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第3部
第4章:飜意ー001ー
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なんとか急所は避けられた。
鍛え上げれた身体に能力を施すことで並外れた反射神経が、ぎりぎりだ。息吐く間もなく襲ってきた刃の鋒から、かろうじて致命傷を負わずに済んだ。
本来なら能力を発現した際の肉体は、刀身で傷つくなど有り得ない。
「凄まじかった、黎銕円眞なる若者のチカラは」
サングラスをしたままだから表情は窺えないが、『めいぷるしろっぷ』の店長は記憶に戦慄していることは明らかだ。
常連客なせいか、藤平は気安く臨む。
「そん時、店長以外に生き残ったヤツはいないんっすか」
「虐殺が行われた広間では、自分一人だけです。ただ七人衆のうち庵鯢と鶤霓はその場にいなかったのです」
へぇ~、と藤平が呑気な声を挙げる横で、である。
先頭を切っていた夬斗が険しい顔つきで振り向く。
「黎銕円眞が逢魔七人衆を全滅させたとする話しは本当に嘘だったんだな」
「そうです、少なくとも当時、七人衆と目された者のうち私を含め庵鯢と鶤霓の三人は生存しています」
「よくよく考えてみれば、黎銕円眞が逢魔七人衆を倒したという情報の出どころは、あの彩香に行き着くんだよな。迂闊もいいところじゃないか」
煕海さんを責めないでください、と逢魔七人衆について答える店長の夛麿靖大が彩香の苗字を神妙に口にする。
「煕海さんが逢魔七人衆は全滅したと流したのは、私や庵鯢・鶤霓を思ってのことなのです。我々三人は黎銕憬汰のやり方に付いていけなくなっていました。かといって、これまで行ってきた罪業で抜けるに抜けられない立場になっておりました」
「だから一度死んだことにして、人生のやり直しを計ったわけか」
うなずく靖大に、夬斗もこの件に関しては責める気になれない。店長のおかげでミィちゃんに出会えたっす、とする従業員の声もある。他に追求したい大事な他の点もある。
「円眞に大広間で虐殺されたメンツに黎銕憬汰は入っていなかったのか?」
「いえ、入ってます。確かに御子息の凶刃に刺し貫かれるだけではない。形がなくなるほどズタズタに斬り裂かれたはずなのですが……」
「なぜか生きて再び目の前に現れた、と」
「ええ、しかも傷跡一つない以前通りの姿で、です」
急がねばならない状況であるが、夬斗は話しに捉われて足の速度が上がらない。やり口の容赦なさから逢魔街の住人から憎まれ、街外から排除のため能力者が送り込まれてきたくらいだ。用心深さと掴みどころのなさで、脅威となる存在にまで伸し上がった。
唯一の油断があったとしたら、首魁の憬汰が父親の気持ちを忘れられなかったことだろう。喜んで迎えた息子が紅い眼を宿す別人格があるなど思いも寄らなかったのだろう。
「今回ばかりは、親友いないんだよな」
表に出すつもりはなかった夬斗だが口にしていたらしい。
紅い眼の円眞をアニキとして慕う藤平が聞き咎めた。
「社長! アニキがいないなんて決めつけないでくださいよ。えんさんっぽいヤツがやってきたじゃないっすか。ひょっこり紅い眼になるかもしれないっす」
そうだな、とここは素直に認める夬斗だ。
すると虐殺の大広間の生き残りである靖大が訊いてくる。
「紅い眼って、なんですか? 黎銕円眞絡みのように聞こえますが」
えっ? と驚くあまり今度こそ足が止まった夬斗である。
藤平も同様で、社長を押し退けて先に質問も繰り出す。
「店長、知らないっすか。アニキを、えんさんが紅い眼になる時があるって」
ええ、とあっさり靖大が首肯すれば、夬斗が今度こそ動揺を滲ませながら尋ねる。
「大広間で逢魔七人衆だけでなく、その場に居合わせた全員を殺し尽くした時の黎銕円眞は紅い眼になっていなかったのか?」
「はい。瞬間的な出来事とはいえ、あれだけのことでしたから、殺戮の様子は目に焼き付いています。間違いなく黎銕円眞は来た当初からの姿に変調を来たす時などありませんでした」
