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◇292 賑やかになり過ぎた混沌の街

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 フェルノに言われるとは思わなかった。
 アキラはハッとなって、トレントディアに言った。

「そ、それじゃあ行こっか! トレントディア、スタットの街に向かって。方角はあっちだよ!」

 アキラは指を指した。
 離れているはずなのに、もの凄く明るく映った。

 トレントディアたちはアキラが指さした方を見た。
 何かを察したのか、目がキリッとした。
 如何やらプレイヤーやNPCを包みつつある穢れを感じ取ったらしい。

「大丈夫? 行ける?」

アキラは心配した。
 しかしトレントディアたちは勇敢で、自らの意思でそりを走らせた。
 この時点で残り時間は十分を切っていた。

「できれば急いでくれるか? 時間がない」
「そんなこと言ってら可哀そうだよ。ね、トレントディア? うわぁ!」

 急にトレントディアたちが走り出した。
 するとそりが高く高く浮き上がり、完全に飛んでいた。

 どんな理屈かは分からない。
 けれど地面がかなり遠く感じた。

 高所恐怖症なら絶対にダメなラインだった。
 それぐらい高くそりが飛び上がり、トレントディアたちは宙を駆けた。

「す、凄い。本当に空を飛んでいるよ!」
「やはり原理が気になるな。この地点になると、電磁波ではないのか?」
「そっち方面の話題はもういいよー。それよりさー、見て見て! 街の灯りが眩しいよ!」

 まるでテーマパークだった。
 遊園地の電光が目の前にあるみたいな喧騒が、空高くから映り込んだ。

「都会って感じだね」
「田舎から上京して来たみたいな言い方するな。私達の住んでいる辺りも、それなりには都会だろ。東京だろ」
「そうじゃなくて……外から見た時の景色がね。そんな感じなのかなって」
「黄昏ているねー」

 何だかうっとりしてしまった。
 そんな最中、ベルがツッコミを入れた。

「そんな話はいいでしょ? それより早く行くわよ」

 こうしている間に時間はコクコクと過ぎ去ってしまう。
 もしかしたら意識を刈り取る影響が出ているのかもしれなかった。

「行ってください」

 雷斬が声を掛けた。
 するとトレンドディアたちは街へと向かって一直線に駆けて行った。

 もの凄く早かった。伝承のサンタクロースはこんな感じで超高速で街から街へと駆けているのかと思うと、何だか感慨深かった。
 それだけ強い重力の圧が全身を硬直させた。

(は、速い……雷斬ってこんな速度でいっつも。凄い)

(くっ……重力の圧が!)

(うわぁ速い速い。気持ちが良い! でも喋れない)

(く、くらくらするわね)

 四人は唇を噛んでいた。
 口を開ければ大量の空気が体内に入り込んできて大変なことになると思ったのと、重力の圧でそもそもが喋らなかった。
 たった一人を除いては。

「皆さん、大丈夫ですか?」

 雷斬だけはいつも通りだった。
 平然とした顔色を浮かべて話しかけていた。

「皆さん、圧を感じているんですね。大丈夫ですよ。体の硬直を解いて、空気を吸い込むのではなく吐き出してしまうんです。そうすれば体が急激な圧力の変化にも対応できるように調整できますから」

 雷斬はそう言った。
 しかしそんな技を簡単にできるわけもなく、アキラですら困難だった。

「む、無理……」
「フェルノしっかりして。とりあえず少しだけスピード落として欲しいな?」

 アキラはトレントディアたちに頼んだ。
 すると聞き入れてくれたようで、少しだけスピードが落ちて圧が無くなった。

「はぁー、圧が少し下がってくれて良かったー。ありがと」
「アキラさん、今普通に話していましたよ?」
「えっ? あっ、本当だ。もしかして知らず知らずのうちにできてたのかな?」
「おそらくそうでしょうね。飲み込みが早いです」
「えへへ、実は飲み込みは早い方なんだぁー」

 アキラは褒められて照れてしまった。
 しかしNightが首を突っ込んだ。

「確かにな。だが……これは一種の才能だ」
「Nightも戻ったんだね。やっぱり速すぎるって凄いね」
「雷斬の苦労が身に染みたわね。あー、頭痛いわ」

 ベルが頭を押さえていた。
 如何やら気圧の影響か何かが出たらしく、全員頭を押さえていた。

「皆さん急激な気圧の変化に合わせて空気を吸い込んでしまったんですね。気を付けてくださいね」
「そう言うことは早めに言ってよねー」

 フェルノが不服そうに訴えた。
 すると雷斬は頭を下げて礼をした。

「すみません」
「いいや、謝らなくても良いんだよー」
「そうなんですか? それにしてもトレントディアさんたちは優秀ですね。私たちの声をここまで聞いてくださるなんて」
「そうだね。もう少しで街に入るよ……うわぁ」

 アキラは驚いて声を上げてしまった。
 トレントディアの引くそりから下を見て見ると、たくさんの人の姿があった。

 建物の灯りだけではなく、街を練り歩く人たちが点のようだった。
 こんなに人が居たと思うと、圧巻させられてしまった。

「凄い人だね」
「そうだね。蟻みたいだよねー」
「蟻みたいって、でも確かに。こんなの百パーセントはぐれたらアウトだよ」

 アキラははぐれなくて良かったと胸を撫で下ろした。
 しかしNightは違う視点を見ていた。
 トレントディアの動きが悪くなったのだ。
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