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夏休み編
第二十九話 : 気がかりなこと
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「ふー、結構早かったな」
王都中央に位置する学校から馬車で数時間。俺は久しぶりに家に帰ってきた。
「しっかし、相変わらず広いよなぁ」
家⋯⋯いや、実質騎士団本部と言っても過言ではないここは、騎士団長の家のすぐ隣に騎士団員の寮棟と訓練場が建てられていた。それに、父さんの家と言っても、基本フルオープンな父さんの影響で広い家の中には常に団員が寮と家を行き帰りしていた。
それがまた、賑やかで面白いんだよなぁ。
「兄さん大丈夫?疲れてない?」
馬車の中から重たげに出てきたロイは、御者台に座っていた人に支えられながら下車をした。
それなのに俺の心配ばかりしている。
王都から比較的近いとしても通った道はどれも荒れてばかり。数時間に渡り揺れに揺れた馬車旅のせいでロイはすっかり調子を崩していた。
「大丈夫かロイ?ほら、俺が支えてやるから」
そう言って御者の人からロイをもらった俺は身長の関係で肩に手を回すのをやめ、背中を手で支える形をとった。歩きながら徐々に体重をこちらに傾けるロイに、いつか俺ごと倒れるんじゃないかとヒヤヒヤしつつも、玄関までの道中にある、噴水や色とりどりの花が咲き乱れる花壇を二人して楽しんだ。相変わらず庭師の人件費をケチってるせいか、不格好に整えられた植木たちも俺達にとっては安心する光景だった。
そうして懐かしい庭園に目を奪われていると、いつの間にか目の前の長い敷石が白い階段へと変わっていた。
ただいま、と玄関先に足を踏み入れた俺達を静寂が包みこんだ。が、それはすぐに歓声へと姿を変えた。
「おお二人とも!元気だったか!?」
「レイ、お前身長伸びねぇなぁ」
「なんだロイ、また馬車酔いしたのかよ」
俺達二人に向かって降り注がれるとてつもない勢いに、久しぶりにあてられた俺はつい圧倒されてしまった。この勢いに俺より長く触れてきたロイもまた、今日は受け付けていないらしい。俺にもたれつつ眉間に皺を寄せ、煩わしそうに目を細めるその表情は、長らく苦楽を共にしてきた団員に向かってする顔ではなかった。
そうして、俺達を取り囲む人壁を少しずつかき分け、ようやく突破した時にはもうロイの部屋に到着していた。
「ほら、少し横になれ」
ロイをベッドに寝かせた俺は、先程の旅での記憶を思い出していた。
迎えに来るはずだった父さんとアレクに急ぎを要する仕事が入ったということで、急遽二人きりの馬車旅が始まったわけだが、その道中楽しげに会話をしていても、ふと突然、何かを思い出したように俺の顔を見ては表情を暗くするロイが少し気になった。それも何回も、俺が外の景色を見ている時に限って、瞬きの回数が減り、両手を強く握っていた。バレてないと思ってるのか、ったく。こっちが何年側にいたと思ってんだか。
聞きたい気持ちもあるが、ロイが自分から言ってこない以上、言いづらいことかもしれない。ここは兄として弟の思いを尊重してやらないとな。
「とりあえず荷物置いてくるから、少し待っとけ。あ、変に動こうとするなよ」
寮でまとめた荷物は思いの外少なく、肩にかけて持ち運べる量だった。
一旦部屋の前に置いてきた鞄を、隣の俺の部屋に置いてこようとベッドから立ち上がる。するとベッドから離れるのを拒むように、ロイの手が俺の裾を強く掴んだ。
「ロイ?」
名前を呼んでも一向に返事をせず、ただじっと裾を掴むだけのロイは、少し火照った顔をしていて、薄く開いた瞳で俺の顔をしきり眺めていた。
「兄さん、側にいて」
力ない声で小さく囁かれた言葉に、何故か俺の鼓動は小刻みに動き出した。
久しぶりにこんなに弱ったロイを見たからだろうか、一向に止む気配がない早い脈動に俺は無性に焦りを感じた。
俺は昔みたくロイの隣に寝転んだ後、横並びになることで改めて体格差を実感しつつも、ロイの頭をしきりに撫でまわした。俺の妙に速く動く心臓から、意識を遠ざけるために。
そして撫で続けるに連れ、次第にとある考えが俺の頭の中で浮き彫りになってきた。
⋯⋯⋯あれ?なんかロイ、熱くないか?
