1 / 1
真夏の果実は危険な香り ー前編ー
しおりを挟む
ちょっとしたすれ違いから聖子と連絡が途切れ
季節はもう夏を迎えていた。
そんな時、ひとりの女性に出会うことになる。
聖子と再会するまでの数ヶ月間、その人との事は
私にとって忘れられない真夏の出来事になった。
聖子とよく行っていた六本木のカラオケパブは
今はひとりで行くようになっていた。
ある夜、隣に居合わせた二十歳の女性二人組。
私達は会話も弾み、カラオケで盛り上がっていた。
ひとりは二十歳とは思えないほど大人びていて、
もうひとりはオーナーと知り合いのようだった。
私は二人が帰るまでになんとか連絡先を聞き出し
再会を約束して見送った。人生初のナンパだった。
朝まで飲んでいた私は疲れて一日中寝ていた。
そろそろ起きようかという頃、電話が鳴った。
昨夜出会った女の子からだった。
「五十嵐さん?美香子です、友達の美沙と
三人で飲んだの覚えてます?」
残念ながらあの大人びたほうではなかった。
「もちろん、凄く楽しかったね」
「昼間の五十嵐さんはそんな感じなんだ」
「え、変かな?」
「いえ、今日のほうがいい感じです」
「昨日は酔ってたから酷かったよね?」
「あれはあれで楽しかったけど」
「そう? でどうしたの今日は?」
「また会えないかなと思って」
「ほんとに?嬉しいなぁ」
「急ですけど、今日これから会えますか?」
「大丈夫だけど、何時くらい?」
「7時くらいでいいですか?」
「わかった、どこに行けばいい?」
「じゃあ、有楽町マリオンでいいですか?」
「マリオンね、わかった、
それじゃ西武側の入り口辺りで7時に」
「はい、では後で」
こうして美香子と会うことになった私は
酒も抜けたし、土曜日ということもあって
車で向かうことにした。
時間前に着いて地下の駐車場に車を入れた私は
西武側の丸い柱の影で美香子を待っていた。
上階までつづく吹き抜けを見上げていた時、
「五十嵐さん、こんばんは」
「あっどうも、今日はひとり?」
「もしかして美沙の方が良かった?」
ちょっと怒ったように言う美香子が可愛く思えた。
「違う、違う、参ったな」
「ごめんなさい冗談です」
「よかった、でどうしよう、食事は?」
「まだですけど」
「じゃ、昨日のお礼にご馳走します」
「ほんとに?美沙が知ったら怒るなきっと」
「ではこの事はくれぐれも内密に…(悪代官か)
何か食べたいものある?」
「何でも大丈夫、好き嫌いないから」
最近の若い子はこんな感じなんだと感心しながら
私達は近くの台湾料理店に向かっていた。
その店は聖子と初めて二人で訪れた店だった。
私はお酒抜き、美香子はカクテルを注文した。
「今日は車で来てるから僕はお酒なしで」
「そうなんだ、ごめんなさい私だけ」
「大丈夫、あれから朝までコースでね」
「もしかして今日は辛かった?」
「美人に会えたから全然大丈夫」
そんな会話が続いていた時、
美香子は急に真顔でこう言ってきた。
「五十嵐さん、付き合ってる人いますか?」
私は自分の状況を正直に美香子に話した。
「実は27歳で結婚して30歳の去年離婚してね、
最近まで好きだった女性がいたけど
結局うまくいかなくてね、今はひとり」
「そうなんですね、昨日聞けなかったから」
美香子は最近まで付き合っていた人がいたが
その人に浮気され別れてしまったそうだ。
「僕は、今はひとりでいた方が楽というか
好きだった女性をまだ引きずってるというか」
「そうなんですね、話してくれてありがとう」
どうにも気まずい雰囲気のまま食事が終わり、
店を出た私達は地下駐車場へ向かっていた。
「家は柏だったよね、ドライブついでに送るよ」
「ほんとに?ありがとう」
聖子の事がなければ何も考えず突っ走っていた、
10歳下の子と出会える機会は二度とないだろう。
「こんな車初めて、GTOっていうんだ」
同年代ではこういう車は誰も持っていないという。
私は気になっていたことを美香子に聞いてみた。
「そう言えば、美沙さんには彼氏はいるの?」
「私、美沙の事はあまりよく知らなくて」
最近、地元の友達を通して知り合ったばかりで
