君に捧ぐ花

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第十二章 Beyond the Truth

第百三話 subject: 真奈美です

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From: manamana12_16_1996@_________.co.jp
To: kyoko_hillfield@__________.co.jp
Date: 2015/10/2, Fri 10:07
subject: 真奈美です

****************

杏子へ

突然のメールごめんね!真奈美です。杏子にどうしても急いで伝えたいことがあって、今メールしてます。
すごく言いにくいことなんだけど、どうか怒らないで聞いてもらえると嬉しいです。あのね、杏子がそっちに引っ越してから、ずっと私とメールのやりとりしてたでしょ?あれね、実は私じゃ無くて、お兄ちゃんだったの。ほんと、我が兄ながら悪趣味で申し訳無いんだけど、ずっとお兄ちゃんが私のフリをして、杏子とメールのやりとりしてたんだ…。マジ引くよね~!?そういう私も、途中からはそのメールをBCCで送ってもらって、こっそり覗いてたから実は同罪みたいなもんなんだけど…。
お兄ちゃんてさ、昔っからそうなんだけど、とにかく一度好きになったモノに対して執着が半端ないの。子供の頃なんかさ、ビックリマンシール?とかいうやつ、ファイルに山ほど集めて後生大事に持ってたりさ、今でも二階の自分の部屋にはね、子供の頃集めたガンダムのプラモデルを綺麗に仕舞ってあるんだよ!前に、私がお小遣い欲しさにこっそりオークションで売っちゃったんだけど、そしたらもの凄い剣幕で怒られたんだから!それ以来、お兄ちゃんの仕事を手伝わされて、代わりにお小遣いもらうようになったんだけどさ(汗)
話がそれたけど、そんな執着心の強いお兄ちゃんが、あそこまで好きになった杏子を、ちょっとやそっと拗れたくらいで簡単に手放す訳ないでしょ!?前にお兄ちゃんが自分で言ってたみたいに、杏子のしたことに腹を立てて臍を曲げちゃって、勢い家から追い出して杏子にお灸を据えようとしたけど、実はメールという手段で自分に繋いでおいて、まだ自分を好きかこっそり確かめたり、周りに男の影が無いか探ったり。お兄ちゃんはそういうことをしてたんだよ!杏子のイメージを壊すようで悪いけどさ、妹の私に言わせれば、お兄ちゃんなんて度量は狭いは粘着質だわ嫌みったらしいわ口は悪いは…。私がナツキの名前でお兄ちゃんのフリしてたときもさ(あれはゴメンナサイ!)、私そんなに格好いい男を演じたつもりは無かったんだけど(汗)どっちかっていうと、田舎くさいモサイ男を演じたつもりだったんだけどな。まぁ仕事に対して真面目なところは否定しないから、そこは正直に杏子にも伝えたけど。
確かに恋は盲目って言うし、杏子は一旦こうと思い込むとまっしぐらだし、私としてはびっくりだけど、お兄ちゃんみたいなのに恋しちゃったんだね。
メールのことに話を戻すけど、ナツキとのチャットのことでお兄ちゃんが色々言ったときに、杏子怒って言い返してくれたんでしょ?私はすごく嬉しかったんだけど、お兄ちゃん的には、杏子にムキになって言い返されて、たぶん意趣返しのつもりでこのことを思いついたんだと思う。どうも最初は私にも内緒で、こっそり杏子とやりとりしようと思ってたみたい。だけど実際に始めてみたら、杏子がナツキのことを引き合いにだしてくるから話を合わすのに困ったみたいでさ、それで私に、杏とナツキの会話のことをあれこれ探ってきたんだよね。あんまりしつこく根掘り葉掘り聞くからさ、何か変だと思って問い詰めたら…(怒)
それ聞いて、私すごい怒ったんだよ!だってほんと腹立たしいでしょ!?ナツキと杏のことを散々馬鹿にして、たかが文字のやりとりなんて~とか、他人のフリして騙すなんて~とか、すっごい偉そうに言ってたのにさ、仕返しのつもりなのか何なのか知らないけど自分だって杏子に同じ事してるんだよ?どんだけ子供じみてるの!私言ったんだよ。私が自分で杏子とメール交換するから、お兄ちゃんはもう辞めてって。でも絶対譲ってくれなかった。あれ、だんだん杏子とのやりとりが楽しくなってきてたんだよ。だって、杏子に何か聞きたいことはないかとか、伝えたいことはないかとか、私にも毎週聞いてきてさ、メールの内容を膨らますのに必死になってて、端から見てて可笑しかったもん。
私ね、杏子にこのことを黙っててあげる代わりに、BCCで私にもメールを送ってもらうって条件で、ずっと傍観してたの。本当は、そんな引き替え条件破ってでも、杏子に真相を伝えるべきだってわかってた。でも、メールを見てたら、杏子が必死にお兄ちゃんのことを忘れようと努力してるように見えたから、これ以上気持ちを振り回さないほうがいいのかなって思った。お兄ちゃんが、ずっと私のフリをして、メル友に徹して、それでお兄ちゃん自身もいつか恋心を忘れて、杏子が別の誰かと幸せになるのを見届けるんなら、もうこのことを黙ってようかなって。
だけど、お兄ちゃんが杏子の誕生日に送った植物のことがあってから、あの植物にあんな意味がこめられてるなんて知っちゃってからは、やっぱりお兄ちゃんが杏子のことを忘れるなんてできないんじゃないかと思ったの。忘れるつもりもないんじゃないかって。
そもそもね、あの植物って私のものじゃないんだ。たぶんお兄ちゃんが、杏子のために仕入れてきて、杏子のために養生して、ああいう意味をこめて杏子に渡すつもりだったんだと思う。杏子が色々やらかしたせいで、ちょっと予定が狂って渡せず仕舞いだったのを、誕生日をきっかけにして、漸く踏ん切りを付けて杏子に贈る決心をしたんだと思う。ここ一月半くらいのお兄ちゃんはね、前みたいに楽しそうにメールしてる感じじゃなかったんだ。ほんとはもうとっくに杏子のことを赦してるのに、まだ杏子のことが好きで堪らないのに、こんな馬鹿な仕返しを始めて引っ込みがつかなくなってたんだよ。特に、先月の杏子のメールでアメリカ行きのことを聞いてからは、見てて憐れになるくらい落ち込んだりイライラしたり。買い付け前で仕事も忙しくて、余計にしんどかったのかな。
ほんとに、どうしようもない兄だけど、私としては、それでもやっぱり幸せになって欲しいんだ。多少性格に難有りだけど、辛いこともいっぱいあったし、私のために苦労してきてくれたこともわかってるから。すごく好きな人が居るなら、もし相手の人もこんなお兄ちゃんを好きだって言ってくれるなら、二人でちゃんと幸せになって欲しい。その相手が杏子なら、私はすごく嬉しい。
そういうわけで、今日、お兄ちゃんが、空港から直接そっちにあの鉢を取りに行くって聞いたから、お兄ちゃんと再会する前に、杏子はこのことを全部知っておくべきだと思って、それで急いでメールしました。
こんな馬鹿な話を全部聞いた上で、それでもまだお兄ちゃんを好きだと思ってくれるなら、今日そっちに会いに行った時に、話を聞いてあげてください。
思い込みの激しい、頭に血が上りやすい杏子と、杏子を絶対に手放したくない粘着なお兄ちゃんが、この上さらに話を拗らせることがないよう願って、私からこのメールを送ります。

真奈美より
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