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◇421 吹雪の夜に出直し

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 雪の降り方が強くなってきた。
 アキラたちは全員揃ってそそくさと露天風呂を後にした。
 全身から湯気を出しながら、旅館らしい浴衣に着替える。

「うーん、気持ち良かったね」
「うんうん。やっぱり冬の寒い日の入る温泉はなにか違うよねー」

 全身がポカポカして気持ち良かった。
 湯気をモクモク立たせながら長い廊下を歩いていた。

「クロユリさんありがとうございました。おかげで雪将軍の情報も手には入りました」
「いえいえ。私はなにも……それより、Nightさんは大丈夫でしょうか?」
「あー……大丈夫じゃないですか?」

 クロユリはNightのことを心配していた。
 チラッと視線を向けてみると、Nightは延々と情報を洗っていた。
 ネットの海は広い。そこから信頼できる情報を深く深く潜っていき、ドンドン目の焦点が固定されている。

「Night、せっかく体が温まったのにそんなに集中したら脳がオーバーヒートしちゃうよ?」

 アキラは心配になって声を掛けてみた。
 するとNightは一切顔を動かすことなく情報を集め続けた。

「Nightさん、頑張り過ぎは体に毒ですよ?」
「そうだな。だが時間は惜しいだろ」
「ですが……」
「安心しろ。私は自負しているが普通じゃない。今だって脳の四分の一を使い、残りは使っていないからな」

 クワトラブルマルチタスクを使い、Nightは無理やりに落とし込もうとした。
 だけど同時に複数のことが並列でできるだけで、脳を休ませられるわけじゃない。
 何となくだが直感で感じ取ったアキラはNightに言った。

「時間が惜しいからって、無理してたら最高のパフォーマンスは発揮できないよ?」
「それは分かっている」
「だったら尚更だよ。Nightは情報をミスら無いんでしょ? これでミスったら?」
「立場無いよねー」

 フェルノが余計とも言える一言で場を凍らせる。
 流石にそこまでは言っていない。
 けれど追い打ちとばかりの言葉が如何してか響いたようで、Nightの手がピタリと止まった。

「そうだな」
「嘘でしょ? まさかフェルノの説得で言うことを聴くの?」
「そ、そうだよね。ちょっと意外」
「私をなんだと思っているんだ。別にフェルノの説得? かは分からないが、響いたわけじゃない」

 フェルノの一言を完全に一蹴してしまった。
 アキラたちはそれじゃあ何故? と首を捻ったものの、ネットの海から無事に帰って来た姿を見るに、ある程度の情報は仕入れられたらしい。

「コーヒー牛乳いる?」
「あっ、要ります」
「私も貰う」

 天孤はこの状況でもマイペースに振る舞い、コーヒー牛乳を手渡した。
 冷たくキンキンに冷えた瓶を貰い、紙製の蓋を開けると、Nightはコーヒー牛乳を一気に飲み干す。
 アキラも飲もうとするが固まってしまい、よっぽど脳が乾いていたと伝わった。

「もう一本どや?」
「いや、もういい」
「そっかー。ええ飲みっぷりやったのに、残念やわ」

 天孤からの誘いをキッパリ断った。
 口元に付いたコーヒー牛乳の残りを拭い取ると、集まった情報を呪文のように唱える。

「クロユリが話してくれた雪将軍の情報だが、詳細は不明だがある程度は合っているらしい」
「やっぱりそうなんだ。クロユリさん、ありがとうございました!」
「いえ、ですから私はなにも」

 クロユリはやはり謙遜していた。
 ここまでの情報が引き出せたのはクロユリのおかげ。
 けれどそれだけじゃない。天狐が誘ってくれて、椿姫と出会って、みんなで集めた情報だ。間違いだったとしても、ここまでの経緯は間違ってない。

「いや、妖帖の雅のおかげだ。助かった」
「Nightが素直に感謝した!?」

 アキラは目を丸くしてしまった。
 けれど癪に障ったのか、ジロッと軽く睨まれた。

「私だって感謝の一つや二つは言える。それくらいの礼儀は心得ている」

 何て返されても意外は意外。驚くのも無理はなかった。

「それじゃあ情報も集まったし、間違いもないみたいだしさー、早速行ってみる?」
「うーん、今からだと……」

 フェルノが調子付いて来たので今から行こうと提案した。
 けれどアキラは腕を組んでしまい、時間も遅いし出直した方が良い気がする。
 するとNightとクロユリが声を上げ、アキラの意見に追い風を吹かせる。

「それは無理だ」
「そうですね。止めておいた方が良いと思いますよ」

 Nightとクロユリは同時にそう答えた。
 一体何故と当然の疑問を抱くには十分だった。

「どうしてー? 場所が分かったんでしょ?」
「分かったとはいえ時間がある。雪将軍の情報を洗う中で見つけた」
「そうですね。私もお話が中途半端でしたがまだ続きがあるんです。雪将軍は武家屋敷の跡地、真夜中かつ吹雪の中でしか出現しないそうです」

 ここに来ての新情報だった。
 外を見てみると雪はパラパラと降っているが、吹雪でもなければまだ日も明るい。
 今から行っても雪将軍が居ないと分かり、フェルノは落胆した。

「なーんだ。今行っても意味ないんだー、残念」
「だがこれで確定もした」
「そうですね。雪将軍は確実に居ます。頃合いを見て挑みに行きましょうか」

 雷斬は平常心の中ではあったがメラメラと燃え上がっていた。
 何となくだがアキラたちも伝わり意気込みを入れる。

「それじゃあ雪将軍、絶対倒すよ!」
「「「うん!」」」

 一致団結。これでこそギルドだ。
 その様子を見せつけられた妖帖の雅は「私たちも負けていられませんね」と対抗心を燃やす。これがこのGAMEの醍醐味だったが、一つ間違いがあった。

「ちなみにですが、真夜中は真夜中でも現実とこの世界の時刻が真夜中ですよ」
「「「えっ?」」」

 クロユリは最後にそう言った。
 つまり相当チャンスが少なくなる。
 学生のアキラたちには厳しい条件が立ち塞がり、初めから期限が決められてしまった。
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