18 / 43
第十八話
しおりを挟む
「じゃあ、サク……おやすみなさい。」
「……あぁ。
凪こそ、もう休む時間だろう?」
凪は階段を上がりかけて、ふと思い出したように振り返る。
「サク……今日、昼間ぜんぜん寝てないよね?
ちゃんと休んでよ……?」
サクは困ったように目を細めた。
「……君が起きていたら、寝られるわけないだろう。」
「えっ……わ、わたしのせい!?」
「もちろん。
君を一人にして昼間寝るなんて……できるわけない。」
凪の胸がじん、と熱くなる。
「……じゃあ、その……
少しは寝てね……?」
サクはくすっと笑った。
「君の隣なら寝られるんだけど?」
「ばっ……! だからそういうのやめてってば……!」
サクは肩をすくめる。
「でも安心して。
睡眠をとらなくても身体は動く。
一カ月くらいは余裕だ。」
「そ、そういう問題じゃないよ!!」
部屋へ入ると、凪はベッドにぽすんと倒れ込んだ。
(……なんか……久しぶり……)
嵐の夜からずっと、
気づけばサクがいつも近くにいた。
その気配がふっと消えるだけで、
胸の奥にぽつんとした寂しさが生まれる。
「……サク……」
布団にくるまっても落ち着かず、
気づけば枕と毛布を抱えていた。
「……やだ……さびしい……」
そのまま勢い余ってリビングへ戻る。
「サク……!」
「凪? どうし……わっ」
凪はサクの胸へ飛び込んでいた。
「……さびしくなっちゃった?」
掠れた声が少しだけ笑ってる。
凪はぎゅっとサクの服を握る。
「……サクの……側がいい……」
サクの腕がゆっくり凪を包んだ。
その抱擁は静かで、落ち着いていて、安心する温度。
「……いいよ。おいで。」
凪はサクの肩に額を預け、息をゆっくり吐いた。
(あったかい……これだけで落ちつく……)
その時だった。
“コトン”
足元で何かが小さく鳴った。
「……え?」
凪が身をずらすと、
毛布の端の下から古びた金属の取手が覗いていた。
「……こんなの……あったっけ?」
サクが膝を折り、慎重に覗き込む。
「……床下収納じゃないな。
取手の位置が不自然だ。」
凪とサクは取手を引き上げ、
ぎい……と重い音とともに蓋が開いた。
中には古い金庫。
「え……なんで……?」
サクの目が細くなる。
封印を解いた金庫の前で、
静かに張りつめた空気が流れる。
凪が手をかけたが——
びくともしない。
「? なにこれ……鍵かかってないのに……」
サクが箱の裏側へ視線を向け、
低く呟いた。
「……な……ぎ……箱の後ろ……」
凪が身を乗り出す。
そして息を呑んだ。
朝見たばかりの——
サクの指輪と同じ刻印が、
金庫の奥にひっそりと刻まれていた。
「サク……これ。」
「……なんなんだ、この刻印……」
サクが触れた瞬間——
——パッ。
金庫に緑の光が浮かび上がった。
「え……?」
「は……?」
光は刻印のラインをなぞるように脈打ち、
生き物のように揺らめく。
「これ……なんかの術がかけてある……?」
「……古い術式だ。
人間のものじゃない……。」
凪は小さく息を吸った。
「サク……指輪……ここにかざしてみて……」
サクは凪を見て、一度だけ頷き、
指輪を刻印へ寄せた。
瞬間——緑の光が跳ね上がる。
——ビッ……!
金庫全体が淡く明滅し、
刻印が脈動するように強い光を放つ。
「サク……!」
「下がれ、凪。」
光が頂点に達した瞬間——
——カチリ。
内部で、固い封印が外れる音がした。
サクが目を見開く。
「……鍵が、解除された。」
凪の心臓がどくんと鳴る。
サクは金庫の前に膝をつき、
凪をそっと下がらせた。
「……私が開けよう。
一応、凪は下がってて。」
「う、うん……気をつけてね……」
サクは警戒を纏ったまま、
ゆっくりと蓋を開けた。
ぎ……と重い音。
そして——
「……大丈夫。
ただの書類だ。」
安堵の息が、サクの胸元から静かにこぼれた。
緊張がほどける空気。
凪はとことこと歩いてきて、
当たり前のようにサクの隣へ座る。
まるで——
“ここがいちばん安全”と、
身体そのもので示すように。
サクは思わず微笑んだ。
「……かわいいな。」
「サク?」
「なんでもないよ。」
サクは凪の頭をくしゃっと撫で、
金庫の中を指さした。
「……中、見てみようか。」
二人は肩を寄せ合い、
静かな夜の中で書類へ手を伸ばした。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「……あぁ。
凪こそ、もう休む時間だろう?」
凪は階段を上がりかけて、ふと思い出したように振り返る。
「サク……今日、昼間ぜんぜん寝てないよね?
