1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について

水定ゆう

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聖夜編

393.シルヴィアと大男②

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 マズい状況になってしまった。
 シルヴィアは苦汁をなめ、表情を歪めている。

「い、痛いわね……」

 シルヴィアは腕を押さえていた。
 肘が青紫に腫れ上がり、変な方向に曲がっていた。
 多分骨は折れていない。そのせいで神経を通って激痛が押し寄せて来る。

「はぁはぁ……痛い、痛すぎる」

 シルヴィアはピンチに陥っていた。
 しかし誰かに助けて貰えるわけでもなく、シルヴィアはクブに有利を取られてしまい棍棒の嵐を逆に喰らう羽目になった。

「叩き落とす!」

 棍棒の勢いがさっきよりも強い。
 シルヴィアは緊急回避して左に回り込む。
 けれどクブは帯電した体を半捻りさせ、シルヴィアの避けた方に棍棒を打ち込む。
 またしてもクリンヒットしそうになったところで、急上昇して逃げる。

「ちょこまかと逃げるな!」
「無理よ。逃げないと死んじゃうでしょ!」
「だったら払い落とす」

 シルヴィアは後方に下がろうとした。
 けれどクブはそれを見越していたのか、巨体にもかかわらずちょっとだけジャンプした。
 棍棒を振り上げると、逃げるシルヴィア目掛けて振り下ろした。

「ちょっと!」
「死ねっ!」

 シルヴィアは死を覚悟した。
 けれどこんな所で死ぬなんてまっぴらごめんだ。
 腕の痛みを堪えて無理やりにでも後ろに飛んだ。
 すると棍棒が鼻先を掻っ切る。直撃は防いだものの、不安定な体勢だったこともあり腕の痛みが急増し、体勢を維持できなくなってしまった。

(マズい、マズすぎるわ……うっ、意識が遠くなって……)

 シルヴィアは頭を抱えそうになる。
 視界が霞み、頭痛まで引き起こしそうだ。
 意識がだんだんと遠くなるのを何となくで感じ取ると、海馬の奥の記憶が呼び起こされて励ます。

「シルヴィ、風は友達なんだよ」
「そうなの師匠?」
「うん。どんな時でも風は吹いてる。例え無風だとしても、この惑星が回る限りね。だから風はどんな時だって見えなくても近くにいる。それを解っていれば上手く行くはずだよ」
「はい、師匠!」

 ああ、そうだった。
 シルヴィアは思い出し、空中で姿勢を制御ウする。

(そうだ。なにを忘れていたんだ、私は)

 シルヴィアは精神を振り絞った。
 腕の痛み何て関係ない。
 青紫色の腫れた腕を庇うことも忘れ、本気になってクブの目の前を横切る。

「コレで、終わり! なにっ!?」
「こんな所で終わる訳ないでしょ。私の憧れは、もっと強い。もっと遠いんだから!」

 シルヴィアはクブの背後に回り込んだ。
 無防備な背中。そこ目掛けて魔術を編んだ蹴りを飛ばす。

「《ラピッドキック》!」

 シルヴィアは風を纏った渾身の蹴りを背中に叩き付けた。
 クブは痛がる素振りを見せ棍棒を叩き付けようとするが、それすら見越してシルヴィアは対処する。

「させないわよ! 《ラピッドウィンド》!」

 シルヴィアは拳を空に向かって振り抜いた。
 一発だけではなく何発も。風が拳の代用になり、棍棒を弾き飛ばした。
 どれもこれも師匠の見様見真似。それでも完成度は確かなもので、優勢だったはずのクブはよろけてしまった。

「つ、強い」
「当たり前よ」

 シルヴィアは瞬時に距離を取った。
 指先を弾くように風を掻き切る。

「《スキャッター・ウィンド》!」
「うわぁっ!」

 風を爪で引っ掻いたようにクブに襲い掛かる。
 突然の痛みを肌で感じ、クブは体を丸めた。
 筋肉の鎧によってある程度は遮られてしまったが、クブの体が少しだけ後方に下げられる。
 顔だけを覗かせると、シルヴィアを睨むように視線を飛ばした。

「何処にそんな強さ……が」
「さあね。それよりこれで終わりにしてあげるわ」

 シルヴィアは勝利宣言を突きつけた。
 しかしクブはムッとした表情を浮かべて立ち上がるものの、予断を許さない状況にシルヴィアは全力で放った。

「もう一度よ、巻き起こすは嵐、吹きすさぶはいかずち、雨足は槍となり粉砕し破壊せよ—《ハリケーンアタック》!」

 シルヴィアは力を振り絞ってクブの背後を取ると、後頭部目掛けて撃ちこんだ。
 突然の突風。巻き起こる鋭い雷。槍の様に降りしきる雨に全身が軋む。
 骨が砕ける音がした。筋肉が断裂する。
 クブはあまりの痛みに刺激され、発狂した。

「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 クブは頭を押さえながらその場で倒れた。
 うつ伏せになってピクリとも動かなくなるが、死んではいない。
 これもシルヴィアの腕の高さで、最低限生命の危機は回避した。

「ふぅ、良かったわね。私が手加減してあげて」
「ぐっふ!」
「でも動けないでしょ。私も、ちょっと動けないわね。はぁはぁ……」

 シルヴィアも息が上がっていた。当然だ。《ハリケーンアタック》を二度も使用した反動は大きい。
 その場で座り込んでしまうと、シルヴィアは天を仰ぐ。
 黒いカーテンに覆われる中、「私はやったわよ」と後を託すように達成感に浸っていた。
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