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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第1章ガレイ編

第二部・攻防戦 19話

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 リオ達によって魔力へと帰っていくオーガスの姿をした魔人。その姿が完全に消滅したことを確認したリオ達は、上空に浮かぶ翼人のような姿をした「悪魔」と呼ばれる存在を睨みつける。

「今度はお前の番だ、早く降りてこい」

 悪魔を睨みながらジンが口を開く。その台詞を聞いた悪魔は愉快そうに笑い声を上げると――

「私お手製の駒がそんな簡単に倒せるとお思いで?」

 そう口にする。と同時に、彼のそばに魔力が集まり再び人型を象っていく。そうして作られたのは、先ほどジンが倒したはずのオーガスの姿をした魔人。だが先ほどとは異なりオーガスの特徴として残っていたのは彼の全身を覆う鎧だけであり、その鎧も含め全身が魔人の特徴である漆黒の闇に覆われていた。

「さあ、二回戦の開始ですよ」

 悪魔がそう呟くと同時に地面へ降りてくる魔人。やがて地面へ降り立つと同時に、魔人は両手に大剣を精製した。
 成人男性でも両手で扱うのが一般的な大剣を両手に持つという光景を見て愕然とするリオ達。

「冗談キツイな」

「ああ・・・だが、やるしかないだろう」

 ジンの台詞に、各自の得物を構えなおすリオ達。対する魔人は二振りの大剣を無造作に構えると、一歩ずつリオ達へと近づいていく。

「常に2人一組で当たれ。下手な深追いはするなよ」

 ジンの注意に魔人から目を離すことなく頷くリオ達。彼らに漂う緊張感。それは戦いの勝利に臨むものではなく「如何に負けないか」ということへ臨んでいるようだった。
 一歩ずつリオ達へと近づいていく魔人。そして不意に大剣を持ち上げたかと思うと、そのまま地面へ向かった振り下ろした。そして魔人の大剣が地面に衝突すると同時に起きた衝撃波は、リオ達目掛けて波紋のように広がっていく。

「回避しろ!」

 ジンが迫ってくる衝撃波を見ながら声を上げる。

「駄目だよ、ジン!あれをどうにかしないと後ろの人たちが・・・!」

 突如として上がるミリーの絶叫。それを聞いて背後に兵士たちがいることを思い出したジンに一瞬の迷いが生じる。もしもあの衝撃波が彼らの元まで到達すれば、ガレイの戦力は一瞬にして壊滅するだろう。

(このまま避ければ後ろの奴らが、かといってこのままだと俺たちが・・・。くそ、厄介な攻撃だな)

 背後の兵士たちから視線を戻したジンがどうにかできないかと思考を巡らす。すると、ジンの視界に青っぽい黒い物体が映り込む。

「ジンさん、僕に任せて」

 ジンの視界に入り込んだ黒い物体はリオの頭だったようで、リオはジンに声をかけると魔法を発動させる。

「《防護》」

 リオがそう呟くと同時に、西門から続く通りを分断するように防壁が展開されていく。やがて綺麗に通りを分断した防壁は、迫りくる衝撃波を受けて粉微塵に砕け散っていった。

「《防護》」

 その光景を見たリオが再度防壁を展開し、再度衝撃波を受け止めようとする。そして再度ぶつかる衝撃波と防壁。
 だが2枚目の防壁もあっという間に消滅し、衝撃波は今なおリオ達へと向かっていく。しかし、どうやら衝撃波の勢いを弱めることには成功したようで、リオ達に迫る衝撃波の勢いが目に見えて弱くなっていた。
 だが、2度も防壁を抜かれると思っていなかったのか、リオの瞳には明らかに焦りが浮かんでいた。

(もっと分厚くて硬いものにしないと・・・)

 2度も破壊された防壁を見て、リオが改善点を探していく。分厚く、硬く、そして壁のように――
 その瞬間、リオの脳裏にある文字が浮かぶ。

「《防護壁》」

 浮かんだ文字をそのまま口にし、再度魔法を行使するリオ。そうして発動された魔法は、先ほどの物と比べても明らかに分厚い防壁として、再度通りを分断する。
 そして次の瞬間、ぶつかり合う衝撃波と防壁。はたして勝者は――

「防いだ・・・?」

 リオの展開した防壁だった。
 先にある程度勢いがそがれていたこともあったが、それでもなお脅威となる威力を持つ衝撃波を、リオの展開した分厚い防壁は防ぎきったのである。
 その光景を見た魔人は、自身の攻撃を防がれるとは思っていなかったのか少しだけ動揺したような仕草を見せると、その防壁目掛けて突進し大剣を振り下ろした。
 直後、爆発音にも似た音が辺りに響き渡る。それと同時に、リオの展開した防壁は音もなく消え去っていく。

「これでも駄目なんだ」

 防壁を破壊されたリオが少しだけ驚いた表情を浮かべる。だがリオは再度《防護壁》の魔法を行使し、魔人の正面に防壁を展開する。

「おい、リオ。今度の方が薄いが大丈夫なのか?」

 ジンがリオの展開した防壁を見て不安そうな声を上げる。彼の言う通り、今リオが展開した防壁はさきほどの物の半分ほどの厚みしかなかった。
 だがリオの方は自信ありげな表情を浮かべながら口を開く。

「大丈夫。薄いけど、強度はさっきの倍はあるから」

「倍なのに薄いのか?」

 リオの説明を聞いて困惑した表情になるジン。普通に考えれば、厚みがあるほうがもちろん強度は上がる。だが、リオが作り出した防壁は魔力で作られたものである。
 魔力というものは、同じ質量でも「圧縮されているかどうか」でその威力や強度は全く異なってくるのだ。

「つまり、私の使うこれと同じよ、ジン」

「・・・なるほどな」

 リオの代わりに魔力弾を精製し、地面に向けて発射することで説明するエレナ。そして、地面に出来た窪みを見て直感的に理解したジンはそう口にすると、魔人の方へ視線を向ける。

「とりあえずあれで防御は問題ないとして・・・どのくらい持つ?」

 魔人を見やりながらリオに尋ねるジン。その理由は、先ほどリオが「《防護》は燃費が悪い」と口にしていたからである。

「ある程度効率は良くなってるから、多分10分くらいは」

「それでも10分か。ピンポイントで張ればもっと時間は延ばせるな」

 リオの台詞を聞いて思考するジン。そうして少しすると、仲間たちへ指示を伝える。

「フジミ、お前は短剣になってリオになるべく魔力を供給してくれ。・・・出来るか?」

「問題ないぜ。・・・だが、俺様がリオに魔力を供給できると知っているとは驚きだぜ」

 ジンの指示に頷いたフジミが意外そうな声を上げ短剣へと姿を変えると、リオの手に収まる。実はジンは、一度死んだ時に自身の様々な記憶を垣間見たことで、フジミがリオに魔力を供給出来ることを知っていたのである。

「なんとなくそんな気がしただけだ」

 そのことを曖昧に誤魔化したジンは、残る面々にも指示を出していく。

「レーベはリオの盾になれ。アッガスは俺とミリー。ふぐおはエレナと一緒に行動してくれ」

 それぞれに出される指示を聞き頷いていく面々。そうしてリオ達の戦闘準備が整うと同時に魔人がリオ達の元へ肉薄していく。

「来たぞ、戦闘開始!」

 ジンに指示されたグループに別れながら散開していくリオ達。すると魔人は、ジン達に目をくれることもなくリオとレーベ目掛けて突進していく。

「レーベ、横に避けて!」

 刹那、リオの手に無数の小さな魔力弾が精製され、魔人に向けて放たれる。対する魔人はそれらを一瞥することもなく大剣を振るうと、その剣先から光線が生まれ、そこからリオと同じように無数の魔力弾が放たれていく。
 魔力弾同士がぶつかり、発光すると同時に霧散。リオの放った魔力弾は全て魔人によって防がれていた。

「おいおい、冗談きついぜ」

 その光景を見たレーベが1人ごちる。その間にも魔人はリオ達に接近しており、間もなく魔人の得物の射程内であった。

「レーベ!」

「分かってる!」

 魔人が間合いに入った途端に、魔人の進行線上に立ち塞がるレーベ。そんなレーベに対し魔人が上段から得物を振るう。
 直後鳴り響く金属音。と同時に、レーベの痛みに耐えるような呻きが漏れる。

「重すぎんだろ、こいつの攻撃・・・」

 まるで巨象に踏み潰されそうになっているような、今にも押しつぶされそうな攻撃にレーベは全身を使って耐えていた。
 だが魔人の方は2本目の大剣を軽々と振り上げると、レーベの大剣へ向かい振り下ろす。それと同時に再度レーベからうめき声が上がる。

「レーベ!大丈夫!?」

 今にも押し負けそうなレーベを助けるべく魔人へ攻撃を加えるリオ。だがその攻撃は魔人の展開した障壁により防がれてしまう。
 だがそんなことはお構いなく乱撃を叩き込んでいくリオ。だが、そんなリオを嘲笑うかの如く障壁がリオの攻撃を防いでいく。

(だめだ、攻撃が当たらない・・・!)

 魔人の鉄壁の防御に焦りを感じ始めるリオ。急がなければレーベが死んでしまう。その思いから、無駄だと分かっていても攻撃を続けるリオ。すると、なかなか粘るレーベを面倒くさく思ったのか、それとも周囲をハエのように飛び回るリオを迷惑に感じたのか。魔人は刹那の内に後退すると、リオ達2人に向けて雷撃魔法を行使する。

「《防護壁》」

 その魔人の攻撃を、強化された防壁で防ぐリオ。と同時に、先ほど魔人を倒した時のことを思い出す。

(そうだ、さっきは魔法で魔人の障壁を破ったんだ。でも・・・)

 それと同時に脳裏に浮かんだのは、先ほど魔力弾で攻撃した時の光景。魔人が振るった剣先から放たれた魔力弾で完全に相殺された瞬間だった。
 だがそこで、リオはある1つの可能性を思いつく。それは魔法専門のエレナでも近接専門のジンでもできない、リオとフジミのみができる方法。

「一か八かだけど、やってみよう。――レーベ」

 その方法を思いついたリオはレーベに声をかける。

「なんだ?」

「1つ試してみたいことがあるんだ。一か八かだけど、あの魔人を倒せる可能性はある」

 リオの台詞に対し、レーベは何も言わずに頷く。――それはその可能性に賭けるというレーベの意思表示だった。

「それじゃあ、頼むよ」

「任された!」

 そうしてリオは、その方法の準備を始めたのだった。
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