピカだ!」
「ロボット掃除機を走らせたら楽そうだねー」

 烈火は不謹慎にもよがらの目の前でそう言った。
 しかしよがらは特に気にしていなかった。
 むしろ「御名答です」と烈火の発想を讃えた。

「確かにこの屋敷の廊下は広い上に平坦で長いので、時折ロボット掃除機を活用しています」
「本当だったんだ……」

 明輝は失礼だと思って言わなかったが、如何やら間違っていなかった。
 烈火は「イェイ!」と親指を立てて喜んだ。

「でも普通のロボット掃除機だけだと大変そうですよね」
「そうですね。この屋敷には私以外のメイドは一人しかいませんので、蒼伊様の開発した機器を使って……」

 よがらはそう説明した。
 すると何処からともなくキュィィィィィーン! と機械音が聞こえた。
 
「な、何だろうこの音……」
「機械音だとは思うんだけど何だろうねー。ラジコンとか?」

 確かに廊下も長いから普通に遊べそうだった。
 しかし窓の外を見ると大きな噴水付きの庭があった。
 雑草なども特には無く、花壇が手入れされていた。

「ちょうど良いですね。多分この曲がり角を曲がると……」

 よがらに続き角を曲がった。
 コの字型の屋敷の中を進むと、廊下を何かが這っていた。
 とは言えすぐに答えが知れた。

「ロボット掃除機?」
「それにしては市販のやつじゃないよね?」

 確かにロボット掃除機だった。
 けれど電気屋さんに売っているような薄型のものではなかった。

 ましてや業務用で使うような分厚くて吸引力のあるタイプでもなかった。
 どちらの良いところだけを取り入れたハイブリット型だった。

「あのロボット掃除機は蒼伊様が作ったものです」
「「えっ!?」」
「蒼伊様が小学生の頃、不法投棄されていた故障品のロボット掃除機を見つけた際、様々な廃材を搔き集めて改造したのです」
「それって本当の天才じゃないとできないことなのでは?」
「うちの学校にもいるよね、そう言う天才」
「そうなの? でもロボット掃除機を改造する何て」
「作ったりもしていますよ。独自のAIを取り入れて自動的に掃除をしてくれます」

 如何やらそのおかげで広い屋敷の中も掃除が行き届いていた。
 常にピカピカな屋敷の中を見回して明輝たちは納得した。

「それでは蒼伊様のお部屋に参りましょうか」
「「お願いします」」

 ロボット掃除機を見た後、明輝たちはよがらの後を続いた。
 そのまま一階の奥を目指した。

「今更だけどこの御屋敷って何階……」
「三階建てですね。蒼伊様のお部屋は一階の奥から二番目です」

 よがらは間髪入れずに答えた。
 しかし明輝は疑問を口にしていた。

「……如何してそんな」
「私も蒼伊様には安全も兼ねて上の階に移動して貰いたいのですが、基本的に一階だけで完結してしまいますので」

 つまり一階だけで全て解決してしまうのだ。
 便利が招いたのは二階以上を必要としない結果だった。

「蒼伊って合理的だもんね」
「だね。毎回最小の動きだけしかしないから」

 明輝と烈火は蒼伊のことをそう思っていた。
 しかし以前の蒼伊を知っているよがらにとって、今の蒼伊は違っていた。
 悪い方向に転んでいるわけではなかった。
 むしろ毎日が楽しそうで、死んだ瞳に生を受けていた。

「本当に御変わりになられました」
「よがらさんは蒼伊のことを良く知っているんですよね?」
「いいえ。私が蒼伊様に御仕きになったのは数年前の話です。それまで蒼伊様は、専属のメイドを付けることはございませんでした」

 よがらはそう答えた。
 すると何処か神妙深そうに遠くを見てしまった。

「本当に、蒼伊様に御仕きできるようになってから私の人生もようやく回り始めました」

 明輝と烈火はその雰囲気に踏み込んではいけない気がした。
 けれど明輝は優しく言葉を掛けた。

「良かったですね、よがらさん」
「はい。それから蒼伊様を変えてしまわれた明輝様。その御友人の烈火様。本当に良き方々と巡り合えたことに心より感謝致します」

 よがらは尊い存在を見るようだった。
 すると廊下の向こうから何かが駆けて来る小さな音を聞いた。
 よがらでなければ聞き逃してしまう程、音は非常に小さくて軽かった。

「ん?」
「如何したんですか、よがらさん?」

 明輝は尋ねた。
 鋭い眼を向け、廊下の奥を睨んだ。

 そこには何も居なかった。
 けれど向こうの方から何かが走って来るようによがらには聞こえていた。

「ロボット掃除機ですか?」
「いいえ。そうではありませんが、こちらに向かって来ていますね」

 よがらは一言で返事を止めた。
 明輝と烈火は何か分からない得体の知れない恐怖に包まれた。

 とは言えよがらは何も警戒していなかった。
 むしろ日常風景の一部の様に感じていた。

「あ、あの何か居るんですか?」
「はい。向かって来ていますが……遊んでいるんでしょ」
「メイドさんですか?」
「他にもロボットが居たりして」

 明輝と烈火は想像力を働かせた。
 しかし明輝と烈火は何かが駆けて来る音に気が付いた。
 ピコンと頭に電球が灯った。

「もしかして動物?」
「子の足音って猫かな?」
「御名答です」

 よがらは流石の想像力だと褒めた。
 しかし明輝と烈火は怯えていた。
 蒼伊の家だ。どんな猫科の動物が居るのか分からなかった。

「もしかしてライオンとか虎とかかな?」
「分かんないよ。チーターとか豹かも」
「いえ、違いますが……」

 明輝と烈火の想像の加減によがらは否定した。
 すると廊下の奥から黒い塊が飛んできた。
 そのまま飛び掛かると、明輝は肩の上に乗られてしまった。
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