急いで、撫でていた手をロイの額に当てる。
「やっぱロイ、熱いぞ!!」
普段から馬車酔いはするものの、その症状は軽いものだった。それでも俺にもたれ掛かっていたのは、てっきり甘えたい気持ちからかと思っていたが⋯熱があったのか。もしかしたら馬車内での様子も、熱が関係していたり?いや、今はそんな事どうでもいい。ロイの看病が先だ。
ひとまずロイに熱があることを誰かに伝えないと、と体を起こした俺はロイに待ってるよう伝えた後、ベッドから降り立った。次の瞬間、俺の腰を片腕で力強く抱き寄せたロイによって、俺は再びベッドに寝転ぶ形となった。
「お、おい!どうしたロイ!?」
物凄い速さで再びベッドに横になった俺は、いきなりの状況に頭が追いつかなかった。
にも関わらず、ロイは更に深く密着してきた。
「兄さん、側にいてって言ったでしょ」
そう言うとロイは、後ろから俺を両腕で抱き込み、足を絡ませた。
王都中央に位置する学校から馬車で数時間。俺は久しぶりに家に帰ってきた。
「しっかし、相変わらず広いよなぁ」
家⋯⋯いや、実質騎士団本部と言っても過言ではないここは、騎士団長の家のすぐ隣に騎士団員の寮棟と訓練場が建てられていた。それに、父さんの家と言っても、基本フルオープンな父さんの影響で広い家の中には常に団員が寮と家を行き帰りしていた。
それがまた、賑やかで面白いんだよなぁ。
「兄さん大丈夫?疲れてない?」
馬車の中から重たげに出てきたロイは、御者台に座っていた人に支えられながら下車をした。
それなのに俺の心配ばかりしている。
王都から比較的近いとしても通った道はどれも荒れてばかり。数時間に渡り揺れに揺れた馬車旅のせいでロイはすっかり調子を崩していた。
「大丈夫かロイ?ほら、俺が支えてやるから」
そう言って御者の人からロイをもらった俺は身長の関係で肩に手を回すのをやめ、背中を手で支える形をとった。歩きながら徐々に体重をこちらに傾けるロイに、いつか俺ごと倒れるんじゃないかとヒヤヒヤしつつも、玄関までの道中にある、噴水や色とりどりの花が咲き乱れる花壇を二人して楽しんだ。相変わらず庭師の人件費をケチってるせいか、不格好に整えられた植木たちも俺達にとっては安心する光景だった。
そうして懐かしい庭園に目を奪われていると、いつの間にか目の前の長い敷石が白い階段へと変わっていた。
ただいま、と玄関先に足を踏み入れた俺達を静寂が包みこんだ。が、それはすぐに歓声へと姿を変えた。
「おお二人とも!元気だったか!?」
「レイ、お前身長伸びねぇなぁ」
「なんだロイ、また馬車酔いしたのかよ」
俺達二人に向かって降り注がれるとてつもない勢いに、久しぶりにあてられた俺はつい圧倒されてしまった。この勢いに俺より長く触れてきたロイもまた、今日は受け付けていないらしい。俺にもたれつつ眉間に皺を寄せ、煩わしそうに目を細めるその表情は、長らく苦楽を共にしてきた団員に向かってする顔ではなかった。
そうして、俺達を取り囲む人壁を少しずつかき分け、ようやく突破した時にはもうロイの部屋に到着していた。
「ほら、少し横になれ」
ロイをベッドに寝かせた俺は、先程の旅での記憶を思い出していた。
迎えに来るはずだった父さんとアレクに急ぎを要する仕事が入ったということで、急遽二人きりの馬車旅が始まったわけだが、その道中楽しげに会話をしていても、ふと突然、何かを思い出したように俺の顔を見ては表情を暗くするロイが少し気になった。それも何回も、俺が外の景色を見ている時に限って、瞬きの回数が減り、両手を強く握っていた。バレてないと思ってるのか、ったく。こっちが何年側にいたと思ってんだか。
聞きたい気持ちもあるが、ロイが自分から言ってこない以上、言いづらいことかもしれない。ここは兄として弟の思いを尊重してやらないとな。
「とりあえず荷物置いてくるから、少し待っとけ。あ、変に動こうとするなよ」
寮でまとめた荷物は思いの外少なく、肩にかけて持ち運べる量だった。
一旦部屋の前に置いてきた鞄を、隣の俺の部屋に置いてこようとベッドから立ち上がる。するとベッドから離れるのを拒むように、ロイの手が俺の裾を強く掴んだ。
「ロイ?」
名前を呼んでも一向に返事をせず、ただじっと裾を掴むだけのロイは、少し火照った顔をしていて、薄く開いた瞳で俺の顔をしきり眺めていた。
「兄さん、側にいて」
力ない声で小さく囁かれた言葉に、何故か俺の鼓動は小刻みに動き出した。
久しぶりにこんなに弱ったロイを見たからだろうか、一向に止む気配がない早い脈動に俺は無性に焦りを感じた。
俺は昔みたくロイの隣に寝転んだ後、横並びになることで改めて体格差を実感しつつも、ロイの頭をしきりに撫でまわした。俺の妙に速く動く心臓から、意識を遠ざけるために。
そして撫で続けるに連れ、次第にとある考えが俺の頭の中で浮き彫りになってきた。
⋯⋯⋯あれ?なんかロイ、熱くないか?
急いで、撫でていた手をロイの額に当てる。
「やっぱロイ、熱いぞ!!」
普段から馬車酔いはするものの、その症状は軽いものだった。それでも俺にもたれ掛かっていたのは、てっきり甘えたい気持ちからかと思っていたが⋯熱があったのか。もしかしたら馬車内での様子も、熱が関係していたり?いや、今はそんな事どうでもいい。ロイの看病が先だ。
ひとまずロイに熱があることを誰かに伝えないと、と体を起こした俺はロイに待ってるよう伝えた後、ベッドから降り立った。次の瞬間、俺の腰を片腕で力強く抱き寄せたロイによって、俺は再びベッドに寝転ぶ形となった。
「お、おい!どうしたロイ!?」
物凄い速さで再びベッドに横になった俺は、いきなりの状況に頭が追いつかなかった。
にも関わらず、ロイは更に深く密着してきた。
「兄さん、側にいてって言ったでしょ」
そう言うとロイは、後ろから俺を両腕で抱き込み、足を絡ませた。
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