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チョコレート編
590.ヴィスピナナイフ
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「ってことがあったんだけどね」
「それは大変でしたね、ルカさん」
ルカはコーヒーを片手にナタリーと話していた。
湯気が立っているので冷ましながらだ。
砂糖もミルクも入っていない。甘いものでもあれば、また少し質が変わる。
「ルカさん、甘いものはいかがですか?」
「甘いもの?」
「はい。丁度いただき物がありまして」
あまりにもグッドタイミングだった。
まるで心を読まれたみたいで釈然とはしない。
けれどルカを前にして下手な真似はできないと分かっているので、ナタリーは弁明する。
「いつもお菓子を用意できていないので、この時期と言うこともあり、ご用意させていただきました」
「この時期?」
「ルカさんはご存じですよね。バレンタイン」
「バレンタイン? ああ、私とは無縁の奴だね」
ルカは知っている。バレンタインは自分とは永遠に無縁であると。
何せバレンタインとは何処かの宗教が発端となって生まれたイベント。
男性が女性に贈り物をし、また女性が男性に贈り物をする。そんな風習が今にも続いていた。
「それがどうしたの?」
「いただき物のお菓子ですが」
「チョコレートだね。そう言えば、ダリアにも頼まれたっけ」
教室でダリアにチョコレート作りを手伝って欲しいと言われた。
もちろん、ルカはチョコレートを作ったことはある。
けれどダリアが作りたいのは普通のチョコレートであって、ルカみたいな回りくどいことは望んでいない。
「ダリアさんにですか?」
「うん。チョコレート作りをね」
「チョコレート作りですか……それはどちらで?」
「えっ、シルヴィアの家だけど」
「そうですか。よかったです」
ナタリーは不思議な質問をした。
何故か一瞬魔力の流れに棘ができた。
しかしルカの回答に安心したのか、魔力の流れの棘は消える。
安堵したみたいで胸を撫で下ろすと、コーヒーをゆっくり飲む。喉をスッと通ると、笑みが生まれていた。
「それよりルカさん、お味は?」
「ん? まだ食べてないけど」
「そうでしたね。では少し話を変えましょうか……この間はありがとうございました」
ナタリーは急に話を切り替えた。
空気がピリッとして肌に障る。
突然感謝されたのだが、ルカは別に大したことはしていない。
そのつもりだったのだが、エルフ族の代表としてナタリーの血が声を上げた。
「エルフの森ですが、あれから順調に復興を続けているそうですよ」
「尽力しているんだ。偉いね」
「自分たちの住む場所ですから。これも全て、ルカさん達のおかげです」
「感謝されるのは嬉しいよ。代わりに単位でも貰おうかな」
「はい」
「……冗談だって」
ナタリーの返事が冗談を通用しないよう、貫通させていた。
ルカは冗談だと促し掛けるも、ナタリーには届かない。
むしろ本当にいつも以上の成果に単位をたくさんくれそうで怖かった。
「まあそれはいいとして……例の露結晶の正体は分かった?」
「ルカさんが持ち帰ってくださった、露結晶製のナイフですね」
「うん。ディンネルから託されたものだからね。壊してはいないと思うけど……」
「もちろんです。それに関しましては、私の命を懸けて」
「懸けなくてもいいから」
今回のナタリーからは冗談が聞こえてこない。
それもその筈、相手がエルフ族だから。
ディンネルにとっても、ヴィスピナにとっても、ナタリーは大きな存在なのだ。
「それで、露結晶の正体は?」
「確かに露結晶の正体は、エルフ族の間では有名なヴィスピナ・ロアンズの魔術と同義でした」
「やっぱりか。ってことは、露結晶の正体は本物ってことだね」
「そうですね。実際、露結晶になっているので安堵しますが、これがもしも魔結晶であれば調査も難航していたでしょうね」
ナタリー曰く、ヴィスピナ・ロアンズは相当な魔術師らしい。
露結晶は魔術が消えている。その残りみたいなものだ。
固まった露結晶には魔術としての効果はない。そのおかげで、魔結晶に比べ調査に危険は少ない。おかげでナタリーの中で結論が出た。
「ってことは、なにか異変はあった?」
「異変ですか? 確かに、闇の魔法使いの場合は“歪”が出ます」
「その言い方、出なかったってこと?」
「はい。時間が立ち過ぎているのかそもそもが露結晶のせいか。痕跡らしいものはなにも」
「ふーん、やってくれるね」
ルカは笑みを浮かべていた。何せこんな“面白い”ことは久々だ。
特異な“歪”が無い、と言うことは初めから闇の魔術師ではない。
もしくは“何者かによって、消されている”可能性が出て来た。
「ナタリーはどっちだと思う? ヴィスピナが犯人か、真犯人が他にいるか」
「私は……後者だと思いますよ」
「私も。それじゃあ、真犯人は……」
「まだ、分かっていません。ですがこれほどまでに強力な魔術に干渉できている。と言うことは」
「闇の魔法使いの仕業かな?」
ルカが結論を先に出すと、ナタリーは「はい」と小さな声で返す。
深刻な表情に加えて、怒りの描写さえ窺える。
それもその筈、エルフ族を誑かした愚か者だ。真なるエルフ族の長として、腹の虫が治まらないのだろう。
「そっか。ナタリーはどうしたい?」
「聞くまでもありますか?」
「殺したいの?」
「もちろんです。この手で、死後も癒えない傷を与えない所ですよ」
ナタリーが久々に毒を吐く。
心の奥底から湧き上がる怒りが、ルカに叩き付けられる。
けれど気にしてはいけない。そう思っても仕方が無い。結局の所、進展はあったが真犯人については何も分からず仕舞いで、残念ながらディンネルの期待とは到底違っていた。
「それは大変でしたね、ルカさん」
ルカはコーヒーを片手にナタリーと話していた。
湯気が立っているので冷ましながらだ。
砂糖もミルクも入っていない。甘いものでもあれば、また少し質が変わる。
「ルカさん、甘いものはいかがですか?」
「甘いもの?」
「はい。丁度いただき物がありまして」
あまりにもグッドタイミングだった。
まるで心を読まれたみたいで釈然とはしない。
けれどルカを前にして下手な真似はできないと分かっているので、ナタリーは弁明する。
「いつもお菓子を用意できていないので、この時期と言うこともあり、ご用意させていただきました」
「この時期?」
「ルカさんはご存じですよね。バレンタイン」
「バレンタイン? ああ、私とは無縁の奴だね」
ルカは知っている。バレンタインは自分とは永遠に無縁であると。
何せバレンタインとは何処かの宗教が発端となって生まれたイベント。
男性が女性に贈り物をし、また女性が男性に贈り物をする。そんな風習が今にも続いていた。
「それがどうしたの?」
「いただき物のお菓子ですが」
「チョコレートだね。そう言えば、ダリアにも頼まれたっけ」
教室でダリアにチョコレート作りを手伝って欲しいと言われた。
もちろん、ルカはチョコレートを作ったことはある。
けれどダリアが作りたいのは普通のチョコレートであって、ルカみたいな回りくどいことは望んでいない。
「ダリアさんにですか?」
「うん。チョコレート作りをね」
「チョコレート作りですか……それはどちらで?」
「えっ、シルヴィアの家だけど」
「そうですか。よかったです」
ナタリーは不思議な質問をした。
何故か一瞬魔力の流れに棘ができた。
しかしルカの回答に安心したのか、魔力の流れの棘は消える。
安堵したみたいで胸を撫で下ろすと、コーヒーをゆっくり飲む。喉をスッと通ると、笑みが生まれていた。
「それよりルカさん、お味は?」
「ん? まだ食べてないけど」
「そうでしたね。では少し話を変えましょうか……この間はありがとうございました」
ナタリーは急に話を切り替えた。
空気がピリッとして肌に障る。
突然感謝されたのだが、ルカは別に大したことはしていない。
そのつもりだったのだが、エルフ族の代表としてナタリーの血が声を上げた。
「エルフの森ですが、あれから順調に復興を続けているそうですよ」
「尽力しているんだ。偉いね」
「自分たちの住む場所ですから。これも全て、ルカさん達のおかげです」
「感謝されるのは嬉しいよ。代わりに単位でも貰おうかな」
「はい」
「……冗談だって」
ナタリーの返事が冗談を通用しないよう、貫通させていた。
ルカは冗談だと促し掛けるも、ナタリーには届かない。
むしろ本当にいつも以上の成果に単位をたくさんくれそうで怖かった。
「まあそれはいいとして……例の露結晶の正体は分かった?」
「ルカさんが持ち帰ってくださった、露結晶製のナイフですね」
「うん。ディンネルから託されたものだからね。壊してはいないと思うけど……」
「もちろんです。それに関しましては、私の命を懸けて」
「懸けなくてもいいから」
今回のナタリーからは冗談が聞こえてこない。
それもその筈、相手がエルフ族だから。
ディンネルにとっても、ヴィスピナにとっても、ナタリーは大きな存在なのだ。
「それで、露結晶の正体は?」
「確かに露結晶の正体は、エルフ族の間では有名なヴィスピナ・ロアンズの魔術と同義でした」
「やっぱりか。ってことは、露結晶の正体は本物ってことだね」
「そうですね。実際、露結晶になっているので安堵しますが、これがもしも魔結晶であれば調査も難航していたでしょうね」
ナタリー曰く、ヴィスピナ・ロアンズは相当な魔術師らしい。
露結晶は魔術が消えている。その残りみたいなものだ。
固まった露結晶には魔術としての効果はない。そのおかげで、魔結晶に比べ調査に危険は少ない。おかげでナタリーの中で結論が出た。
「ってことは、なにか異変はあった?」
「異変ですか? 確かに、闇の魔法使いの場合は“歪”が出ます」
「その言い方、出なかったってこと?」
「はい。時間が立ち過ぎているのかそもそもが露結晶のせいか。痕跡らしいものはなにも」
「ふーん、やってくれるね」
ルカは笑みを浮かべていた。何せこんな“面白い”ことは久々だ。
特異な“歪”が無い、と言うことは初めから闇の魔術師ではない。
もしくは“何者かによって、消されている”可能性が出て来た。
「ナタリーはどっちだと思う? ヴィスピナが犯人か、真犯人が他にいるか」
「私は……後者だと思いますよ」
「私も。それじゃあ、真犯人は……」
「まだ、分かっていません。ですがこれほどまでに強力な魔術に干渉できている。と言うことは」
「闇の魔法使いの仕業かな?」
ルカが結論を先に出すと、ナタリーは「はい」と小さな声で返す。
深刻な表情に加えて、怒りの描写さえ窺える。
それもその筈、エルフ族を誑かした愚か者だ。真なるエルフ族の長として、腹の虫が治まらないのだろう。
「そっか。ナタリーはどうしたい?」
「聞くまでもありますか?」
「殺したいの?」
「もちろんです。この手で、死後も癒えない傷を与えない所ですよ」
ナタリーが久々に毒を吐く。
心の奥底から湧き上がる怒りが、ルカに叩き付けられる。
けれど気にしてはいけない。そう思っても仕方が無い。結局の所、進展はあったが真犯人については何も分からず仕舞いで、残念ながらディンネルの期待とは到底違っていた。
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