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第2部
第5章:罪の夜と約束ー004ー
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額にかざした手を外す『逢魔街の魔女』流花だった。
絶世という形容が大げさではないこの美少女は、少し疲れたように息を吐く。ブレザー姿の真琴が渡すペットボトルの飲料へ口を付けた。
「まだ、やるの」
青白い顔色が印象的なセーラー服を着た楓が訊いてくる。
ペットボトルから口を離した流花は明るく答えた。
「もっちろん! 瑚華先生のおかげで、せっかく口を割らせられるだもん。凄いよね、流花が服用すると眠る相手の記憶をしゃべらせることがデキるなんて」
「さすが『毒の神』だね。恐ろしいくらいだね」
真琴が真面目か不真面目か解らない口調に、流花は後者の解釈をしたようだ。
「それ、瑚華せんせぇーが可哀想だよ。勝手にカテゴリーされちゃってさ。逢魔街の神々って本当は七人なのに八番目に組み込まれちゃって」
「それだけ瑚華が凄くてヤバい奴だからね」
素敵な人だよー、と真琴へ笑いながら返す流花へ、楓が低く問う。
「流花。あんた、けっこうな負担がかかっているんじゃない」
「ぜんぜぇーん、まだまだ大丈夫でーす。それにこんなんじゃ、まだ思い出話しを聞かされているだけじゃない」
「あんたが明るく振る舞う際は要注意なのが、昔からの付き合いで得た知識なんだけど。違う?」
鋭い指摘だったことは、流花が笑いを収めた様子から判明した。今話題にしている薬と思しき錠剤を口に放り込み、再びペットボトルの水を飲んだ。
覚悟を示されては、楓は深いため息を吐くしかない。
流花は暗い部屋でスポットライトのような照明を当てられた少女へ向かっていく。ゴスロリを着た、眠っているかのように横たわる顔へ手を差し出す。額の位置でかざせば、微笑む口許から言葉が紡ぎ出されてきた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
崖の麓で円眞と黛莉は腰を落ち着けた。
バチバチッ、と爆ぜる焚き火へ当たりながら、二人は並んで食事だ。
「黛莉ー、これ、うまいな。なんて、飲み物だ」
紅い円眞の褒め言葉を大げさと捉える黛莉は笑っている。
「ただの麦茶だよ。円眞くん、飲んだことないの」
「ないな。なにせ今、世話になっている家は趣味が悪いからな。高級だの、珍しいだの、健康にいいだの、と変な茶葉ばかりだ。何がいいのやら、さっぱりわからん」
ふ~ん、とした黛莉だ。円眞が話す内容にはなかなか追いつかない。でももう慣れてきている。気にせずランチボックスを取り出し、開けた。野菜やシーチキンやタマゴといった具材のサンドイッチが並んでいる。
好きなのいいよーと黛莉に言われれば、円眞に遠慮はない。どれどれとばかりに一つ取り出しては口に入れる。
もぐもぐとする円眞の食べ方に、黛莉は食べている当人より満足そうだ。
「それにしてもサンドイッチとは、よく考えたな。持ち運びに軽くて便利なうえに、うまい。完璧ではないか。これは母上が作ったのか?」
「全部、あたしだよー」
なんだと! と円眞が驚いてくるから、黛莉は気分よくなってしゃべった。
黛莉の家は工場を経営する、いわゆる自営業だ。父は朝から晩まで働いているのはもちろん、母も仕事を手伝っているから、両親揃って忙しい。しかも下に兄弟が三人もいる。唯一の上である兄は遊び回ってばかりで、全然家に寄り付かない。だから黛莉は出来る範囲で家事を引き受けている。
ゆで卵を潰して味付けしたり、野菜やパンを切ったりするくらいは簡単にこなせる。
「黛莉はいったい、いくつなんだ」
「七歳だよ」
「出来過ぎだな、とても子供とは思えない立派な人物だ」
照れ笑いをしてしまう黛莉だ。だから次の衝撃は激しかった。
「しかしなぜ、そんなよく出来た子供が自ら命を捨てようと考えている」
えっ、と黛莉は洩らして絶句した。
図星か、と円眞は紅い目に苦笑にも似た光りを閃かせた。
「我れが黛莉を追いかけたのは、見るからに死相を窺わせていたからだ。今思えば、初めて人を殺すかもしれない緊張感もあったのだろうが、それ以前にとても生存の意思がない目をしていたからだ。子供が自殺しようなど、我れには許せなかった」
だって……、とうつむく黛莉の肩は小刻みに震えている。
黛莉、と円眞が呼べば、涙を飛ばす少女の顔が向けられてきた。
「しょうがないじゃん。円眞くんだって、もう解っているんでしょ。あたしが大きな銃を出せちゃうんだって。こんなの知られたら、きっとみんな、あたしをバケモノだって言うよ。パパやママに、お兄ちゃんたちが、バケモノの家族だって言われちゃう。だからあたし、どっか行こうと思ったの。あたしの正体を知った人たちをなんとかしたら、誰にも知られない所まで……」
最後まで伝えきれず、黛莉は両手で顔を覆う。その背中をそっとさする手があった。
「そうか、誰にも、家族さえにも言えず苦しかったな。だが我れは黛莉は素晴らしい女性だと知っている。やはりこの世から失ってはならぬ人物で、追いかけて行ったことが生まれて初めて正しい判断をした気がする、現在の我れだ」
相変わらず円眞が話す内容の全部は理解できない。それでも優しく寄り添ってくる気持ちは充分に伝わってくる。
だから黛莉は声を挙げて泣いた。今まで募っていた苦しみを吐き出すようにしゃくり上げた。
星が降ってきそうな夜空と、小さな灯火のような焚き火が、円眞と一緒になって黛莉の泣き声を静かに聞いていた。
絶世という形容が大げさではないこの美少女は、少し疲れたように息を吐く。ブレザー姿の真琴が渡すペットボトルの飲料へ口を付けた。
「まだ、やるの」
青白い顔色が印象的なセーラー服を着た楓が訊いてくる。
ペットボトルから口を離した流花は明るく答えた。
「もっちろん! 瑚華先生のおかげで、せっかく口を割らせられるだもん。凄いよね、流花が服用すると眠る相手の記憶をしゃべらせることがデキるなんて」
「さすが『毒の神』だね。恐ろしいくらいだね」
真琴が真面目か不真面目か解らない口調に、流花は後者の解釈をしたようだ。
「それ、瑚華せんせぇーが可哀想だよ。勝手にカテゴリーされちゃってさ。逢魔街の神々って本当は七人なのに八番目に組み込まれちゃって」
「それだけ瑚華が凄くてヤバい奴だからね」
素敵な人だよー、と真琴へ笑いながら返す流花へ、楓が低く問う。
「流花。あんた、けっこうな負担がかかっているんじゃない」
「ぜんぜぇーん、まだまだ大丈夫でーす。それにこんなんじゃ、まだ思い出話しを聞かされているだけじゃない」
「あんたが明るく振る舞う際は要注意なのが、昔からの付き合いで得た知識なんだけど。違う?」
鋭い指摘だったことは、流花が笑いを収めた様子から判明した。今話題にしている薬と思しき錠剤を口に放り込み、再びペットボトルの水を飲んだ。
覚悟を示されては、楓は深いため息を吐くしかない。
流花は暗い部屋でスポットライトのような照明を当てられた少女へ向かっていく。ゴスロリを着た、眠っているかのように横たわる顔へ手を差し出す。額の位置でかざせば、微笑む口許から言葉が紡ぎ出されてきた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
崖の麓で円眞と黛莉は腰を落ち着けた。
バチバチッ、と爆ぜる焚き火へ当たりながら、二人は並んで食事だ。
「黛莉ー、これ、うまいな。なんて、飲み物だ」
紅い円眞の褒め言葉を大げさと捉える黛莉は笑っている。
「ただの麦茶だよ。円眞くん、飲んだことないの」
「ないな。なにせ今、世話になっている家は趣味が悪いからな。高級だの、珍しいだの、健康にいいだの、と変な茶葉ばかりだ。何がいいのやら、さっぱりわからん」
ふ~ん、とした黛莉だ。円眞が話す内容にはなかなか追いつかない。でももう慣れてきている。気にせずランチボックスを取り出し、開けた。野菜やシーチキンやタマゴといった具材のサンドイッチが並んでいる。
好きなのいいよーと黛莉に言われれば、円眞に遠慮はない。どれどれとばかりに一つ取り出しては口に入れる。
もぐもぐとする円眞の食べ方に、黛莉は食べている当人より満足そうだ。
「それにしてもサンドイッチとは、よく考えたな。持ち運びに軽くて便利なうえに、うまい。完璧ではないか。これは母上が作ったのか?」
「全部、あたしだよー」
なんだと! と円眞が驚いてくるから、黛莉は気分よくなってしゃべった。
黛莉の家は工場を経営する、いわゆる自営業だ。父は朝から晩まで働いているのはもちろん、母も仕事を手伝っているから、両親揃って忙しい。しかも下に兄弟が三人もいる。唯一の上である兄は遊び回ってばかりで、全然家に寄り付かない。だから黛莉は出来る範囲で家事を引き受けている。
ゆで卵を潰して味付けしたり、野菜やパンを切ったりするくらいは簡単にこなせる。
「黛莉はいったい、いくつなんだ」
「七歳だよ」
「出来過ぎだな、とても子供とは思えない立派な人物だ」
照れ笑いをしてしまう黛莉だ。だから次の衝撃は激しかった。
「しかしなぜ、そんなよく出来た子供が自ら命を捨てようと考えている」
えっ、と黛莉は洩らして絶句した。
図星か、と円眞は紅い目に苦笑にも似た光りを閃かせた。
「我れが黛莉を追いかけたのは、見るからに死相を窺わせていたからだ。今思えば、初めて人を殺すかもしれない緊張感もあったのだろうが、それ以前にとても生存の意思がない目をしていたからだ。子供が自殺しようなど、我れには許せなかった」
だって……、とうつむく黛莉の肩は小刻みに震えている。
黛莉、と円眞が呼べば、涙を飛ばす少女の顔が向けられてきた。
「しょうがないじゃん。円眞くんだって、もう解っているんでしょ。あたしが大きな銃を出せちゃうんだって。こんなの知られたら、きっとみんな、あたしをバケモノだって言うよ。パパやママに、お兄ちゃんたちが、バケモノの家族だって言われちゃう。だからあたし、どっか行こうと思ったの。あたしの正体を知った人たちをなんとかしたら、誰にも知られない所まで……」
最後まで伝えきれず、黛莉は両手で顔を覆う。その背中をそっとさする手があった。
「そうか、誰にも、家族さえにも言えず苦しかったな。だが我れは黛莉は素晴らしい女性だと知っている。やはりこの世から失ってはならぬ人物で、追いかけて行ったことが生まれて初めて正しい判断をした気がする、現在の我れだ」
相変わらず円眞が話す内容の全部は理解できない。それでも優しく寄り添ってくる気持ちは充分に伝わってくる。
だから黛莉は声を挙げて泣いた。今まで募っていた苦しみを吐き出すようにしゃくり上げた。
星が降ってきそうな夜空と、小さな灯火のような焚き火が、円眞と一緒になって黛莉の泣き声を静かに聞いていた。
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