ちゃんと休んでよ……?」
サクは困ったように目を細めた。
「……君が起きていたら、寝られるわけないだろう。」
「えっ……わ、わたしのせい!?」
「もちろん。
君を一人にして昼間寝るなんて……できるわけない。」
凪の胸がじん、と熱くなる。
「……じゃあ、その……
少しは寝てね……?」
サクはくすっと笑った。
「君の隣なら寝られるんだけど?」
「ばっ……! だからそういうのやめてってば……!」
サクは肩をすくめる。
「でも安心して。
睡眠をとらなくても身体は動く。
一カ月くらいは余裕だ。」
「そ、そういう問題じゃないよ!!」
部屋へ入ると、凪はベッドにぽすんと倒れ込んだ。
(……なんか……久しぶり……)
嵐の夜からずっと、
気づけばサクがいつも近くにいた。
その気配がふっと消えるだけで、
胸の奥にぽつんとした寂しさが生まれる。
「……サク……」
布団にくるまっても落ち着かず、
気づけば枕と毛布を抱えていた。
「……やだ……さびしい……」
そのまま勢い余ってリビングへ戻る。
「サク……!」
「凪? どうし……わっ」
凪はサクの胸へ飛び込んでいた。
「……さびしくなっちゃった?」
掠れた声が少しだけ笑ってる。
凪はぎゅっとサクの服を握る。
「……サクの……側がいい……」
サクの腕がゆっくり凪を包んだ。
その抱擁は静かで、落ち着いていて、安心する温度。
「……いいよ。おいで。」
凪はサクの肩に額を預け、息をゆっくり吐いた。
(あったかい……これだけで落ちつく……)
その時だった。
“コトン”
足元で何かが小さく鳴った。
「……え?」
凪が身をずらすと、
毛布の端の下から古びた金属の取手が覗いていた。
「……こんなの……あったっけ?」
サクが膝を折り、慎重に覗き込む。
「……床下収納じゃないな。
取手の位置が不自然だ。」
凪とサクは取手を引き上げ、
ぎい……と重い音とともに蓋が開いた。
中には古い金庫。
「え……なんで……?」
サクの目が細くなる。
封印を解いた金庫の前で、
静かに張りつめた空気が流れる。
凪が手をかけたが——
びくともしない。
「? なにこれ……鍵かかってないのに……」
サクが箱の裏側へ視線を向け、
低く呟いた。
「……な……ぎ……箱の後ろ……」
凪が身を乗り出す。
そして息を呑んだ。
朝見たばかりの——
サクの指輪と同じ刻印が、
金庫の奥にひっそりと刻まれていた。
「サク……これ。」
「……なんなんだ、この刻印……」
サクが触れた瞬間——
——パッ。
金庫に緑の光が浮かび上がった。
「え……?」
「は……?」
光は刻印のラインをなぞるように脈打ち、
生き物のように揺らめく。
「これ……なんかの術がかけてある……?」
「……古い術式だ。
人間のものじゃない……。」
凪は小さく息を吸った。
「サク……指輪……ここにかざしてみて……」
サクは凪を見て、一度だけ頷き、
指輪を刻印へ寄せた。
瞬間——緑の光が跳ね上がる。
——ビッ……!
金庫全体が淡く明滅し、
刻印が脈動するように強い光を放つ。
「サク……!」
「下がれ、凪。」
光が頂点に達した瞬間——
——カチリ。
内部で、固い封印が外れる音がした。
サクが目を見開く。
「……鍵が、解除された。」
凪の心臓がどくんと鳴る。
サクは金庫の前に膝をつき、
凪をそっと下がらせた。
「……私が開けよう。
一応、凪は下がってて。」
「う、うん……気をつけてね……」
サクは警戒を纏ったまま、
ゆっくりと蓋を開けた。
ぎ……と重い音。
そして——
「……大丈夫。
ただの書類だ。」
安堵の息が、サクの胸元から静かにこぼれた。
緊張がほどける空気。
凪はとことこと歩いてきて、
当たり前のようにサクの隣へ座る。
まるで——
“ここがいちばん安全”と、
身体そのもので示すように。
サクは思わず微笑んだ。
「……かわいいな。」
「サク?」
「なんでもないよ。」
サクは凪の頭をくしゃっと撫で、
金庫の中を指さした。
「……中、見てみようか。」
二人は肩を寄せ合い、
静かな夜の中で書類へ手を伸ばした。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
0
あなたにおすすめの小説
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
私の願いは貴方の幸せです
mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」
滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。
私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる