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1章
16話 きっと冷戦の後には晴れがくる
しおりを挟む第二次の戦いが始まりそうになる中、俺はバリス達にこれまでの過程を説明し、なんとか誤解を解いて貰えた。
それは大いに良かった。だが、しかし。だがしかし。
ギルドを改めて見回すと、仮面男との戦いでできた惨劇より、カトレア自慢のポコゴンが出した被害の方が多く見られ…。
このことから、グリード教団の事件よりも世間には、夜中に巨大なドラゴンが現れたことに定評が行き、俺達二人の顔は一瞬にして知れ渡った。
本当だと俺達は牢屋事らしいが、バリスの計らいのお陰で、自分の奥様『サリカ』さんが経営するレストランで一日働くという形で収まり-
今。
「…カトレア、なにやってんだ」
「決まってるでしょ…必殺技の練習よ」
「決まってねえから…意味分かんないこと言ってないでちゃんと働けよ」
休憩所に設置されてる鏡の前で、変なポージングをとっているカトレアに俺はつっこみを入れる。
昨夜はこのレストランの二階の宿屋に泊めてもらい、朝ご飯も食べさせてもらい、ともらってばかりなのだ。こちらとしては反省をする身なのに、ちゃんと働かないと申し訳が立たないし、反省の意味がない。
俺とカトレアは注文を受けたり料理を持って行く担当をしており、カトレアも最初は素直に働いていたのだが…この有り様。
俺は一つ溜め息を吐くとカトレアに聞く。
「…大丈夫か?らしくもない」
実は、昨夜からをずっと何かを考え込んでいるカトレア。
やはり気になるのは、彼女が交わした仮面男との会話の内容だ。どうやら向こうがカトレアの事情を知ってる風だったが-
カトレアはこちらに目を向けずに、ボソボソと答えた。
「…何の話よ?」
「お前、あの仮面男と話してから、ずっと元気がないみたいだからさ」
晩ご飯だってあまり喉を通らなかったみたいだし、目の下の隈を見ると睡眠不足が伺える。それほど、あの男との接触は刺激的なものだったのだろう。
「余程のことだと思ったんだけど…もし無理そうなら、お前の分まで俺が働いて済むようにサリカさんに相談するけど…」
そこまで言ってからカトレアの声が遮った。
「なんで」
「え?」
「なんで聞かないの?」
「…なにを?」
「あの会話の内容のこと…私の都合に、あんたも関係してることは明白でしょ?」
「ああ…」
確かに、気になることはいくつかあった。仮面男が教団の人物じゃないこと、カトレアが真実を隠していること。
でも、俺は被りを振った。
「どうせ聞いても、俺はハゲらしいから教えてくれないんだろ?」
「それは…」
「もし、話したくなったら、俺の髪の毛がふさふさになったなーって、思った時に話してくれよ。それなら問題ないだろ?」
俺の発言が少し予想外だったのか、これまで鏡に向かっていたカトレアの顔は、こちらに勢いよく振り向いた。
「…あんたは、それでいいの?」
「カトレアの過去になにがあったか知らなし、そもそも素性が謎だらけで、おまけに暴力的で、正直、旅するのにこんなんで大丈夫かよって思うよ。だけどさ-」
本当に出会ってから一日で、こんなに人のことを考えたことはないし、こんなにつっこみを入れたこともなく、しかもここまで仲良く…かは分からないが、親しくなったこともない。
そんなだからこそ、久々に思った。
「俺今、凄い楽しいんだ」
「…たの、しい…?」
「だからありがとな、カトレア」
「っ……」
俺が素直な笑みと共にお礼を言うと、カトレアにしては珍しく、少し慌てた様子で立ち上がった。
「ど、どういたしまして?これ全部、私のお陰だから!」
そう捲し立てるカトレアの顔は、少し赤みがかってるような…。
「…あれ?もしかして照れてる?」
「照れてない」
「そんなこと言って、本当は?」
「照れてない」
「正直に言った方が楽…」
「照れてねーって言ってんだろーが!必殺!カトレアビーム!」
「いったあああ!?」
ビームとか言ってるくせに、足の小指を思いきり踏まれる物理攻撃を受けた俺。タンスの角並み、いや、それ以上だ。
なんとも言えぬ痛みに身悶える俺を尻目に、カトレアはスタスタと部屋の扉前まで行くと、
「じゃ、タケダはサボりながら「だりいんだよ、あのババア」って言ってたっておばさんに伝えてくるから。精々怒られることね!」
「辞めて!てか、名前微妙に変わってるし!」
カトレアはそれだけ言い残し「ふっはっはっはっ!」と笑いながら休憩所を後にした。
「………」
俺は痛さに堪えながら、とりあえず備え付けの椅子に腰かける。
一時はどうしようかと思っていたが、すっかりいつものカトレアに戻ってくれていて、嬉しさ極微小、痛さ極大。
だが、こんなふざけたやり取りの中で俺は、この時、ほんの少しだけ、彼女とこの先をやって行ける気がしていた。
了
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