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魔法対抗試合編
第二十話 : 俺の知る先生は
しおりを挟む「何おかしなことを言っている、早く外さないか」
淡々と自分の思いを伝える。まるで何もされていないかのように座り、話しかけてくるその態度から俺は目の前のやつが先生ではないことに更に確信を持った。先生の場合、絶対怒鳴り散らすんだろうな⋯⋯
「ダメだ、あんたの目的が分かるまではこのままでいさせてもらう」
鞄に手を入れ、いつでも次の魔法が使える準備をしておく。普段から、もしものためにと魔力を込めるだけで使える即席出力魔法の紙を入れておいて正解だった。まさか、こんな事になるとは。
こいつの目的、正体、変装の理由、どれも全然分からない。が、映像が揺れ、魔力が全体を覆ったこの状況で一人何も無い時点で警戒はすべきだろう。
「⋯⋯そっか、残念。バレちゃってたかぁ、、、ねぇ、どこで分かったの?」
⋯⋯意外に認めるの早かったな。なんかもっと『ふふふ、その根拠は?』みたいな感じで粘る系かと思ってた。
シュンとしたも束の間、拘束ギリギリまで上半身を横に倒し、興味津々にこちらを見てくる偽オリアス先生に俺は説明した。
「まず、最初に違和感を覚えたのは、あんたが隣りに座ってきた時だった」
「えっ、早くない!?」
ぶっきらぼうで強面の先生の顔はものの見事に崩れ去っていた。こんな間抜けな顔した先生、今後見ることないんだろうな⋯⋯
「あんた、俺のこと“君”って呼んだだろ。いつもの先生は“お前”呼びだ」
「⋯それって先生としてどうなの」
⋯それについてはノーコメントとさせてもらおう。ていうかもう、先生の口が悪いのは生徒も教師も、全員が知ってることだからな、今更すぎるか。
「そんで先生じゃないって確信したのが、“闇魔法が使える”って言った時だ。闇魔法が使えることを秘密にしてる先生がこんな公衆の面前で言うわけがないからな」
闇魔法持ちとして生まれてくるのはごく僅か。人を操るという能力は、あまりにも多くの感情を集めてしまう。恐怖、不快、更には羨望まで⋯それを避けるために染髪してるんだ。
「⋯そっか、うん、いい師弟関係だね」
「いや、別に師弟ってわけじゃ―――」
ガキンッ、俺の言葉を遮断するように鳴り響いた破壊音。見れば、右手部分の拘束具が真っ二つに開かれていた。無理やり、上に引っ張る形で破壊したため、断面が粉々になっている。
「⋯いや、は?嘘だろ⋯⋯」
学校の教師陣でも苦戦するような拘束具を、こいつ、グッと力を込めただけで壊しやがった。
ガンッ、ガキンッ――続けざまに鳴り響く音に、目の前で安々と拘束を解く姿に、俺は呆然と座っていた。
―――いや、このままだと危ないっ!!
鞄から第二の魔法陣を取り出す。
「捕らえろっ⋯!!」
同じ拘束系でも今度は植物魔法をベースに作った拘束具、いわば触手拘束だ。
力ずくで抜け出そうと思えば思うほど、触手が絡まり、触手の出す粘液によって徐々に力も失われていく。ただ、魔法を作る段階で一つでもミスると暴走しかねないから完成形は貴重なんだよな⋯一個使ってしまった⋯⋯
腕に絡みつかんとする触手を、振り払おうともがく偽先生を前に、俺は急いで声を発した。
「遮音魔法、解除⋯⋯!」
よしっ、遮られることもなく言えた。もう先生や父さんたちは動けるようになってるだろう。遮音魔法を消した今、俺が助けを求めたら必ず誰かがやって来る。そしてこいつを引き渡す。
まだ蹲る者、近くの手すりにもたれこむ者、飲みかけの酒を地面に溢す者もいる中、俺は普段あまり酷使しない喉を潰しにかかる勢いで目一杯空気を吸い込んだ。落ち着け俺、少し慣れない所を使うだけだ。
その瞬間、俺の視界の端に、溢れかけの酒が映り込んだ。
―――あれ、あの酒⋯⋯止まってないか⋯⋯⋯?
いくら経っても一向に動かない酒を見ていると、後ろから鋭い風音が何かを切り落とす音が聞こえた。すぐに音のした方へ向くと、そこには狂風のように吹き荒れた風が、偽先生を傷つけることなく上手くコントロールされた状態で、触手拘束を切断していた。
この風⋯あいつを中心にどんどん威力が増している⋯⋯まさか、偽先生が操ってるのか!?
その物凄い風量に危うく巻き込まれてしまいそうになる体を必死に堪える。
偽先生は、触手を原型を留めないほど切り刻んだ後、ゆっくりとこちらへ歩み寄っては風が収束すると共に先生の姿を崩していった。
長く結われた紺青色の髪は、白基調で一本の薄緑色がシュッと流れるセンター分けに。俺を見つめる目線は高くなり、そして距離はグンと縮まっていた。
「ねぇ君、僕のところに来なよ!」
今にも額がくっつきそうな距離で、俺の頬を両手で挟んだ男は、新しいおもちゃを貰った子供のように目に輝きを乗せていた。
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