俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬

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魔法対抗試合編

第二十一話 : 守るべきもの

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「はぁっ!?」

大の男が至近距離で勧誘してくるという状況に理解が追いつけずつい大きな声を出してしまった。それでも、俺達が周りから注目されることはなかった。

時間が止まっている―――

果たしてそんな事が可能なのか。確かに時間停止魔法は俺も作ったことがあるが、それでもほんの数秒だ。こんなに長時間、一体どうやって止めてるんだ⋯?

このだだっ広い空間にたった二人の男だけが瞳に生を宿していた。
続けざまに男は落ちることないテンションで話し続けた。

「最初は全っ然興味無かったけど、そっか、あの人が欲しがるわけだ!心配しないで、丁重に扱うからね」

⋯⋯勢いやべぇなこいつ、てか俺を欲しがる“あの人”って誰だよ。俺が知ってるやつか?⋯いや、俺の交流関係の狭さ舐めるなよ?
ニコリと笑うその顔に、少しの恐怖を覚えた俺は男から顔を背けたものの、一瞬視界の端に入った男の目に視線が釣られた。

⋯綺麗だな、透明感のある濃緑で、宝石みたいだ。植物魔法と違って風魔法は薄い緑色が特徴だが、この深みのある色⋯魔力の純度が高いのか⋯⋯?

「あれ、もしかして僕に見惚れてる?」

妙に嬉しそうに言う男に、「いや、まったく」と両手を押し付けて距離を離そうとするも、男の体はびくともせず、逆に俺の両手首を男は左手で一つにまとめてしまった。

「ねぇ、そんなに僕が嫌?僕は結構気に入ったよ、君のこと」

これでも騎士団長の家の子として筋トレくらいはしていた。ロイほどじゃないけど、普通の人に比べると力はある方だと思う。
ありったけの力を込めて必死に両手を解放させようとするも、俺の手を束ねる男の左手は微動だにしなかった。

くそっ、何されるか分かんねぇのに!!

今日初めて会ったにも関わらず謎に俺を好いてるやつの次の行動なんて分かるわけない。捕まった以上、逃げることも隠れることもできない俺はただ募る焦りを気取られないようポーカーフェイスをするだけだった。

「で、来るの?来ないの?」

左手が俺の手にいったことで、顔をサンドしていたもう片方の手は、俺の頬を掴む形に変わっていた。
ガッシリと引き締まった指でプニプニと頬を触りながら、男は言う。

「⋯行かない」

そう言った瞬間、男の目から光が消えた。先程までの笑顔は消え、自分の思い通りにならない俺への怒りの感情が、彼の冷徹な顔から伝わってくる。全身を強張らせ、俺は彼の手中にある両手が折られるかもしれないと覚悟を決めた。

「⋯そっか、悲しいなぁ」

かと思えば、男はコロッと表情を変え、自分の心中を話した。真逆の転換に戸惑いながらも、“悲しい”というその言葉に一切感情が込もっていないのに気がついた。


――ついて行ったら分かったかもしれない、皆をこんな風にした魔力も、時間を長時間止める方法も。でも、行ってしまったら最後、もうこちらに戻って来れない気がした。

「あ、もしかしてまだそんなに信用ない?」

俺に断られたのは信用度が理由だと思った男は、『試しに何か聞いてみてよ』と尋ねてきた。

「⋯名前は?」

「イチ。僕が一番目の配下だから、そう名付けられた。最初の名前はもう忘れちゃった」

名付けられた⋯⋯さっき言ってた“あの人”が、もしかしてこいつのボスにあたる者なのか?てか、ほんとなんでそいつは俺のことが欲しいんだ?成績は悪いし魔力は全然ないのに⋯⋯あ。
そういえば、と俺はイチに質問した。

「本当のオリアス先生は今どこに――」

“オリアス先生”その名前を出した途端、俺の頬をつまむ力が強くなる。

「僕という男がいるのに、他の男の話をしないでくれるかな」

⋯⋯り、理不尽すぎだろ!!?何だよそれ、なんでそんな束縛する恋人みたいな雰囲気出してんだ。俺達さっき会ったばっかだろ!!

でも、同じ人物がいて騒ぎになるという状況を避けるためには先生を一度この建物から隔離、もしくはどこかに隠さないといけない。

それを先生が安々と応じるわけがない以上、こいつ――イチという男は、先生同様、もしくはそれ以上に強い力を持ってるのかもしれない。

「ねぇ、本当に君は来ないわけ?」

「しつこいな。行かないって言ってるだろ」

そう強い口調で答えると、男はがっかりとした顔をして。

「そっかぁ、じゃあ君の弟のロイくん、殺さないといけないね。ほんと書類の処理大変なんだよね、人殺した後ってさ」

「⋯⋯⋯は?」

今、弟って言ったか⋯?弟を、ロイを殺す⋯?何言ってんだ、こいつ⋯⋯

「どうして⋯⋯⋯?」

「君がついて来ないって言うから仕方なく。君を生け捕りにするのが僕の仕事だからね。君が大人しくついてきてくれるならそれが一番だよ、僕も傷つけたくないし」

そう言うイチは、平気な顔をしていた。こいつ、人を殺すことを何とも思ってないのか。
そんな中、とある記憶が俺の脳裏をよぎった。

「いや、お前にロイは殺せないはずだ。あいつは今異界の中に――」

そんな俺の希望をすり潰すようにイチは言葉を重ねた。

「うん、だから僕の仲間も今異界の中にいるよ。いや、手下かな?まぁいっか。とりあえず、僕が指示を出しさえすれば君の弟は死ぬ。それだけさ」

「でも、ロイはそう簡単にやられるほど弱くはない。だってあいつは⋯⋯」

「うん、強いのは百も承知さ。だから僕は彼らに魔法を授けた。少しの間魔力を倍にする魔法。流石に君の弟も自分めがけて何発も魔法を打たれたら倒れるでしょ」

⋯⋯体力を消耗した状態で、カインとの魔法勝負。流石のロイも疲弊している。そんな中、何度も襲いかかる魔法を対処できるのか、傷をおった体で自分を殺しにくる相手を倒すことができるのか。それは多分、難しい。

俺のせいでロイが死ぬ――その恐怖が徐々に俺の中に浸透していく。心臓が煩く鳴り響き、呼吸が浅くなる。

「今はまだ足止めだけ頼んでるけど、君が答えを変えないのなら、僕はすぐにでも指示を出すよ。そして君を瀕死にさせて連れて帰る。うん、ハッピーエンドだ!」

⋯なんだよそれ、そんなに攫いたいのなら俺の意見なんて聞かずにさっさと攫えよ。なんで、なんで俺のせいでロイが危険な目に合わなきゃいけないんだ⋯⋯⋯

「ほら、どうする?もう答えは一つしかないと思うけど」

両手首の骨が軋む音がする。少し抵抗するだけであっさり折られてしまいそうだ。最初の丁重に扱う発言なんてとっくに無効らしい。

「ほら早く、じゃないともう指示出しちゃうよ?あっちの世界は時間止まってないし」

急かして急かして、追い詰める。こいつのやり方は凄く嫌いだ。
⋯⋯もし、こいつについて行ったら、俺はもう戻ってこれない。言動から考えるに、こいつはきっとの住人だ。殺人なんて幾度となくやってきたはず。
なんで最初こいつの言動に違和感を感じた時、逃げなかった。なぜ拘束ごときでこいつを止められたと思った。いくら後悔しても、もう遅い。
大切な弟が俺のせいで死ぬ、それだけは絶対、絶対にダメだ。

―――弟は、ロイは俺が守る。

「⋯⋯分かった、お前らについていく」

⋯⋯考えろ、きっとまだ策はあるはずだ。指示を出させることなく、こいつを倒す方法が。

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