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◇285 クリスマスボアを倒した

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 雷斬を抱きかかえていたアキラは全員の下に戻った。
 ベルが一番になって心配し、すぐさま駆け寄った。

「雷斬無事? 大丈夫なのよね?」
「はい、この通り無事です。アキラさん、ありがとうございました」
「ううん。雷斬はお疲れ様。一番危険な役目をして貰ってごめんね」

 アキラは雷斬に感謝した。
 すると雷斬は「いえ」と否定的な言葉を飛ばしたが、その手の中に納まっていたものをアキラに手渡した。

「ですがこれで完成ですね」
「ありがとう。それじゃあ早速……」

 雷斬が頑張って取ってくれた赤い宝石をアキラは受け取った。
 後は急いでスタットに戻るだけなのだが、フェルノが「ちょっと待って!」と叫んだ。

「何だ。目的は達したぞ」
「それはそうだけど……アレ如何するの?」

 フェルノは指を指した。
 そこにはクリスマスボアが怒り狂って暴れていた。

 もちろんNightは最初から気が付いていた。
 しかしこちらに気が付いていないため、如何にかすれば逃げ切れると踏んでいた。

 だがしかしダメそうだった。
 クリスマスボアがガシガシと地面を踏み鳴らしながら、アキラたちに気が付いてしまった。
 こうなった以上は戦うしかないのだ。

「い、いやぁー。普通に強いよ」
「そうだな。極力避けたい」

 いつもなら戦っているはずだ。
 しかし今回は倒すこと自体は目的ではなく、赤い宝石を手に入れることだった。

 その目的を既に達した今、無駄に争う必要は無かった。
 このまま逃げられればそれで良かったのに、クリスマスボアはアキラたちを執拗に狙った。

「宝石の奪取が目的だからな。相当強く設定されているぞ」
「如何するの? 今更逃げられないよ……って来たぁ!」

 急に余裕が無くなった。
 クリスマスボアは突進攻撃をしてきたが、すんでのところで躱すことに成功した。

「あ、危なかった……」
「ちょっと待ってよ。さっきより動きは遅いけど、パワーが上がっているんだけどー」

 フェルノは不満を漏らした。
 如何やら赤い宝石を取られたことでボルテージが上がっているとNightは読んだ。

「マズいな。赤い宝石の効果で身体能力が強化されていたはずが、怒りで自発的に強化し始めたのか……長期戦になれば不利だぞ」
「それじゃあ如何するの?」
「決まっているだろ。こっちも策を労する」

 Night得意の戦法に持ち込むことにした。
 けれど雷斬は種族スキルの連続発動でかなり疲労が溜まっていた。
 流石に危機感を感じたことで、呼吸も浅くなっていた。

 当然だがNightも気が付いていた。
 そのため前衛を張るのはいつも通りアキラとフェルノになるはずだった。

 しかし今日は違った。
 前に出たのはベルだった。

「今日は私がやるから」
「ベ、ベル?」
「疲れているでしょ? あの種族スキル、強力な分体力を使う。HPじゃなくて、インターバルを要すのはそう言うことでしょ? 知っているから、無理しないでよね」

 ベルは雷斬を叱った。
 親友からの一言に全てを察し、「お願いしますね、ベル」と安堵して答えた。

「任せておいて。それじゃあ私が前衛をすわね」
「それは良いけど……大丈夫?」
「何のこと言ってるのよ」
「だってベルは普段は遠距離から攻撃してくれるから……いくら薙刀フォームでも……」
「問題無いわよ。さあ、とっとと蹴りを付けるわよ!」

 ベルの雰囲気が変わった。
 荒々しい性格に変わり、弓を広げて薙刀に変形させた。

 こうなるベルを見るのは久しぶりだった。
 雷斬も滅多に見ることのできない前傾姿勢のベルを目の当たりにして「頼りがいがありますね」と口走った。

「誰にもの言ってるのよ。アキラ、フェルノ、遅れを取らないでくれる?」

 もはや別人とまでは行かなかった。
 しかしカッコよさが際立っていた。

「因みに超集中モードはどのくらい続くんだ?」
「そうですね。初めて皆さんと会った時は無理をしていたので……今なら十分は行けると思いますよ」
「十分か……よし、ベル頼んだぞ。まずは……」
「黙ってなさい」

 ベルはNightの声を弾圧した。
 軽く一蹴されてしまうと、Nightは驚いた。
 いつものちょっとツンケンしたベルの口調とは対照的で、弓術フォームの時には見せない荒々しさが爆発していた。極まっていたはずが、突然個人行動を取り始めた。

「おらっ!」

 ベルは【風読み】を使うと風を纏った。
 雷斬の雷を纏う種族スキルとはかなり異なっていた。

「凄い、ベル速いよ!」
「当然よ。とっととぶった切る!」

 ベルはクリスマスボアの青い剛毛に薙刀の刃を叩きつけた。
 グサリと刃の先が剛毛を削ぎ落して肉へと切り込まれた。
 ダメージを与えたようで、HPバーが多少なりとも変動した。

「チッ! 硬いな」
「筋肉質……と言うよりも脂が多いと見た。アキラ、フェルノ。私に考えがある……とは言え連携は必至だ」
「連携って……元々一人が好きなベルに通じるかな?」
「大丈夫だと思いますよ」

 雷斬が心配事を吹き飛ばした。
 アキラたちへと視線を向けていたが、その目には光が灯っていた。
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