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第五章 新居探し
第二十三話 女心と春うらら
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明るい日差しが瞼を透かすのか、杏子は、眩しさを堪えるように一度固く閉じた目を、今やっと開こうとしていた。カーテンを閉めていれば、もう少し寝られたのにと思ったのも束の間、壁に掛かった時計が九時過ぎを指しているのを見て、寝過ぎたと思い直した。昨日は、チェックインしてすぐに寝てしまったのだから、かれこれ十五時間近く寝ていたことになる。脚の筋肉痛はともかく、体の疲れはとれているようだった。
今日も、瀬戸内の気候らしい、穏やかな天気になりそうだった。良い日になりそうだと、何の根拠もないが、杏子にはそう感じられた。
狭いユニットバスで身を清めると、胸下まである黒髪を器用にタオルにしまい込んで、杏子は、昨夜の夕食になるはずだった弁当を温めて食べた。小さな流しとIHコンロの備わったキッチンには、簡単な電子レンジとやかんまでそろっており、家が決まるまでの数日間を、快適に過ごすことが出来そうだった。
フロントで鍵と一緒に受け取った紙に、フリーWi-Fiのパスワードが記載されていたことを思い出し、杏子は、ボストンから愛用のノートパソコンを取り出した。設定を済ませると、昨日不動産屋で薦められた物件について調べ始めた。
杏子の出した条件を満たす物件は、二件あった。いずれも、太陽の庭へ向かうのと同じバスの路線上にあり、環境も悪くはなさそうである。家賃は、管理費込みで5万円弱であるが、2DKの木造アパートか、1Kの鉄筋ハイツかという違いがあった。宮部からの申し出がなければ、迷い無く、いずれかの物件に決めていただろう。
杏子の心は、決まっていた。
(今日も、太陽の庭へ行こう。伯母様の家のこと、お願いしなきゃ。)
バスタオル姿で部屋を右往左往し、簡単に部屋の片付けと身支度を済ませると、ボストンからナイロンの斜めがけバッグを出して、最低限の持ち物を詰めた。脚の疲労は癒えていないが、重い荷物がない分、今日は昨日よりも身軽である。
杏子は、白い長袖カットソーにスウェット素材のグレーのタイトスカートを合わせた。ミニ丈のそれは、黒のレギンスと合わせれば、大して細くはない脚の杏子でも、抵抗なく履ける一着だ。上からふんわりと紺色のパーカーを羽織って、最後に玄関のスニーカーを履いた。白地に、赤い星がトレードマークの、お気に入りの一足であった。
昨日は下ろしていた髪は、今はまだ湿っているため、後ろの高い位置に捻ってまとめ、クリップで留めている。化粧は控えめにしたが、日焼け止めはしっかりと塗っておいた。色の白い杏子の肌は、ここの日差しには太刀打ち出来そうになかった。
玄関扉を開ける前に、下駄箱の上に掛けられた小さな鏡で、杏子は唇にリップクリームを載せた。艶と、ほんの少しの色を載せてくれるものだ。
昨日よりも、自分の格好が妙に気になる杏子であったが、妙でも何でも無く、ただ宮部を意識しているからであった。相手は作業服で土仕事をしているのだから、着飾っていくのは場違いであると、そう考える位には正気であったが、これ以上無頓着な格好は、杏子の女心が許さなかった。杏子の常識と、女心がせめぎ合い、両者が妥協したライン、それが今日のコーディネートである。
今日も、瀬戸内の気候らしい、穏やかな天気になりそうだった。良い日になりそうだと、何の根拠もないが、杏子にはそう感じられた。
狭いユニットバスで身を清めると、胸下まである黒髪を器用にタオルにしまい込んで、杏子は、昨夜の夕食になるはずだった弁当を温めて食べた。小さな流しとIHコンロの備わったキッチンには、簡単な電子レンジとやかんまでそろっており、家が決まるまでの数日間を、快適に過ごすことが出来そうだった。
フロントで鍵と一緒に受け取った紙に、フリーWi-Fiのパスワードが記載されていたことを思い出し、杏子は、ボストンから愛用のノートパソコンを取り出した。設定を済ませると、昨日不動産屋で薦められた物件について調べ始めた。
杏子の出した条件を満たす物件は、二件あった。いずれも、太陽の庭へ向かうのと同じバスの路線上にあり、環境も悪くはなさそうである。家賃は、管理費込みで5万円弱であるが、2DKの木造アパートか、1Kの鉄筋ハイツかという違いがあった。宮部からの申し出がなければ、迷い無く、いずれかの物件に決めていただろう。
杏子の心は、決まっていた。
(今日も、太陽の庭へ行こう。伯母様の家のこと、お願いしなきゃ。)
バスタオル姿で部屋を右往左往し、簡単に部屋の片付けと身支度を済ませると、ボストンからナイロンの斜めがけバッグを出して、最低限の持ち物を詰めた。脚の疲労は癒えていないが、重い荷物がない分、今日は昨日よりも身軽である。
杏子は、白い長袖カットソーにスウェット素材のグレーのタイトスカートを合わせた。ミニ丈のそれは、黒のレギンスと合わせれば、大して細くはない脚の杏子でも、抵抗なく履ける一着だ。上からふんわりと紺色のパーカーを羽織って、最後に玄関のスニーカーを履いた。白地に、赤い星がトレードマークの、お気に入りの一足であった。
昨日は下ろしていた髪は、今はまだ湿っているため、後ろの高い位置に捻ってまとめ、クリップで留めている。化粧は控えめにしたが、日焼け止めはしっかりと塗っておいた。色の白い杏子の肌は、ここの日差しには太刀打ち出来そうになかった。
玄関扉を開ける前に、下駄箱の上に掛けられた小さな鏡で、杏子は唇にリップクリームを載せた。艶と、ほんの少しの色を載せてくれるものだ。
昨日よりも、自分の格好が妙に気になる杏子であったが、妙でも何でも無く、ただ宮部を意識しているからであった。相手は作業服で土仕事をしているのだから、着飾っていくのは場違いであると、そう考える位には正気であったが、これ以上無頓着な格好は、杏子の女心が許さなかった。杏子の常識と、女心がせめぎ合い、両者が妥協したライン、それが今日のコーディネートである。
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