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◇322 それぞれの元日
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降美槍は明輝たちを見送った。
左手を振り続け、その姿が見えなくなるまで続けた。
苦な表情は一切なく、むしろ楽しそうだった。
「まさかこの神社に足を運んでくれる人たちがいたなんて……ついつい嬉しくて仕方ありませんでしたよ」
降美槍は本気で嬉しそう。
それもそのはず見ての通り静かな龍星神社の境内は人っ子一人居なかった。
あまりにも静観が過ぎていて、静寂さえものにしている。そんな雰囲気が立ち込めていて、より人が踏み入れてはいけない神聖な様相を保っていた。
「この神社に参拝してくれる方は私の友達かあの人たちくらいですからね。久々に初見の楽し気な顔色を窺うことができましたよ」
隕石を見せたのも正解だった。まさか自分と同じタイプの人間がこんなに近くに居るとは思わなかった。
これで自分を含めて三人目だと、降美槍はにこやかな表情を浮かべる。
「それにしても宇宙ですか。本当に人によってパーソナルスペースは違うんですね」
降美槍は目をスッと閉じた。すると目の前にイメージしたのは霧が立ち込める森の奥深く。たくさんの槍が降り注ぎ、幾本も地面に突き刺さっている。
まさしく降美槍。自分自身を象徴していると感じ取る。
「はっ! はーっ、はっ!」
降美槍は槍を持っているイメージをして、全身を動かしていた。
一本の槍を巧みに操り敵を薙ぎ倒す。自分は勇ましく強い。そう言い聞かせるようにして、軽い運動を取り入れるのだった。
「斬禍のお友達ということは皆さんあの世界に行っているんですよね。ということは、今後出会うことは必然。先輩として少しは力になってあげられたらいいのですが……まあ、私は私なりに手を貸すだけですね」
降美槍はイメージトレーニングを終了した。
自分以外誰も居ない神社の境内で、竹箒を持ち枯葉の一つも落ちていないが掃除をし始める。少しでも綺麗な方が良い。降美槍の元日もいつもと何ら変わらないのだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「おっ、なかなか良い景色ですね」
エルエスタは目の前に広がる絶景を独り占めしていた。
元日と言う一年の初めの日に、こんなにも自然豊かな景色に浸りながら、寒空を遮る湯船に浸かることができる何てと、つくづく運が良いと思ってしまう。
「久しぶりの休暇ですからね。存分に満喫しないといけません」
エスエスタは日頃の疲れとストレス社会から解き放たれるために少しばかり遠出していた。
期間としては三日ほどだが、あえてプランを立てていなかった。
行き当たりばったりではあるが、顔が広く圧倒的なカリスマ性を誇るエスエスタにとって何も苦ではなく、むしろ羽を伸ばすことができ満足感を得ている。
「湯加減も丁度良いですね。天然温泉らしく体の芯まで温まります」
エルエスタは髪を巻き、その上からタオルで覆っていた。
中には万が一の時のスマホが入ってはいるものの、それ以外は完全に素の状態。
肩まで湯船に浸かり、大きな石を積み重ねて丸くした壁面に背中を付ける。
誰にも邪魔をされることが無い。まさしく外界から著しく解き放たれている状態だった。
ピピピピピピピピピピピピピピピ!
タオルで包んでいるスマホが鳴った。
頭の上に置いていたのですぐさま取り出すと、ディスプレイを見る。
「誰からでしょうか?」
暗くなっていたディスプレイに視線を落とす。
そこには知り合いの名前がありました。
「耶摩さんから?」
何かあったのだろうか? エルエスタは電話に出る。
すると第一声で聞こえてきたのは耶摩の怒号だった。
「はい、何でしょうか?」
「社長、今何処にいるんですか!」
耶摩はとても焦っている。口調からほぼ間違いなく伝わると、思考の更に先を読まなくても何となく状況を把握する。
エルエスタは「何かあったんですね」と大したこと無さそうに呟くも、耶摩の焦りは酷い。
「あったに決まってます。だから今何処にいるんですか?」
「今ですか? 私は北海道に来ていますよ。人里離れた秘境の温泉に浸からせていただいています」
「ほ、北海道!? 何でそんな所にいるんですか!」
「何でと言われましても。私、先月の初めには伝えていましたよね?」
「えっ!? ええっ……ほ、本当ですね」
「メモの見忘れですね」
それにしても一体何があったのか。エルエスタはとても気になる。
そこでゆっくりのぼせない程度に尋ねた。
「何があったんですか? 社会情勢を乱すようなことはしていないはずですよ」
絶えずではないものの、時折確認していた。
エルエスタの目線からすれば気にするようなことではないものの、株価が下がっているわけでもないので、何をしたのか逆に気になる。
「それがそのプログラムが……」
「ほぼ完璧に仕上げているはずですよ?」
「そ、そう何ですけど……何処まで行ったら完成なのか分からなくて、その……」
「消してしまったんですね」
「はい……」
どんなミスなのかと思っていたが、それくらいのことは読んでいた。
エルエスタは「そうですか……」と口にすると、優しく語り掛ける。
「分かりました。それではここから一つずつ指示していきますね」
「す、すみません」
耶摩は不安いっぱいの声を上げる。
