3 / 165
第1部
第1章:碧の瞳ー002ー
しおりを挟む
白き代理人体が振るう戦斧は円眞の目前にあった。
碧い瞳に獲物を捕らえた確信が宿る。だが驚愕へ染まるのも瞬く間であった。
斬りつけられた円眞は、反射的に身体を捻った。右斜めから振り降ろされた白き戦斧が奪えたのは、頭髪の二・三本だけだ。寸前で避けたさまは、まさしく神技としか言いようがない。
「そんな……」
思わず呟いた碧い瞳の少女は、次の瞬間に息を詰まらせた。
円眞が身を翻したことで背後から迫っていた刀の切先は、そのまま前方へ尽き出されていく。
戦斧を持つ白き人影の胸元を深々と貫いた。
白き女性は日本刀によって串刺しになった。霧散するのも、あっという間だった。
かはっ、と苦鳴を吐き出す碧き瞳の襲撃者だ。自分の発現した代理人体が受けるダメージをもろ被りするようであれば、粉砕はかなりきついはずである。
ふらり、碧き瞳の少女は揺らめく。そのまま後ろ倒しで落ちていった。
危ない! 実際に声が出ていたか定かでないが、円眞は飛び込んでいた。
碧い瞳の襲撃者の意識は朦朧としている。このままでは後頭部を、したたかに地面へ打ちつけてしまう。舗装された固い路面では、万が一もあり得る。
手の甲を路面に擦らせて伸ばした円眞の右手はぎりぎり間に合った。碧き瞳の少女の後頭部が落ちきる寸前に支えられた。
けれども円眞に安堵を覚えている暇はない。
代理人体から我が身を守った際と同じ気配を感じ取った。つまり殺気である。
考える間もなく碧き瞳の少女の頭を横たえた。
振り向きざまに刀身を捉えた。今回は素手だ。能力を発現させる暇もない。
円眞は真剣白刃取りを強いられていた。
斬りつけてくる相手は、細身の女性だ。さらりとした長髪であり、ビジネススーツで決めている。やり手のキャリアウーマンといった見た目だが、左腰に差さる鞘が一般人ではないことを明言していた。
「おどき、えんちゃん。憬汰さんが残してくれた店に手を出すなんて、生かしちゃおけないわ」
憤怒の形相で両手で刀の柄を握りしめている女性であるが、円眞の呼び方は親しき表現だ。
うっ、と呻く声が路面から立ち昇ってきた。碧き瞳の少女が意識を取り戻したようだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ、彩香さん」
背後を気にかけつつ円眞は訴える。
彩香と呼ばれた女性には、かばう格好がおもしろくないらしい。
「なに、えんちゃん。そのオンナに惚れた? 店をめちゃめちゃにされたのよ」
さらに滾らせた声と共に、刀を握る手へいっそう力を込めたみたいだ。
返答ができないほど懸命に刃を両手で挟む円眞だ。押し込んでくる力はかなりである。
がくり、と片膝が落ちた。
見上げる碧い瞳に驚きが走った。
操る白き女性が放つ打撃力に自信を持っていた。それを受け止めきった標的のほうが上だったと認めるしかない。
ところが今、自分の敵わなかった相手が力負けしている。見た目は美人のお姉さんといった態だが、秘めた怪力は凄まじい。
噂通り、この街は怖ろしい所だ。
どれほどの者たちが巣喰っているのか。大したはずだった自分の能力をいとも容易く葬られた。
しかも碧き瞳の少女の安否は計らずも、襲撃した相手に委ねられている。
押し込まれた刀に片膝を突きながらも必死で堪える円眞が、ふと思い出したように口にした。
「あ、彩香さん。スキルは使わないでよね」
「使わないで欲しかったら、えんちゃん、どいて。私にそいつの両手両足を切り離させて、両目を潰させなさい」
「で、でも彩香さん、言ったじゃないか。まず私怨を晴らすより金銭だって。命よりもまず賠償の算段が先だって」
あっ、といった感じの彩香だ。
鬼の形相をあっさり解けば、刃を引き揚げる。さっさと腰元にある鞘へ収めた。
円眞は目前の相手へ、はっきり届くほど大きな安堵の息を吐いた。
彩香は照れたように頭へ手を置いた。
「商売していくなら、何に代えても、まずおカネよね。私が教えたことを、ちゃんと覚えていてくれて嬉しいわ」
「す、スキルを発動させる前に思い出してくれて良かったです」
黒縁メガネを押し上げつつの敬語調が、円眞の真剣さを物語っている。
あはは、と彩香はごまかし笑いを立てた。
