きっとあの世界には興味がないっ!

yumecycle

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1章

15話 きっとそよ風が吹く頃に衣替えが始まる

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「お待たせしました、『ブラウンカウのステーキ』と『ブラウンカウのミルクアイス』です」

 注文のお皿をテーブルに置くと一礼し、厨房に戻る。
 異世界用に合わせた腕時計に目を見やると、時刻は丁度正午を回ったところ。朝の八時から働いていたので、四時間は経っていることが分かる。
 高校に入ってからすぐバイトを始めていた俺としては、このぐらいは慣れっこ。と思っていたのだが…

「予想以上に疲れたな……」

 そうぼやいて天井を見上げ、なんとなく昨日のことが頭に浮かぶ。
 非日常の始まり。それは、蜘蛛が現れてからだった。崖に落ち、カトレアに出会い、耳をつねられ、メスなのにマイケルとか名前はちょっとどうなのかな、っていう犬の話を聞かされ、カトレアから飯は貰えず、耳をつねられ、笑われ、まともに名前を呼んでくれな……あれ?俺、異世界らしいこと一つもしてねえな。
 その真実に辿り着いた時、後ろから女の人の声が掛かった。

「あ、ユリヤくん、運ぶの終わった?なら、休憩に入っていいよ」

「あ、はい。ではお先に…」

「あー、あと、カトレアちゃんの姿が見当たらないんだけど…」

 なにやっとるんだ、あいつは。

「…すいません、迷惑かけて」

「いいのよ。変わりと言ってはなんだけど、ユリヤくん、よく働いてくれてるから」

「…そう言ってくれると、助かります」

 最後に一言お礼を言って厨房を後にする。
 俺とカトレアは今、『サラマクト』の東側に位置するレストラン『ブリーズウィンド』で働いている。
 理由は勿論、昨日のあの事件。

 あの後、カトレアがやらかしてくれた。

※※※

「上出来よ、タケモト…!」

「遅いぞカトレア…あと、俺ユリヤね?」

 俺を突如として襲った悲劇。それを助けてくれたのはカトレアだった。
 仮面男の放った波動は、カトレアの杖から発した透明な盾によって打ち消されたのだ。

「おあいにくさまね?私が使えるのは召喚だけじゃないのよ」

「は…っ!そんことを抜かしたところで!」

「もう遅いのよ!いでよ!私の超!召喚獣!」

 再度、詠唱を始めようとする仮面男より先に、カトレアが杖を振りかざす。
 すると、カトレアと仮面男の間に水色の魔法陣が出現。先程までのポコタンを召喚したものとは段違いの大きさである。
 だが、本当に驚くのにはまだ早かった。そこから現れたシルエットに、俺は腰を抜かした。

「グガアアアアアアアアアア!」

 魔法陣から出現したシルエットは、ポコタンのものとはあまりにもかけ離れ、おまけに、

「でけえええ!」

 でかい。でかすぎる。めっちゃでかい。
 耳をつんざくような咆哮を上げるそいつは、燃えるような赤い瞳に、ワニのような頭と顎に鋭い牙を何本も携え、頭はギルドの二階を突き抜けて半分外に出ている。体からは鋭い爪と太い足、背中からはその倍の巨大な翼が二つ生えている。全身は水色の鱗で覆われ、それは尻尾の先まで続き壁を突き破っている。
 早い話、巨大な『ドラゴン』。

「いっけー!あの仮面野郎に攻撃よ!ポコゴンブレス!」

「グガアアア!」

 ポコゴン?てか、ブレスじゃなくて尻尾で攻撃してるんだけど!

「くっ!こんな切り札があったとはな…少々見くびっていたか?」

 ポコゴンの、自称ブレス攻撃をかわした仮面男は魔法をポコゴンに放つ。しかし、

「ふふん。その程度じゃ私のポコゴンは倒せないわよ?」

 カトレアの言う通り、ポコゴンの鱗には傷の一つもつかず、本人もケロッとしている。
 カトレアは勝利を確信したような笑みで、杖を仮面男にビシッと向け、言い放った。

「もうじき、ここのギルドの人達も戻ってくるわよ。堪忍しなさい?」

 すると仮面男はどう捉えたのか、カトレアと俺をゆっくりと一瞥し、喉奥で「くっくっ」と笑いを漏らした。
 そして、カトレアにこう言った。

「ふふ…お前はまた、仲間に真実を隠し続けるのか?」

 真実?何の話だ?
 対するカトレアは一度目を見開くと、さっきと一変して険しい表情に変わった。

「っ!あんた…教団関係者じゃないわね…?」

 教団じゃ…ない?じゃあ、こいつは一体…?

「もうこちらでは着々と準備は進んでいる。こうやっていられるのも今のうちだぞ?」

「あ…待ちなさい!」

 仮面男はそれだけ言い残すと、背後の魔法陣の中へ消えて行ってしまった。

「………」

 色々な事態を前に俺が呆気に取られていると、開けっ放しのギルドの扉から続々とバリス達が帰還し、悲鳴が上がった。

「うおお!?なんだこのドラゴンは!」

「教団め!なんてものを召喚しやがったんだ!」

「は?何言ってんの!この子はドラゴンじゃなくて、ポコゴン!いい?ポコゴンよ!」

「いやそこ!?説明するところもっとあるだろ!」

「ということはお前ら、教団の一員だったのか!」

「お前ら二人、ぶっ倒してやる!」

「上等よ!かかってきなさい!」

「いやいや!なに立ち向かってんだよ!どっちも話を聞けえええ!」

 俺の叫び声が、既に夜となったサマラクトの街に響き渡った。

※※※
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