プライベートについてはあまり聞いてないという。
「じゃあ、またみんなで飲もうよ」
「はい、楽しみにしてます」
美香子の家は古くから続く老舗の酒屋だそうだ。
店の前で美香子を降ろした私はそのまま帰宅した。
いつもの湾岸ドライブをする気にはならなかった。
翌週、美香子から電話が入った。
美沙も一緒にまた飲みに行きたいというので
私は待ってましたとばかりに会う約束をした。
土曜日、私達は麻布十番のPregoへ向かっていた。
美味しいイタリアンを出す洒落たお店だ。
考えてみればここも聖子とよく来ていた店だった。
1階ラウンジのカウンター席に並んで座り
フローズンストロベリーショットガンという
この店定番のカクテルをピッチャーで注文した。
「久し振りだね、二人とも元気してた?」
美沙はやはりどこから見ても文句なしの美形だ。
美香子にはすまないが美沙の横顔に見とれていた。
何かを察したのか突然、美香子が言った。
「五十嵐さんは美沙のこと好きみたい」
「ちょ、おい、いきなり何を」
「だって図星でしょ?」
二十歳の子に心を見透かされていたとは情けない。
私がごまかす言葉も見つけられずにいると、
美沙が信じられないという表情で
「また、嘘ばっかり」
私は思わず…
「いや、嘘でもないかな」
「ほら、やっぱりね」
勘のいい美香子に完全にしてやられた。
主導権は既に女性陣に握られていた。
「美香子と二人だけで食事したって聞いてたし」
私は何がどうなっているのか判らず
「ちょっと待って、これってどういうこと?」
すると美香子がようやくネタばらしを始めた。
「美沙の方が先にまた会いたいって言い出して
でも五十嵐さんにもし彼女がいたら諦めるから
私に聞いてきて欲しいって、それで」
美沙は美香子が話してる間、私をじっと見ている。
その瞳に私は完全にノックアウトされていた。
「"五十嵐さんは思った通りの人だった"
そういう事でいいのね、美沙?」
美沙は何も言わず頷いていた。
何かが始まっている気がしていた。
奇しくも美香子の策略にハマってしまった私は
美沙への秘めた思いを知られることになり、
美沙はそんな私を好きだと言ってくれている。
こうして美香子立ち合いで美沙との交際が始まる。
美沙の仕事は事務所に所属しているモデルだった。
恵まれた容姿はプライドもより高くしているようで
この夏の2ヶ月間に人生最大の悪夢を経験する。
" 真夏の果実は危険な香り ー後編ー" につづく
季節はもう夏を迎えていた。
そんな時、ひとりの女性に出会うことになる。
聖子と再会するまでの数ヶ月間、その人との事は
私にとって忘れられない真夏の出来事になった。
聖子とよく行っていた六本木のカラオケパブは
今はひとりで行くようになっていた。
ある夜、隣に居合わせた二十歳の女性二人組。
私達は会話も弾み、カラオケで盛り上がっていた。
ひとりは二十歳とは思えないほど大人びていて、
もうひとりはオーナーと知り合いのようだった。
私は二人が帰るまでになんとか連絡先を聞き出し
再会を約束して見送った。人生初のナンパだった。
朝まで飲んでいた私は疲れて一日中寝ていた。
そろそろ起きようかという頃、電話が鳴った。
昨夜出会った女の子からだった。
「五十嵐さん?美香子です、友達の美沙と
三人で飲んだの覚えてます?」
残念ながらあの大人びたほうではなかった。
「もちろん、凄く楽しかったね」
「昼間の五十嵐さんはそんな感じなんだ」
「え、変かな?」
「いえ、今日のほうがいい感じです」
「昨日は酔ってたから酷かったよね?」
「あれはあれで楽しかったけど」
「そう? でどうしたの今日は?」
「また会えないかなと思って」
「ほんとに?嬉しいなぁ」
「急ですけど、今日これから会えますか?」
「大丈夫だけど、何時くらい?」
「7時くらいでいいですか?」
「わかった、どこに行けばいい?」
「じゃあ、有楽町マリオンでいいですか?」
「マリオンね、わかった、
それじゃ西武側の入り口辺りで7時に」
「はい、では後で」
こうして美香子と会うことになった私は