軽く息を吐いてから円眞は、ついさっき店で起こった一連について報告した。
「いわゆるエージェント・ボディってやつね。サロゲーターなんて呼ばれているらしいけど」
答えながら彩香は興味深げに見降ろす。
視線の対象となった碧き瞳の少女は相も変わらずだ。攻撃の衝撃で、未だ身体を起こすどころか指先さえ動かせない。
「どうしよう」
円眞は、ぼさぼさ頭を抱えた。襲撃者よりも気にかけなければいけない事実が突き上げてきたからだ。
「これから華坂さんたちが来ることになっているんだ」
「ジィちゃんズか。でも全部がダメになったどうかはわからないわよ」
ほとほと困り果てたといった口調にも、彩香の心得た励ましだ。
少しばかりながら円眞は気力を取り戻す。
「そ、そうだね。もしかして大丈夫かもしれない。確認したいんだけど、彩香さん。この場、任せていい?」
微笑しながら、うなずく彩香だ。
お願いします、と駆け出した円眞はまさしく脱兎のごとくだ。あっという間に、店内へ消えていく。
見届けた彩香が、薄く笑った。
「えんちゃんは、ホントに素直な良い子だわ。こんな私を疑いもしない」
横たわる碧い瞳の少女にすれば我が身の危険を感じさせずにいられない形相であった。
碧い瞳に獲物を捕らえた確信が宿る。だが驚愕へ染まるのも瞬く間であった。
斬りつけられた円眞は、反射的に身体を捻った。右斜めから振り降ろされた白き戦斧が奪えたのは、頭髪の二・三本だけだ。寸前で避けたさまは、まさしく神技としか言いようがない。
「そんな……」
思わず呟いた碧い瞳の少女は、次の瞬間に息を詰まらせた。
円眞が身を翻したことで背後から迫っていた刀の切先は、そのまま前方へ尽き出されていく。
戦斧を持つ白き人影の胸元を深々と貫いた。
白き女性は日本刀によって串刺しになった。霧散するのも、あっという間だった。
かはっ、と苦鳴を吐き出す碧き瞳の襲撃者だ。自分の発現した代理人体が受けるダメージをもろ被りするようであれば、粉砕はかなりきついはずである。
ふらり、碧き瞳の少女は揺らめく。そのまま後ろ倒しで落ちていった。
危ない! 実際に声が出ていたか定かでないが、円眞は飛び込んでいた。
碧い瞳の襲撃者の意識は朦朧としている。このままでは後頭部を、したたかに地面へ打ちつけてしまう。舗装された固い路面では、万が一もあり得る。
手の甲を路面に擦らせて伸ばした円眞の右手はぎりぎり間に合った。碧き瞳の少女の後頭部が落ちきる寸前に支えられた。
けれども円眞に安堵を覚えている暇はない。
代理人体から我が身を守った際と同じ気配を感じ取った。つまり殺気である。
考える間もなく碧き瞳の少女の頭を横たえた。
振り向きざまに刀身を捉えた。今回は素手だ。能力を発現させる暇もない。
円眞は真剣白刃取りを強いられていた。
斬りつけてくる相手は、細身の女性だ。さらりとした長髪であり、ビジネススーツで決めている。やり手のキャリアウーマンといった見た目だが、左腰に差さる鞘が一般人ではないことを明言していた。
「おどき、えんちゃん。憬汰さんが残してくれた店に手を出すなんて、生かしちゃおけないわ」
憤怒の形相で両手で刀の柄を握りしめている女性であるが、円眞の呼び方は親しき表現だ。
うっ、と呻く声が路面から立ち昇ってきた。碧き瞳の少女が意識を取り戻したようだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ、彩香さん」
背後を気にかけつつ円眞は訴える。
彩香と呼ばれた女性には、かばう格好がおもしろくないらしい。
「なに、えんちゃん。そのオンナに惚れた? 店をめちゃめちゃにされたのよ」
さらに滾らせた声と共に、刀を握る手へいっそう力を込めたみたいだ。
返答ができないほど懸命に刃を両手で挟む円眞だ。押し込んでくる力はかなりである。
がくり、と片膝が落ちた。
見上げる碧い瞳に驚きが走った。
操る白き女性が放つ打撃力に自信を持っていた。それを受け止めきった標的のほうが上だったと認めるしかない。
ところが今、自分の敵わなかった相手が力負けしている。見た目は美人のお姉さんといった態だが、秘めた怪力は凄まじい。
噂通り、この街は怖ろしい所だ。
どれほどの者たちが巣喰っているのか。大したはずだった自分の能力をいとも容易く葬られた。
