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魔法対抗試合編
第二十五話 : 闇と光
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「んじゃ、そうと決まったら早速帰ろうか」
そう言ってパッと左手を開け、イチは俺の両手を解放した。
これで鞄から魔法式を取り出せると思った束の間、見えない力が俺の両手の動きを封じ込めた。
「なっ、⋯!?」
「安心して、怪我するほど鋭くはないから。あ、でも逃げようとするなら多少切るよ、仕方ないじゃん」
金属とは違う、まるで強力なベルト拘束のように両腕を括るそれは、きっと風魔法の一種なんだろう。
風の質感も簡単に操ってしまう、ほんとこいつ何者だよ。
しっかし、いよいよどうするか。なんか策があるかと思ったのだが、こいつチャラめな言動とは打って変わって隙がない。間髪入れずにすぐ拘束だもんな。⋯⋯ロイの安否も気になるし、くそっ、ほんとにこいつに指示を出させず、逃げきる方法なんてあんのか⋯!?
すると突然、ブー、ブー、とどこからともなく振動音が聞こえてきた。見ると、イチのズボンの右ポケットからのようだ。
「ちょっと待っててね」と、微笑みと片手の“ストップ”という動きで伝えたイチは、俺の両足を風で固定した後、
「誰?今から二人で帰ろうって時に邪魔してくる無配慮な野郎は――って、何だよ」
グチグチと口ずさみながら、少し俺から離れ、こちらに背を向けたイチは、震え続ける、手に収まるほどの大きさの物体をポケットから取り出した。
そしてイチが何かを親指で押した瞬間、何も無い空中に突如として映像が映し出された。
移動ができずとも、上半身はなんとか動かせる。そのため、必死に彼が見てる画面を俺も見ようと体を斜めにした。
⋯⋯も、森⋯?もしかして、異界なのか?それにしても、どうやって繋げてるんだ。異界の植物は全て教師陣の管理下にあるというのに⋯⋯もしかしてジャックでもしたのか⋯!?
「あっ、あの⋯!」
イチの肩越しに聞こえてきた声に、曲げていた体が止まる。
⋯⋯⋯いやいやいや、そんなことも可能なのかよ!!?
イチの持っている物は、第二試合での植物の視界映像を落とし込む技術の、その更に上を行っていた。“映像だけではなく、声も伝える”。時間停止もそうだが、一緒にいれば居るほどこいつが、いや、こいつのいる大本が、この世界の常識をかけ離れている事を知る。
「は?何言ってんの、失敗は許されないよ。あぁ、それとも家族全員皆殺しにでもしてほしいのかな」
苛ついた様子で、低く淡々と言うイチに、自分宛てではないにも関わらず少し動きが固くなる。
にしても“家族皆殺し”って、本当にこいつはやりかねないから怖い。ていうか誰と話してるんだ、焦ってるみたいだけど。⋯⋯くそっ、これ以上曲がらないか。もう少しで見えるってのに。⋯もしかして、今喋ってるのがイチの異界内の協力者なのか?
「す、すいません!でもほーーと、こんなーーーなんて聞いて無いですよ!!ーー使ったのに、ーーーせないし、あのっ、だから俺っ!!!」
「煩い、黙れ」
そう言い、映像を投影していた物を親指で粉々に潰す。
俺と話していたイチはどこに行ったのか、今のこいつは黒い革靴を踏み鳴らし、建物全体を破壊しうる威力の風を身に纏っていた。
「⋯⋯予定が変わった。どんな手を使っても即刻戻らないといけない」
くるりと振り返って、俺を固定していた足、手、両方の拘束を解いたイチは、そう言うと胸ポケットから何かを取り出す仕草をした。
拘束が解けたにも関わらず、今にでも誰かを殺しそうなこの男の覇気に、体が動かない。刃物を首に突きつけられている感覚だ。
逃げないとやばい、一刻も早くこいつから離れないと連れて行かれる⋯もう時間がない⋯⋯!!
―――あれ、このまま俺こいつに連れて行かれるんじゃ⋯?
たった一瞬、脳をよぎったその考えは少しずつ俺の全身を這うかのように蝕んでいった。
その時だった、俺の背後から勢いよくガラスが割れるような音がしたのは。
「あ、アレクっ!!?」
誰も立ち入ることの出来なかった二人だけの空間。そこに入った新たな亀裂を作り出したのは、俺の子供時代からずっと側で見守ってくれていた副団長、アレクだった。
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