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願い(終)
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秋田にある彼女の実家に向かう途中の新幹線で
私は彼女からの手紙をもう一度読み返していた。
よくよく考えてみると両親に心配させるような
宇都宮の事とか、記憶が無くなるほどの夜遊び
とかにはひとつも触れていなかった。
それもまた彼女の優しい心遣いなのかなと思った。
そんな娘さんを育てた両親もまた凄い人達だと。
戴いたメモにある会社名を駅から乗るタクシーに
告げるとタクシーは大きなビルの前に到着した。
そしてメモの電話番号に電話すると彼女の母親が
奥のエレベーターから降りて来た。
「本日は遠いところよくお越し下さいました。
少し休まれますか、それともあの子のお墓に
すぐ行かれますか?」
「お墓へ行かせて下さい、お願いします」
「そうですね、では参りましょうか」
そう言うと奥の従業員の方に車の手配を指示した。
しばらくするとハイヤーが一台止まった。
数分走ったところに彼女の眠る霊園はあった。
案内され歩いて行くと初老の紳士が立っていた。
「初めまして五十嵐さん、あの子の父親です」
「初めまして五十嵐です。この度は突然のことで
心からお悔やみ申し上げます」
「遠いところよく来て下さいました
さあどうぞ、こちらですから」
目の前にすると自然に涙が溢れ彼女を思い出した。
私は声にならない声で彼女にお別れをしていた。
「ありがとうございました、
あの子も喜んでる筈です」
「すみません、本当にすみません
私が彼女の命を…命を…」
思っていた言葉が突然飛び出した。
「辛い思いをさせてしまって、それは違いますから
あの子の手紙読みましたから、あの子はきっと
そんなところを好きになったのでしょう」
「申し訳ありません、取り乱して」
「これ、あなたですよね」
そう言うと彼女の使っていたキーケースを見せた。
そこには小さなロケットが付いていて私との写真が
入っていた。一緒にサッカーを観た時の写真だ。
「看護婦さんが言うには、あの子は最後までこれを
大事そうに握っていたそうです」
涙が止まらなくなっていた。
彼女は検査入院した時に急変したという。
ひとりきりで物凄く怖かっただろうと思うと
胸が張り裂けそうになっていた。
「ありがとうございました、最後まであなたが
あの子の支えになっていたのだと思います」
「とんでもありません、寂しい思いばかり
させていたのかも知れません」
そうとしか考えられなかった。
もっと側に居られるようにすれば良かったと
後悔の思いばかりがこみ上げてきた。
「最後のあの子の願いはあなたの幸せですから、
どうか前を向いて幸せになってください」
「彼女に出会わせて頂き
本当に本当にありがとうございました」
最後にそう言ってご両親を見送ってからも、
私はもうしばらく彼女の傍に居たかった。
彼女の思いに触れていたかったのだと思う。
あれから私は彼女との最初の約束を破りたくなくて
39歳の秋に知人の紹介で二度目の結婚をした。
そして更に20年、還暦を迎えた私は今幸せです。
「新しい約束も守りましたよ、聖子さん、
本当にこれで良かったのですか?」
"大丈夫、大丈夫" 聖子さんの声がした、気がした。
完
私は彼女からの手紙をもう一度読み返していた。
よくよく考えてみると両親に心配させるような
宇都宮の事とか、記憶が無くなるほどの夜遊び
とかにはひとつも触れていなかった。
それもまた彼女の優しい心遣いなのかなと思った。
そんな娘さんを育てた両親もまた凄い人達だと。
戴いたメモにある会社名を駅から乗るタクシーに
告げるとタクシーは大きなビルの前に到着した。
そしてメモの電話番号に電話すると彼女の母親が
奥のエレベーターから降りて来た。
「本日は遠いところよくお越し下さいました。
少し休まれますか、それともあの子のお墓に
すぐ行かれますか?」
「お墓へ行かせて下さい、お願いします」
「そうですね、では参りましょうか」
そう言うと奥の従業員の方に車の手配を指示した。
しばらくするとハイヤーが一台止まった。
数分走ったところに彼女の眠る霊園はあった。
案内され歩いて行くと初老の紳士が立っていた。
「初めまして五十嵐さん、あの子の父親です」
「初めまして五十嵐です。この度は突然のことで
心からお悔やみ申し上げます」
「遠いところよく来て下さいました
さあどうぞ、こちらですから」
目の前にすると自然に涙が溢れ彼女を思い出した。
私は声にならない声で彼女にお別れをしていた。
「ありがとうございました、
あの子も喜んでる筈です」
「すみません、本当にすみません
私が彼女の命を…命を…」
思っていた言葉が突然飛び出した。
「辛い思いをさせてしまって、それは違いますから
あの子の手紙読みましたから、あの子はきっと
そんなところを好きになったのでしょう」
「申し訳ありません、取り乱して」
「これ、あなたですよね」
そう言うと彼女の使っていたキーケースを見せた。
そこには小さなロケットが付いていて私との写真が
入っていた。一緒にサッカーを観た時の写真だ。
「看護婦さんが言うには、あの子は最後までこれを
大事そうに握っていたそうです」
涙が止まらなくなっていた。
彼女は検査入院した時に急変したという。
ひとりきりで物凄く怖かっただろうと思うと
胸が張り裂けそうになっていた。
「ありがとうございました、最後まであなたが
あの子の支えになっていたのだと思います」
「とんでもありません、寂しい思いばかり
させていたのかも知れません」
そうとしか考えられなかった。
もっと側に居られるようにすれば良かったと
後悔の思いばかりがこみ上げてきた。
「最後のあの子の願いはあなたの幸せですから、
どうか前を向いて幸せになってください」
「彼女に出会わせて頂き
本当に本当にありがとうございました」
最後にそう言ってご両親を見送ってからも、
私はもうしばらく彼女の傍に居たかった。
彼女の思いに触れていたかったのだと思う。
あれから私は彼女との最初の約束を破りたくなくて
39歳の秋に知人の紹介で二度目の結婚をした。
そして更に20年、還暦を迎えた私は今幸せです。
「新しい約束も守りましたよ、聖子さん、
本当にこれで良かったのですか?」
"大丈夫、大丈夫" 聖子さんの声がした、気がした。
完
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