君に捧ぐ花

ancco

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第三章 自立への道

第十二話 ナツキとの決別

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晴れてフリーランスとなった杏子は、一日中家に篭ってパソコンを点けておくこともできる身分である。杏子は、チャットルームにログインしたまま放置してみたが、24時間たっても、48時間たっても、年が変わり世間一般の正月休みが開ける頃になっても、一度もナツキがログインすることはなかった。
理由はわからないが、もう杏子とのチャット自体を止めてしまったのだ、そう思うに妥当な期間、ナツキは姿を見せていない。

杏子とナツキは、チャットという、目隠しをして相手と対峙するような不安定な方法で、実に短期間で深く打ち解けていたと言えるだろう。お互いの在住都道府県、職業、交遊関係などを開示しあっていたのである。
杏子は、ナツキがこれまでに明かした情報をかき集め、リアルなナツキを探そうと試みた。一度や二度ではない。幸か不幸か、杏子にとってパソコンの前に座ることは、今や仕事をすることと同義なのである。すっかりお馴染みとなった電子音がするまでは、好きなだけ検索をかけてネットサーフィンができた。

ナツキの住む県には、園芸を生業とする会社やネットショップが、五万とは言わずとも、数百はあった。その気候の良さから、古くから花き産業で栄えてきた歴史を持つようである。
ナツキの話によれば、彼の商売は自営業で、彼一人で営むネットショップであるとのことである。そして、商品となる植物を畑で栽培しており、その主な商品は、海外から輸入するトゲトゲした植物であるらしい。
ナツキの住む県において、輸入植物を扱うネットショップを検索すると、数十件。そして、そこで止まってしまうのである。それらのショップが、果たして栽培用の圃場を有するのか否か、取り扱い商品の中にトゲトゲした植物が含まれるのか否か、一人で営んでいるのか否か。ネットショップのホームページからだけでは、それらの情報を全て確認することはできなかった。そういった情報が載っていれば、それは候補の一つとなるが、ホームページにそういった情報が載っていないからといって、そのショップが圃場を持っていないとか、トゲトゲの植物を扱っていないとか、複数人で営んでいるのだとか、そのように断定して候補から除外することが出来ないからである。

検索に行き詰まると、杏子の思考も行き詰まった。チャットを止めて杏子との関係を絶とうとした相手に、正体を突き止めて会いに行ったり出来るわけがない、会いに行って何と言うのだ、気持ち悪がられるのが落ちだろう。
そこまで考えが行き着けば、もはや検索するのは無駄であると、杏子は思い至った。

杏子は、ナツキを探すのを止めた。検索を止めたというのではなく、チャットルームにおいて彼の姿を探すことすらも止めたのだ。所詮は、ネットで知り合った相手なのだ。いつまでも引き摺っていても仕方がない、そんなことよりも自分の生活であると、ここに来てようやく杏子は現実を見ることができた。
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