しかしエルエスタはそのカリスマ性を武器にして、耶摩のミスを無かったみたいに丁寧に処理するのだった。
左手を振り続け、その姿が見えなくなるまで続けた。
苦な表情は一切なく、むしろ楽しそうだった。
「まさかこの神社に足を運んでくれる人たちがいたなんて……ついつい嬉しくて仕方ありませんでしたよ」
降美槍は本気で嬉しそう。
それもそのはず見ての通り静かな龍星神社の境内は人っ子一人居なかった。
あまりにも静観が過ぎていて、静寂さえものにしている。そんな雰囲気が立ち込めていて、より人が踏み入れてはいけない神聖な様相を保っていた。
「この神社に参拝してくれる方は私の友達かあの人たちくらいですからね。久々に初見の楽し気な顔色を窺うことができましたよ」
隕石を見せたのも正解だった。まさか自分と同じタイプの人間がこんなに近くに居るとは思わなかった。
これで自分を含めて三人目だと、降美槍はにこやかな表情を浮かべる。
「それにしても宇宙ですか。本当に人によってパーソナルスペースは違うんですね」
降美槍は目をスッと閉じた。すると目の前にイメージしたのは霧が立ち込める森の奥深く。たくさんの槍が降り注ぎ、幾本も地面に突き刺さっている。
まさしく降美槍。自分自身を象徴していると感じ取る。
「はっ! はーっ、はっ!」
降美槍は槍を持っているイメージをして、全身を動かしていた。
一本の槍を巧みに操り敵を薙ぎ倒す。自分は勇ましく強い。そう言い聞かせるようにして、軽い運動を取り入れるのだった。
「斬禍のお友達ということは皆さんあの世界に行っているんですよね。ということは、今後出会うことは必然。先輩として少しは力になってあげられたらいいのですが……まあ、私は私なりに手を貸すだけですね」
降美槍はイメージトレーニングを終了した。
自分以外誰も居ない神社の境内で、竹箒を持ち枯葉の一つも落ちていないが掃除をし始める。少しでも綺麗な方が良い。降美槍の元日もいつもと何ら変わらないのだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「おっ、なかなか良い景色ですね」
エルエスタは目の前に広がる絶景を独り占めしていた。
元日と言う一年の初めの日に、こんなにも自然豊かな景色に浸りながら、寒空を遮る湯船に浸かることができる何てと、つくづく運が良いと思ってしまう。
「久しぶりの休暇ですからね。存分に満喫しないといけません」
エスエスタは日頃の疲れとストレス社会から解き放たれるために少しばかり遠出していた。
期間としては三日ほどだが、あえてプランを立てていなかった。
行き当たりばったりではあるが、顔が広く圧倒的なカリスマ性を誇るエスエスタにとって何も苦ではなく、むしろ羽を伸ばすことができ満足感を得ている。
「湯加減も丁度良いですね。天然温泉らしく体の芯まで温まります」
エルエスタは髪を巻き、その上からタオルで覆っていた。
中には万が一の時のスマホが入ってはいるものの、それ以外は完全に素の状態。
肩まで湯船に浸かり、大きな石を積み重ねて丸くした壁面に背中を付ける。
誰にも邪魔をされることが無い。まさしく外界から著しく解き放たれている状態だった。
ピピピピピピピピピピピピピピピ!
タオルで包んでいるスマホが鳴った。
頭の上に置いていたのですぐさま取り出すと、ディスプレイを見る。
「誰からでしょうか?」
暗くなっていたディスプレイに視線を落とす。
そこには知り合いの名前がありました。
「耶摩さんから?」
何かあったのだろうか? エルエスタは電話に出る。
すると第一声で聞こえてきたのは耶摩の怒号だった。
「はい、何でしょうか?」
「社長、今何処にいるんですか!」
耶摩はとても焦っている。口調からほぼ間違いなく伝わると、思考の更に先を読まなくても何となく状況を把握する。
エルエスタは「何かあったんですね」と大したこと無さそうに呟くも、耶摩の焦りは酷い。
「あったに決まってます。だから今何処にいるんですか?」
「今ですか? 私は北海道に来ていますよ。人里離れた秘境の温泉に浸からせていただいています」
「ほ、北海道!? 何でそんな所にいるんですか!」
「何でと言われましても。私、先月の初めには伝えていましたよね?」
「えっ!? ええっ……ほ、本当ですね」
「メモの見忘れですね」
それにしても一体何があったのか。エルエスタはとても気になる。
そこでゆっくりのぼせない程度に尋ねた。
「何があったんですか? 社会情勢を乱すようなことはしていないはずですよ」
絶えずではないものの、時折確認していた。
エルエスタの目線からすれば気にするようなことではないものの、株価が下がっているわけでもないので、何をしたのか逆に気になる。
「それがそのプログラムが……」
「ほぼ完璧に仕上げているはずですよ?」
「そ、そう何ですけど……何処まで行ったら完成なのか分からなくて、その……」
「消してしまったんですね」
「はい……」
どんなミスなのかと思っていたが、それくらいのことは読んでいた。
エルエスタは「そうですか……」と口にすると、優しく語り掛ける。
「分かりました。それではここから一つずつ指示していきますね」
「す、すみません」
耶摩は不安いっぱいの声を上げる。
しかしエルエスタはそのカリスマ性を武器にして、耶摩のミスを無かったみたいに丁寧に処理するのだった。
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