しかも碧き瞳の少女の安否は計らずも、襲撃した相手に委ねられている。
押し込まれた刀に片膝を突きながらも必死で堪える円眞が、ふと思い出したように口にした。
「あ、彩香さん。スキルは使わないでよね」
「使わないで欲しかったら、えんちゃん、どいて。私にそいつの両手両足を切り離させて、両目を潰させなさい」
「で、でも彩香さん、言ったじゃないか。まず私怨を晴らすより金銭だって。命よりもまず賠償の算段が先だって」
あっ、といった感じの彩香だ。
鬼の形相をあっさり解けば、刃を引き揚げる。さっさと腰元にある鞘へ収めた。
円眞は目前の相手へ、はっきり届くほど大きな安堵の息を吐いた。
彩香は照れたように頭へ手を置いた。
「商売していくなら、何に代えても、まずおカネよね。私が教えたことを、ちゃんと覚えていてくれて嬉しいわ」
「す、スキルを発動させる前に思い出してくれて良かったです」
黒縁メガネを押し上げつつの敬語調が、円眞の真剣さを物語っている。
あはは、と彩香はごまかし笑いを立てた。
軽く息を吐いてから円眞は、ついさっき店で起こった一連について報告した。
「いわゆるエージェント・ボディってやつね。サロゲーターなんて呼ばれているらしいけど」
答えながら彩香は興味深げに見降ろす。
視線の対象となった碧き瞳の少女は相も変わらずだ。攻撃の衝撃で、未だ身体を起こすどころか指先さえ動かせない。
「どうしよう」
円眞は、ぼさぼさ頭を抱えた。襲撃者よりも気にかけなければいけない事実が突き上げてきたからだ。
「これから華坂さんたちが来ることになっているんだ」
「ジィちゃんズか。でも全部がダメになったどうかはわからないわよ」
ほとほと困り果てたといった口調にも、彩香の心得た励ましだ。
少しばかりながら円眞は気力を取り戻す。
「そ、そうだね。もしかして大丈夫かもしれない。確認したいんだけど、彩香さん。この場、任せていい?」
微笑しながら、うなずく彩香だ。
お願いします、と駆け出した円眞はまさしく脱兎のごとくだ。あっという間に、店内へ消えていく。
見届けた彩香が、薄く笑った。
「えんちゃんは、ホントに素直な良い子だわ。こんな私を疑いもしない」
横たわる碧い瞳の少女にすれば我が身の危険を感じさせずにいられない形相であった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~
月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』
恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。
戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。
だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】
導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。
「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」
「誰も本当の私なんて見てくれない」
「私の力は……人を傷つけるだけ」
「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」
傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。
しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。
――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。
「君たちを、大陸最強にプロデュースする」
「「「「……はぁ!?」」」」
落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。
俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。
◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる