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1章
5話 きっと一度はドラマを見ちゃう
しおりを挟むその後、なんとか彼女を宥めることに成功し、ここについての話を聞くことができた。
頭の整理が追い付かないことばかりの中、確認のため主な部分だけを簡単にまとめる。
「…つまり、君はあの白い子犬の正体で」
「可愛いかったでしょ?」
「崖の下に存在するここは異世界で」
「現実にあるのよね」
「崖際でじっとしてたのは術式の詠唱を唱えている最中で」
「長ったらしいったらないわよ」
「それは異世界から現実世界に帰るためのワープポイントみたいなもので」
「人類はここまで進化したんだわ」
「一回詠唱をするとあと百年は使えなくて」
「人類も退化したものね」
「で、詠唱の途中で俺が蹴飛ばしてしまった…と」
「このやろーっ!」
「だからごめんって!」
今度は胸ぐらを掴み掛かってくる攻撃的な女の子の名は『カトレア』。元々はこちら側、異世界側の人間だったらしいが、諸事情で俺がいた世界に拠点を置き、野良の子犬姿でこっちとあっちを往き来しながら任務なるものをこなしているとかなんとか。
彼女の任務といい、ここが異世界といい、漫画やラノベの中での話でしかない。
初めて話を聞いた時、半ば半信半疑でいると「そういうのいらないから」と無理矢理締め括られた。だから全部信じろと言われても無理な話ではあるのだが。
「あーあ!どーするのよー!今日は帰ったら焼き肉食べに行く予定だったのにー!録画し忘れたドラマもあったのにー!」
掴む手を離し、頭を抱えて喚き出すカトレア。彼女にも、理由はどうあれ帰らなければいけない事情があるらしい。
俺も、こんなモンスターやら魔王とかが存在する世界にはいたくないし、平和な日常に帰りたい。しかし、この一連の出来事は他でもない自分のせい。
こんなことなら梨子にあんなこと言わなければよかった。みんなも心配するに違いない…。
「タケモト、だっけ?いつまでしょげてるのよ」
「え?」
俺が体育座りで落ち込んでいると、カトレアに背中を叩かれる。
「ここでじっとしてても何も起きないし、この先を進んで行くうちに、あっちに帰れる方法が見つかるかも知れないから。という分けで、一緒に旅に出るわよ」
「………はい?」
突然の提案に目を丸くする。
「元はと言えばあんたのせいなんだから、付き合って貰うわよ?まずはあそこに見える街、『サマラクト』に向かうわ」
彼女の指差す先。周りを大きな壁で囲われているので街並みは拝めないが、上の方から屋根らしきものが複数見える。恐らくはゲームとかでよく見られる街だと思われる。
でも、一つ違う。
「えっと、カトレア……さん?」
「カトレア様と呼んで構わないわよ?ていうか呼びなさい。私をここへ落としたことを完全に許すって分けじゃないけど、ま、貸し一つってことで」
「あのさ、カトレア」
「ん?様は?様?」
「俺の名前、ユリヤなんだけど―」
今思えばここから俺、『園山裕璃谷』のメチャクチャな異世界での生活が始まったのだった―
と思う。
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