酒も抜けたし、土曜日ということもあって
車で向かうことにした。
時間前に着いて地下の駐車場に車を入れた私は
西武側の丸い柱の影で美香子を待っていた。
上階までつづく吹き抜けを見上げていた時、
「五十嵐さん、こんばんは」
「あっどうも、今日はひとり?」
「もしかして美沙の方が良かった?」
ちょっと怒ったように言う美香子が可愛く思えた。
「違う、違う、参ったな」
「ごめんなさい冗談です」
「よかった、でどうしよう、食事は?」
「まだですけど」
「じゃ、昨日のお礼にご馳走します」
「ほんとに?美沙が知ったら怒るなきっと」
「ではこの事はくれぐれも内密に…(悪代官か)
何か食べたいものある?」
「何でも大丈夫、好き嫌いないから」
最近の若い子はこんな感じなんだと感心しながら
私達は近くの台湾料理店に向かっていた。
その店は聖子と初めて二人で訪れた店だった。
私はお酒抜き、美香子はカクテルを注文した。
「今日は車で来てるから僕はお酒なしで」
「そうなんだ、ごめんなさい私だけ」
「大丈夫、あれから朝までコースでね」
「もしかして今日は辛かった?」
「美人に会えたから全然大丈夫」
そんな会話が続いていた時、
美香子は急に真顔でこう言ってきた。
「五十嵐さん、付き合ってる人いますか?」
私は自分の状況を正直に美香子に話した。
「実は27歳で結婚して30歳の去年離婚してね、
最近まで好きだった女性がいたけど
結局うまくいかなくてね、今はひとり」
「そうなんですね、昨日聞けなかったから」
美香子は最近まで付き合っていた人がいたが
その人に浮気され別れてしまったそうだ。
「僕は、今はひとりでいた方が楽というか
好きだった女性をまだ引きずってるというか」
「そうなんですね、話してくれてありがとう」
どうにも気まずい雰囲気のまま食事が終わり、
店を出た私達は地下駐車場へ向かっていた。
「家は柏だったよね、ドライブついでに送るよ」
「ほんとに?ありがとう」
聖子の事がなければ何も考えず突っ走っていた、
10歳下の子と出会える機会は二度とないだろう。
「こんな車初めて、GTOっていうんだ」
同年代ではこういう車は誰も持っていないという。
私は気になっていたことを美香子に聞いてみた。
「そう言えば、美沙さんには彼氏はいるの?」
「私、美沙の事はあまりよく知らなくて」
最近、地元の友達を通して知り合ったばかりで
プライベートについてはあまり聞いてないという。
「じゃあ、またみんなで飲もうよ」
「はい、楽しみにしてます」
美香子の家は古くから続く老舗の酒屋だそうだ。
店の前で美香子を降ろした私はそのまま帰宅した。
いつもの湾岸ドライブをする気にはならなかった。
翌週、美香子から電話が入った。
美沙も一緒にまた飲みに行きたいというので
私は待ってましたとばかりに会う約束をした。
土曜日、私達は麻布十番のPregoへ向かっていた。
美味しいイタリアンを出す洒落たお店だ。
考えてみればここも聖子とよく来ていた店だった。
1階ラウンジのカウンター席に並んで座り
フローズンストロベリーショットガンという
この店定番のカクテルをピッチャーで注文した。
「久し振りだね、二人とも元気してた?」
美沙はやはりどこから見ても文句なしの美形だ。
美香子にはすまないが美沙の横顔に見とれていた。
何かを察したのか突然、美香子が言った。
「五十嵐さんは美沙のこと好きみたい」
「ちょ、おい、いきなり何を」
「だって図星でしょ?」
二十歳の子に心を見透かされていたとは情けない。
私がごまかす言葉も見つけられずにいると、
美沙が信じられないという表情で
「また、嘘ばっかり」
私は思わず…
「いや、嘘でもないかな」
「ほら、やっぱりね」
勘のいい美香子に完全にしてやられた。
主導権は既に女性陣に握られていた。
「美香子と二人だけで食事したって聞いてたし」
私は何がどうなっているのか判らず
「ちょっと待って、これってどういうこと?」
すると美香子がようやくネタばらしを始めた。
「美沙の方が先にまた会いたいって言い出して
でも五十嵐さんにもし彼女がいたら諦めるから
