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2章
7話 きっと忍者の里には宝石が眠っている
しおりを挟むコエルにとってかなり大切な物だったであろう優雅王のレアカードは、巨大な熊型モンスターの足によって踏み潰されてしまった。
それまでの経過をリアルタイムで見ていた俺達とコエルの間になんとも言い難い空気が漂い始め、慰めの言葉どころか掛ける言葉さえ見つからなくなっていた。
「お嬢様…」
そんな俺達の前方でがっくりと項垂れる、自分の主の元へミーナが近づこうとした、その瞬間―
「グワアアア!」
「!」
場の空気に気を取られていたせいで、目の前の事実に気付くのが遅れた。
咆哮を上げる巨大熊の大きく振りかぶった右拳が、四つん這いのコエルに迫っていることを視認した時にはもう手遅れ。助け出そうにも、コエルに向かって正面から繰り出される拳は《加速》を使っても意味がない。
それでもなんとかしようと名前を呼ぼうとし、コエルを見て、俺は出かけた言葉を飲み込んだ。
「ふ、ふふふ…」
笑ってる…?
後ろ姿だからあまりはっきりと顔が見えないが、コエルの口許にはにんまりと、それも大袈裟過ぎるぐらいの笑みを浮かべせていた。
そしてその表情のまま、顔面を九十度前方に向け、一言。
「殺してやりますわ…」
Oh…
国のお姫様としては決して相応しくない笑みと暴言が吐かれるや否や、両手から小さな光を生成し、それは大きくなるに連れ、やがて銃の形へと変貌。光が治まるとあっという間に、コエルの武器である『騎銃』が姿を現した。
迫り来る剛腕を前に、馴れた手付きでロックオン。拳と銃の距離が限りなくゼロに近づく寸前、トリガーが引かれた。
ダアン!という銃声が鳴るのに伴い、銃の先端部から出現した黒い魔法陣と拳とが正面でぶつかり合い、目映い閃光が辺りを照らした。
「くたばりなさい…!」
「グギャアアアッ!?」
瞬間的に巨大熊の腕が後ろに跳ね返り、身体ごと反対側の地面へ勢いよく倒れる。魔力が高いのは見てたが、まさか最高難易度のモンスターを吹っ飛ばすほどの威力だとは思わなかった。流石は魔力十万。
地響きが足の裏から伝染し、脳が微かに揺れる感覚を味わう中、俺がポカンとして見ていると隣のカトレアが目を見開いた。
「あの技は…ストライクシット!」
「いや…なんの話だよ」
「略してSS!ターン数が溜まると引っ張ってハンティィィング!する必殺の技よ…!まさかお嬢ちゃんが使えるなんて!」
「いや、あれただ撃っただけだろ!ターン数って何?」
カトレアがわけ分からん解説をしてる間にも、コエルはバランスを崩された巨大熊に間髪入れずに今度は指示を出す。
「ミーナ!殺ってしまいなさいっ!」
「は、はいい!」
返事と共にミーナが勢いよく飛び出ると、巨大熊へと走る途中で、
「あぅっ」
何もない所で普通に転ぶ。
その拍子にミーナの額が巨大熊の膝辺りにゴツンと鈍い音を立てて命中した。
すると―
「グワアアアッ!?」
巨大熊はいきなり苦しむような悲鳴を上げるではないか。
「やるわね~ミーナちゃん~」
「シュバリエさん…あれは一体どういうことなんです?」
「あれはね~運よ~」
「確かに高かったですけど、運だけであんな…」
「あそこをよく見て~」
シュバリエさんが指差す先、膝を注目するとうっすらだが黒い毛並みの中で青いコブのようなものができている。まさか、あれは。
「あれって…」
「そう~青短よ~」
そんな馬鹿な。
「ミーナちゃんは予め狙ったわけじゃなくて~たまたまあそこに当たったのよ~運さまさまね~」
「おっぱいさんの言う通りよ」
俺とシュバリエさんの間にカトレアが割って入る。お前「おっぱいさん」って呼んでるのかよ。
「青短に意図せず命中させるあの必殺技…あれは正しく、螺旋弾そのもの!」
「だからなんの話だよ!どんだけ必殺技好きなんだお前!」
「あれはチャクランを溜めることで出すんだけど、私的にはやっぱり手裏剣も捨て難い…」
「私の恐ろしさを思い知りなさいな!」
カトレアが何かを言い掛けてる最中でコエルの声が遮った。
見るとコエルは、倒れた巨大熊の青短に向かって銃を突き付け、何度もトリガーを引いていた。
「おーほっほっほっ!殺してやりますわあああ!」
Oh…
目に余る残酷な光景に、俺はそっと目を背けた。
「お見苦しいところを見せてしまいましたわね…すみません」
「うん。いや…別に」
「ま、良いんじゃない?倒せたことだし?」
カトレアが完全に沈黙した巨大熊型モンスター『ビック・ベア』を横目で見ながら言う。本当に倒せるとは思っていなかっただけに俺はさっきから驚きを隠せない。だがまあ、驚きといえば―
「それより~さっきのコエルちゃん、鬼さんみたいだったけど~?」
鬼のつもりか、両の人差し指を頭に生やすような真似で、俺より先に質問するシュバリエさん。いちいち可愛いなこの人。
その質問に同意を示す俺とカトレア。ミーナは知っているようだが…。
「それは、ですね…」
コエルは少し躊躇う素振りを見せるが、やがて周囲の反応を窺うように頷き、「実は…」と口を開き始めた、その直後―
「グワアアアッ!」
「な…」
突然響いた唸り声はなんと、倒されたと思われてた巨大熊のものだった。
血だらけの巨大熊は俯せの状態で、その時一番近くに居たシュバリエさんに牙を剥く―
「危ないですわ!シュバリエさん!」
「シュ、シュバリエさん…!」
「…!」
コエルとミーナの叫び声が辺りを占める中、一際間延びした声が俺の耳に届いた。
「全く…悪い子ね~」
「え」
そんな言葉を聞いた刹那。何かが高速で巨大熊の顔を通り過ぎた。
「グギャオオオ!?」
頭が潰され、身体だけとなったビック・ベアを背に、シュバリエさんはニッコリと笑う。
「ほら~鎧、役に立ったでしょ~?」
そうやって手に持つ鎧入り袋は、モンスターの血によって赤黒く染まっていた―
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