はぁー、と深い息を吐いた夬斗は右手で目許を覆いながら仰ぐ。マテオの情報に間違いはなかった。
「俺は……親友、失格だな」
一方、藤平とくればである。
「そうっすよね。そっす、そっす。俺なんかの命を助けるアニキが子供とか平気で殺るわけないっすよー」
夬斗はつくづく藤平が羨ましいと思う。
すっかり『神々の黄昏』における何百万という命を奪った逸話から思い込んでしまっていた。紅い眼の円眞当人自ら認めていたから、敢えて触れないようにしていた。
しまった、と今さらながら後悔は過ぎる。
事実だったかも知れないが、事情を計ろうとしなかった。何があって行動に及んだか、肝心な点を聞き出さず、鏖殺を厭わない人物とするレッテルを貼り付けていた。表層の情報だけで判断を下すなんて愚かな真似を、親友と呼んでくれる相手にしていた。
情けないな、と夬斗はどっぷり自己嫌悪に陥りそうになる寸前で気がつく。
「円眞は大広間の殺害は憶えてないって言ってたよな」
「あっ、それ。俺もえんさんから聞いたことあるっす」
アニキと呼ぶに相応しい一面を知った藤平は上機嫌で応える。
夬斗のほうは、と言えば思いついた可能性に胸が引き絞られている。
「もし、もしだぞ。今朝の円眞だというヤツの仕業だったら、どうだ?」
「どうだって言われても、俺の頭じゃわからないっすよ」
「あいつ、ヤバそうじゃなかったか」
気質は違えど『エンマ』は、きちんとした理性を持っている。だが自分が円眞だと主張する人物は情緒不安定も甚だしい。
問題はいずれも刃を振るう能力者として、ずば抜けたチカラを有している。しかも逢魔ヶ刻になれば、どれほど強大さを増すか知れたものではない。
円眞だと言う人物は、雪南に執着を示している。
その雪南は黛莉の傍にあるだろう。
雪南を求めて来た円眞なる人物との邂逅は危険すぎる。
何がどうと具体的に浮かぶわけではないが、夬斗は黛莉の身を思うと胸騒ぎがしてならない。
急ごう! 再び駆け出した夬斗の足が止まる。前を塞がれたからだ。
紅い眼でも普段のでもない、ヤバいとした円眞がそこにいた。
鍛え上げれた身体に能力を施すことで並外れた反射神経が、ぎりぎりだ。息吐く間もなく襲ってきた刃の鋒から、かろうじて致命傷を負わずに済んだ。
本来なら能力を発現した際の肉体は、刀身で傷つくなど有り得ない。
「凄まじかった、黎銕円眞なる若者のチカラは」
サングラスをしたままだから表情は窺えないが、『めいぷるしろっぷ』の店長は記憶に戦慄していることは明らかだ。
常連客なせいか、藤平は気安く臨む。
「そん時、店長以外に生き残ったヤツはいないんっすか」
「虐殺が行われた広間では、自分一人だけです。ただ七人衆のうち庵鯢と鶤霓はその場にいなかったのです」
へぇ~、と藤平が呑気な声を挙げる横で、である。
先頭を切っていた夬斗が険しい顔つきで振り向く。
「黎銕円眞が逢魔七人衆を全滅させたとする話しは本当に嘘だったんだな」
「そうです、少なくとも当時、七人衆と目された者のうち私を含め庵鯢と鶤霓の三人は生存しています」
「よくよく考えてみれば、黎銕円眞が逢魔七人衆を倒したという情報の出どころは、あの彩香に行き着くんだよな。迂闊もいいところじゃないか」
煕海さんを責めないでください、と逢魔七人衆について答える店長の夛麿靖大が彩香の苗字を神妙に口にする。
「煕海さんが逢魔七人衆は全滅したと流したのは、私や庵鯢・鶤霓を思ってのことなのです。我々三人は黎銕憬汰のやり方に付いていけなくなっていました。かといって、これまで行ってきた罪業で抜けるに抜けられない立場になっておりました」
「だから一度死んだことにして、人生のやり直しを計ったわけか」
うなずく靖大に、夬斗もこの件に関しては責める気になれない。店長のおかげでミィちゃんに出会えたっす、とする従業員の声もある。他に追求したい大事な他の点もある。
「円眞に大広間で虐殺されたメンツに黎銕憬汰は入っていなかったのか?」
「いえ、入ってます。確かに御子息の凶刃に刺し貫かれるだけではない。形がなくなるほどズタズタに斬り裂かれたはずなのですが……」
「なぜか生きて再び目の前に現れた、と」
「ええ、しかも傷跡一つない以前通りの姿で、です」
急がねばならない状況であるが、夬斗は話しに捉われて足の速度が上がらない。やり口の容赦なさから逢魔街の住人から憎まれ、街外から排除のため能力者が送り込まれてきたくらいだ。用心深さと掴みどころのなさで、脅威となる存在にまで伸し上がった。
唯一の油断があったとしたら、首魁の憬汰が父親の気持ちを忘れられなかったことだろう。喜んで迎えた息子が紅い眼を宿す別人格があるなど思いも寄らなかったのだろう。
「今回ばかりは、親友いないんだよな」
表に出すつもりはなかった夬斗だが口にしていたらしい。
紅い眼の円眞をアニキとして慕う藤平が聞き咎めた。
「社長! アニキがいないなんて決めつけないでくださいよ。えんさんっぽいヤツがやってきたじゃないっすか。ひょっこり紅い眼になるかもしれないっす」
そうだな、とここは素直に認める夬斗だ。
すると虐殺の大広間の生き残りである靖大が訊いてくる。
「紅い眼って、なんですか? 黎銕円眞絡みのように聞こえますが」
えっ? と驚くあまり今度こそ足が止まった夬斗である。
藤平も同様で、社長を押し退けて先に質問も繰り出す。
「店長、知らないっすか。アニキを、えんさんが紅い眼になる時があるって」
ええ、とあっさり靖大が首肯すれば、夬斗が今度こそ動揺を滲ませながら尋ねる。
「大広間で逢魔七人衆だけでなく、その場に居合わせた全員を殺し尽くした時の黎銕円眞は紅い眼になっていなかったのか?」
「はい。瞬間的な出来事とはいえ、あれだけのことでしたから、殺戮の様子は目に焼き付いています。間違いなく黎銕円眞は来た当初からの姿に変調を来たす時などありませんでした」
はぁー、と深い息を吐いた夬斗は右手で目許を覆いながら仰ぐ。マテオの情報に間違いはなかった。
「俺は……親友、失格だな」
一方、藤平とくればである。
「そうっすよね。そっす、そっす。俺なんかの命を助けるアニキが子供とか平気で殺るわけないっすよー」
夬斗はつくづく藤平が羨ましいと思う。
すっかり『神々の黄昏』における何百万という命を奪った逸話から思い込んでしまっていた。紅い眼の円眞当人自ら認めていたから、敢えて触れないようにしていた。
しまった、と今さらながら後悔は過ぎる。
事実だったかも知れないが、事情を計ろうとしなかった。何があって行動に及んだか、肝心な点を聞き出さず、鏖殺を厭わない人物とするレッテルを貼り付けていた。表層の情報だけで判断を下すなんて愚かな真似を、親友と呼んでくれる相手にしていた。
情けないな、と夬斗はどっぷり自己嫌悪に陥りそうになる寸前で気がつく。
「円眞は大広間の殺害は憶えてないって言ってたよな」
「あっ、それ。俺もえんさんから聞いたことあるっす」
アニキと呼ぶに相応しい一面を知った藤平は上機嫌で応える。
夬斗のほうは、と言えば思いついた可能性に胸が引き絞られている。
「もし、もしだぞ。今朝の円眞だというヤツの仕業だったら、どうだ?」
「どうだって言われても、俺の頭じゃわからないっすよ」
「あいつ、ヤバそうじゃなかったか」
気質は違えど『エンマ』は、きちんとした理性を持っている。だが自分が円眞だと主張する人物は情緒不安定も甚だしい。
問題はいずれも刃を振るう能力者として、ずば抜けたチカラを有している。しかも逢魔ヶ刻になれば、どれほど強大さを増すか知れたものではない。
円眞だと言う人物は、雪南に執着を示している。
その雪南は黛莉の傍にあるだろう。
雪南を求めて来た円眞なる人物との邂逅は危険すぎる。
何がどうと具体的に浮かぶわけではないが、夬斗は黛莉の身を思うと胸騒ぎがしてならない。
急ごう! 再び駆け出した夬斗の足が止まる。前を塞がれたからだ。
紅い眼でも普段のでもない、ヤバいとした円眞がそこにいた。
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