私に聞いてきて欲しいって、それで」
美沙は美香子が話してる間、私をじっと見ている。
その瞳に私は完全にノックアウトされていた。
「"五十嵐さんは思った通りの人だった"
そういう事でいいのね、美沙?」
美沙は何も言わず頷いていた。
何かが始まっている気がしていた。
奇しくも美香子の策略にハマってしまった私は
美沙への秘めた思いを知られることになり、
美沙はそんな私を好きだと言ってくれている。
こうして美香子立ち合いで美沙との交際が始まる。
美沙の仕事は事務所に所属しているモデルだった。
恵まれた容姿はプライドもより高くしているようで
この夏の2ヶ月間に人生最大の悪夢を経験する。
" 真夏の果実は危険な香り ー後編ー" につづく
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
あの素晴らしい愛をもう一度
仏白目
恋愛
伯爵夫人セレス・クリスティアーノは
33歳、愛する夫ジャレッド・クリスティアーノ伯爵との間には、可愛い子供が2人いる。
家同士のつながりで婚約した2人だが
婚約期間にはお互いに惹かれあい
好きだ!
私も大好き〜!
僕はもっと大好きだ!
私だって〜!
と人前でいちゃつく姿は有名であった
そんな情熱をもち結婚した2人は子宝にもめぐまれ爵位も継承し順風満帆であった
はず・・・
このお話は、作者の自分勝手な世界観でのフィクションです。
あしからず!
蝋燭
悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。
それは、祝福の鐘だ。
今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。
カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。
彼女は勇者の恋人だった。
あの日、勇者が記憶を失うまでは……
【書籍化決定】憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜
降魔 鬼灯
恋愛
コミカライズ化決定しました。
ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。
幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。
月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。
お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。
しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。
よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう!
誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は?
全十話。一日2回更新
7月31日完結予定
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
側妃の愛
まるねこ
恋愛
ここは女神を信仰する国。極まれに女神が祝福を与え、癒しの力が使える者が現れるからだ。
王太子妃となる予定の令嬢は力が弱いが癒しの力が使えた。突然強い癒しの力を持つ女性が異世界より現れた。
力が強い女性は聖女と呼ばれ、王太子妃になり、彼女を支えるために令嬢は側妃となった。
Copyright©︎2025-まるねこ
婚約者の番
ありがとうございました。さようなら
恋愛
私の婚約者は、獅子の獣人だ。
大切にされる日々を過ごして、私はある日1番恐れていた事が起こってしまった。
「彼を譲ってくれない?」
とうとう彼の番が現れてしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる