出会う美女に「必ず殺す」と言われてますーやまの逢魔街綺譚ー

ふみんのゆめ

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第3部

第3章:知人ー006ー

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 寸前のところで、クロスさせたサーベルで受け止めた。

 宙空に発現した白き女性が振り降ろす白い戦斧おのが空気を斬り裂く。
 目がけた貴志たかしの前へ、咄嗟に割り込んだデリラが両手にした己れの武器でかばう。だが重い一撃に受け止めた当人だけでなく、背後の者もろとも吹っ飛んだ。
 転げる貴志とデリアの男女ペアへ、なお白き女性は追ってくる。白き戦斧を振り降ろせば、今度は受け止めることなく二手に分かれて逃れた。

 避けた地点から屋上の隅まで真一文字に亀裂が入っていく。
 凄まじい威力にこれまで余裕を貼り付けていた貴志へ冷や汗を浮かべさせた。デリラも予想を遥かに上回る斬撃の際に起こる風圧には、声が出ない。
 相手を怖気させたのは能力だけではない。発現者である雪南せつなの形相に凄絶さを認めていた。

「オマエだな、ワタシに爆弾を付けさせて円眞えんまのところへ行かせたのは」

 返事しない貴志の頭上へ戦斧を振り上げた代理人体サロゲーターが迫る。口が慌てたように開かれた。

「俺は指示されたことをやっただけだ。仕方がなかったんだよ」
「なら、どうしてジジババを殺した」
「人質を殺したのは、俺じゃない。こいつだ」

 貴志に指差されて、デリラが呆気に取られていた。だがそれも一瞬で、たちまちにして憤怒で身体中を染め上げる。

「タカシ、あんたっていうヤツは。自分だけ助かろうというの、この卑怯者!」
「俺は反対だったんだ。人質を殺すのは。それをデリラが勝手にやったのかいけないんだ」

 思わぬ仲間割れは、雪南にとって祖父母の仇を知る情報でもあった。つい耳を傾けるほうへ意識を持っていってしまう。隙は傍からでも充分に窺えた。

 不意に雪南の正面に五つの小さな銀色円盤が出現した。
 同時に雪南の背後から銃弾が飛んでくる。頬や髪を掠めては、小型円盤を撃ち抜いていく。
 爆発自体は小さかったが、煙りの量が半端ではなかった。
 屋上全体が白く烟っている。

 煙幕が退く前に手すりの外から二人は舞い降りた。
 げほげほと咳き込みながら、機関銃片手の黛莉まゆりが訊く。

「ちょっと早く戻りすぎたみたいね」

 答える側も、ごほごほ咳をしながらである。

「すまない、黛莉。油断したつもりはなかったが、やっぱり気を取られてしまった」
「しょうがないんじゃない。エンマのことはともかく、殺されたお爺さんやお婆さんのことなら、冷静になれなくて当たり前じゃない」

 雪南が生んだ隙は標的だけでなく背後で見守る黛莉にさえ気づかせるものだった。
 すまない、と今一度謝ってくる雪南の背を、ぽんっと黛莉は勢いよく叩く。

「あんたとあたしが一緒でなければ、最初の爆発で身体バラバラになってたって。お互いさまよ」

 どうやら貴志の能力は爆弾を具現化する。
 黛莉は拮抗もしくはそれ以上の素早さで向かってくる爆弾を射撃をする。爆発から逃れるため二人の身体を抱え屋上から飛び降り宙に支えるまでは雪南の代理人体が担う。二人のコンビネーションが見事だったことが襲撃者たちにとって誤算であった。

「しかし、逃げられてしまったな。やはりワタシのせいだ」
「バッカねー、まだそんな遠くまで行けてないんじゃない。諦めるには早いわよ」

 悔やむ雪南だが黛莉の正しさに表情を改める。

「そうだな、急いで追おう」

 そうね、と黛莉は返してから、含みのある笑顔を浮かべてはである。

「ところで屋上にヒビ入れた分は弁償だからね」
「えっ、そうなのか?」

 びっくり仰天している雪南に、黛莉はなお笑いかける。

「あったりまえじゃない。逢魔ヶ刻おうまがときだって器物損壊に対する交渉は当人同士の間ならやれるの」
「か、金ならないぞ」
「だったら稼げばいいじゃない」
彩香あやかに言われたような、身体を売ってというやつか」

 これには黛莉のほうが慌ててしまう。

「ちょっと、ヘンなこと言わないでよー。あの業突くおばさんと一緒にしないでくれる」
「違うのか」
「違うわよ。あんた、それだけ強いんだから、うちで働けばすぐに返せるって。ホーラブル退治で忙しいの、ここずっと」

 駆け出しかけた足を停めた雪南だ。
 不審に思った黛莉が目を向ければ、力なく肩を落としてはうつむいている。どうしたのよ、と訊けばである。

「いいのか、ワタシなんかが傍にいて。ワタシの傍にいる者は、みんな酷いことになる。死んでしまう」   

 とても優しい顔つきとなった黛莉がいつもの口調で言う。

「あのねー、働いて金返せーといった話しなんだから、気にするところが違うわよ」

 そうなのか、と顔を上げて雪南が訊く。
 そうよ、と黛莉が真面目を装って答えている。

「じゃあ、そう黛莉の言う通りとさせてもらおう。やはり逢魔七人衆を追うなら、ここにいたほうが良さそうだからな」

「そうそう、しっかり働いてもらうから」

 互いに顔を見合わせている黛莉と雪南に微笑が浮かびかけた。

「貴女たちがこの屋上から出ることは叶わない、永遠に」

 黛莉と雪南の意識は不気味な声の主に反応する暇もなく、闇に沈んだ。
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