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添付資料02

1837年式射撃管制装置

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■概要
1837年式射撃管制装置は、労農党赤軍の陸軍、海軍および防空軍が採用した高射砲の射撃を管制すための装置である。目標までの距離、高度、移動方向や速度を測る光学式測距儀と、光学式測距儀の測定結果および、砲の射撃に必要な様々なデータをもとに、射撃諸元を算定する機械式計算機からなる。

飛来した敵機を撃墜するには、敵機の高度、進路、速度の他、砲に関連する情報として、砲弾の重量、初速、特定俯仰角における射高、到達秒時、砲の俯仰角、砲弾の炸薬温度などがあり、さらに、外的要因である気温や湿度、風向に風速といった自然条件までも測定し、それらの情報から砲に与えるべき方向角、俯仰角、信管調定秒数を算出する必要がある。
航空機の性能が低かった時代は、目測による射撃でも有効な射撃を得ることも可能であったが、爆撃機が高度6,000メートルを時速450キロメートルで侵入するような時代ともなると、敵機の未来位置を目測で判断するのは不可能に近く、何等かの方法で敵機の情報を測定し、砲に与える諸元を算定する必要があった。
そのために開発されたのが、1837年式射撃管制装置である。
本装置は、敵機の情報を測定する光学式測距儀と、砲および気象条件に関する情報を収集し、光学式測距儀からの測定値と合わせて、射撃に必要な諸元を算定する機械式計算機からなる。本装置で最大4門までの高射砲にデータを伝達することができる。
本装置の運用には測距儀による観測に3名の他、計算機の操作要員に2名を必要とした。一般的な高射砲兵の観測班としては、これに班長1名と各砲への連絡要員に4名を追加した9名で編成される例が多かった。ただし、これは完全に充足された編成の例であり、実際には観測2名、連絡係1名に、班長1名の4名で運用された例もある。

光学式測距儀は、海軍の艦砲射撃用に開発した立体視が可能な光学式測距儀を、陸上での運用が容易なサイズである3.5メートルにまで縮小したもので、横に倒した筒の左右に対物レンズとミラーが組み込まれていて、筒の中央にいる観測員がぼやけて映る像が鮮明になるようにミラーの角度を調整すると、筒の両端にある対物レンズとミラーまでの距離と、ミラーの角度から、三角測量の要領で敵機までの距離を得ることができる。
また、対物レンズの俯仰角と地平線との角度から、敵機までの距離から高度を求めることもでき、さらに、敵機を継続して観測し続けることで敵機の進路と移動速度を計測することができる。
測定可能な敵機までの距離は、理論上は30,000メートルまでなら測定が可能であった。しかし、実際には、天候やレンズの工作精度などにも左右されることが多く、15,000メートルからが実用的な測定距離であった。
光学式測距儀から得られたこれらの情報は、すべて電気信号として機械式計算機に入力される。

機械式計算機は、光学式測距儀から受け取った敵機の情報の他、入力キーを使って設定された気温、湿度、風向、風速の他、砲の性能情報を記録した金属板から得られた情報をもとに、砲に与えるべき俯仰角、方向角、信管調停秒数を計算する。
情報記録板は金属の板に複数の穴を開けたもので、穴の開いた位置をもって砲に関連する情報を保持している。機械式計算機にはこの記録板を最大4枚挿入できるスロットが設けられていて、性能が違う砲を扱う場合でも、それぞれの砲に合った値を計算することができた。一方、同一の砲であっても同じ記録板を挿入する必要があり、その場合最大で4枚の同一形式の記録板を挿入しなければならない。
計算には歯車やバネやモーターとった部品が複雑に関連して動作する機械式の計算機が用いられており、衝撃や振動には弱いため、砲からはなるべく離して設置する必要があった。当然、砲との距離が離れるほど、射撃管制装置から見た敵機の位置と、砲から見た敵機の位置は離れるため、その誤差を修正するため、管制する砲の位置を距離と方位という形で入力することができた。

各砲に対して算定結果を伝達するケーブルは、100メートル以上の長さがあり、それだけの長さを送信しても減衰することのない電圧が必要だった。そのため、本装置には電源を供給するための車両や小型発電機を準備する必要があった。
数ある様々な発電機の中には、自転車のペダルと同様の機構でモーターを回転させて発電させる人力発電機も準備されていたため、最悪、燃料などが確保できない状態でも、この人力発電機さえあれば本装置を動作させることが可能であったが、その運動量はかなりのものとなるため、実用された例はあまりない。

射撃管制装置から伝達された情報は、各砲に電気信号で伝えられ、表示される。表示する方法は砲の種類によって差異があるものの、概ね伝達された方向角及び俯仰角を示す針と、砲が現在取っている方向角および俯仰角を示す針とが表示され、これを重ねることで方向角と俯仰角を得るようにする方式が、一番簡単でわかりやすかった。
敵機に到達するまでの算定秒数については、秒数が表示されるので信管測合手はその秒数に合わせて信管を測合すればよかった。また、自動信管測合機を備える場合、測合機に信管のある砲弾の先端を挿入すれば、信管に設けられた穴ないし溝を見つけて自動的に信管を測合してくれるようになっており、その場合、測合手のかわりに装填手が砲弾を測合機に挿入して信管を測合し、そのまま装填するという方式も取られた。

射撃管制装置は厳密に水平になるように設置される必要があったため、設置の前には地盤を掘削するなどして床面を整える作業が必要だった。もっとも、複雑な機械の集合体であるため、被弾には非常に脆弱であったことから、掩蔽壕を掘ってその中に設置することが基本となっており、高射砲兵の観測班は、自分たちの掩蔽壕を掘った後は、この射撃管制装置の壕を掘るのが通例であった。
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