野球の王子様３ ＶＳ習志野・練習試合

第９章

押せ押せ！

「マジかよ。俺達３点も習志野から取っちゃったよ。」
「まさか、こんなに上手く事が運ぶとは。出来過ぎだね。」
　桃太郎と不破だけでなく、皆、信じられない面持ちである。
「さあ、皆。一気に畳みかければ、この試合勝てるよ。」
「おう！」
　咲良の発破に意気上がるミカエルナイン。次のバッターは６番、ピッチャーの越前春馬である。バッターボックスに入ると、いつも通りのルーティンでバットを大きく回し、ピッチャーを威嚇する。初球は内角に。抉られた越前はムッとした表情を浮かべる。
「ちょっと、糞ピッチャー何処投げてる！阿保タレ。」
　相手ピッチャーに暴言を吐く愛菜を咲良はなだめていた為、その瞬間は見逃してしまったが、歓声を聞いてグラウンドを見ると、打球はライト線を転々と転がっていた。越前が２球続けて投じられた内角球を思いっきり痛打したのである。
「やったー。越前君走って～～。」
　愛菜が黄色い歓声を上げる。王は３塁を回って悠々生還。４点目奪取。越前は快足を飛ばし激走。３塁を陥れた。尚も１アウト３塁。続くのは７番、丸和弘。バッターボックスに向かう丸に手塚が何か耳打ちする。それに頷いた丸は打席に向かった。手塚は３塁に居る越前にもサインを出す。それはスクイズのサイン。咲良は驚いた。手塚のそつの無さにである。４点取ってイケイケの所に、スクイズで追加点を狙うとは。練習試合なのに。確かに打力の劣る丸にはバントやスクイズなどの機会が実戦でも多くなるに違いない。そのテストなのだろう。
「丸君。大きいの頼むよ！」
　咲良は相手に悟られない様に、敢えて大きいのを期待する様な声を掛けた。
「ホームラン、ホームラン、習志野なんてぶっ倒せ。」
　愛菜も咲良に追随した。果たして戦略的な細かい部分を分かっているのだろうか？咲良には愛菜が本気でホームランを期待している様に思えてならなかった。初球、丸はフルスイングで空振り。それを見た相手内野陣は心無し後方に下がった。あえてバットを大振りする事で、守備陣に強い打球を意識させる丸の演技なのだろう。２球目、相手ピッチャーが球を投じると同時に越前がホームに突入。丸は一塁方向に打球を転がした。ピッチャーが捕球した時には既に越前はホームベースに滑り込んでいた。ピッチャーは力なくボールを１塁に送った。これで２アウト取られたが、５点目を奪取。ミカエル押せ押せだ。